第79話 手遅れ
穴から出てきた白龍はとんでもなく長いから体をしていた。その代わり動きが遅い。カインさんも龍を見て笑い始めた。
「おい! あいつ動きがめっちゃ遅いぞ。こりゃあ楽でいいな。飛翔で切り刻むか」
「そうですね……これまでのパターンを考えると少し怖いですけど」
『『風の力よ、我が羽になりて我を地のくびきから開放せよ:飛翔』』
二人同時に空に飛び上がった。その瞬間龍がこちらをじろりと睨み口にとんでもない量の魔力を貯め初めた。
「カインさんやばいですよこれ、俺の全魔力の数倍の魔力の一撃ですよアレ」
「逃げるぞ。お前が開けた天井の穴から上層に逃げるんだ」
俺達は龍が魔力を充填仕切る前に一気に加速して俺が開けた穴を通り抜けた。
(主様よ! 避けられんゲートを開け)
ノータの声が頭の中に響いた。反射的にゲートを開きカインさんの腕を引っ張ってゲートに飛び込んだ。急いでいたので普段はアイテム置きにしている世界に入ってしまった。
「おい、何だよエルビス急にまた別世界に連れ込んだりして天井があったし大丈夫だろ?」
「それが正しい判断なのか出て確認しましょう。ノータ出ても大丈夫かな?」
(大丈夫じゃ、魔力が再充填される前に逃げるか倒すかせんと死ぬから気を付けてくれ)
俺は慎重にゲートから出た。ゲートの出口に龍の尻尾があった。俺達を探しているらしい。一度ゲートの中に戻った。
「どうだったよ?」
「まだ探していますね。ここで俺が魔法を発動してゲートをくぐりながら魔法を飛ばせば何とかなりそうです」
「なるほど、早くやってくれ」
『龍魔法:ダークスピア』
10メートルを超える龍が出現して口に魔力が充填される。そのまま龍が通れる大きさのゲートを作り出して一度ゲートの外を覗いてみた。未だに白龍は俺を探していた。そのまま頭に向けて魔法を飛ばした。
グルンとこちらを見た白龍はいきなりブレスを吐いてきた。俺の飛ばした太さ3メートルあるダークスピアとブレスがぶつかり均衡状態になった。
『龍魔法ダークバレッド』
白龍が必死に俺のダークスピアを押し返している間にサイドから大砲ほどある大きさの弾を射出した。
「KISYAAAAAAAAAA」
苦しそうにうめき声を上げながらダークスピアに撃っていたブレスをこちらに向けてきた。ブレスは6階層の天井を破壊して俺の方に向けられた。その瞬間遮る物が無くなったダークスピアが一直線に龍の頭へ直撃した。そのままスピアに押されて6階層の壁に串刺しになった。
「やったの! 主様よ。見てみよ。天井を……あの白龍のおかげで7階層どころか8階層まで見えておる」
壊れた天井から見えたのは見覚えのある教員塔の廊下だった。煉獄の門の防衛ラインを突破したようだ。
「ノータ、ゲートの奥からカインさん連れてきて事情説明しておいて、俺はあの白龍が生きてるか確認しとくから」
「任せておけ」
ノータがそのまま実体化してゲートの奥に入っていくのを見た後白龍に近づいた。頭にダークスピアが突き刺さったせいでぶらぶら垂れ下がった状態になっている。白龍の綺麗な鱗がてらてら光って綺麗だ。シルヴィにでもあげようか……
龍から鱗を引きちぎるとそのままゲートの中に突っ込んだ。
「なにしてんだ? 戦利品か? それは良いけど早く8階まで登るぞ。どれくらい時間が経ったかわからない」
カインさんに軽く説教を受けた後、すぐに8階層に向かった。
「教員塔ですね。少しいいですか? ヴァリオン先生の部屋を確認したいです」
「ああ、あの教師か。なんでだ? 煉獄の門に関係あるのか?」
「俺は一番怪しいって思っています。少し確認した後何もなかったらすぐに10階まで上りましょう」
「妾はヴァリオンとやらは別に怪しくもないと思うのじゃが」
ノータが教員塔を興味津々といった感じでキョロキョロしている。
「おお! 主様よ? ここではないか? ドアにヴァリオンと書いておるわ」
「まじか、すぐ行く」
ノータのもとまで向かいヴァリオンと書いておるのを確認して中に入った。部屋の中には書類が大量に散乱しており整理整頓したい欲に駆られ初めた。
「おー随分きったねぇ部屋だな何だこれレポートか? 生徒のやつだな。これくらい丁寧に扱えよ全く」
カインさんからも汚いという評価が下された。
「うむ、ベッドも男臭いのぅ本棚にも書類が突っ込んであるし本当にひどい部屋じゃ」
ノータが荒れ果てた机に手を置いて部屋を見渡し始めた。その手元には見覚えのある日記帳が置いてあった。
「それだ!」
急いで駆け寄り中を覗いた。
『生徒たち
十人十色、
笑う子も辛そうな子も
みんないてみんな良い』
………何だこれ、未来の事とか黒錬金術のこと書いてるんじゃないのか?
「これは……ポエム集かの? よくわからんが、これでヴァリオンとやらの持っていた日記は主様の敵視している人間である可能性は減ったの、じゃから言ったんじゃ怪しくないと思うぞって」
「んで? エルビスよお前ここにポエム集見に来たのか? 目的が違うんじゃないか?」
カインさんが急いでいる状況で今回の件とは関係のないポエム集を読み上げた俺を見て少し怒っていた。
「すみません。急ぎましょう。犯人がヴァリオン先生だろうがそうじゃ無かろうが上に行けばわかりますもんね」
八階から上は元の教員塔だったのですぐに10階までたどり着いた。ここにあるのは校長室と客室だけだ。
「まずは客室から見ましょう。とを開けます。準備はいいですか?」
「ああ、良いぜ。3、2、1で開けろ」
「3,2,1」
ゼロと同時に部屋に転がり込んだ。すぐに立ち上がり部屋を見渡す。そこにはサレンさんがいた……手遅れだったようだ胸には大きな穴が開いている……呆然としている俺を無視してカインさんが近づいた。そして目を見たり手を触ったり調べ始めた。
「死後、3~4日といったところだな」
3日4日前と言うとクラス対抗戦があった日辺りだ。クラス対抗戦の日に精霊の涙を渡していた。
「主様が精霊の涙をヴァリオンとやらに渡したことで事態が進んだんじゃな。アレがないと煉獄の門は完成しないからの」
「俺のせい……」
俺はサレンさんの方に近づく。途中ノータが肩を貸してくれた。サレンさんの前にたどり着くと俺はしゃがんで手を触った。彼女の手は氷のように冷たかった。
「ノータ……回復の秘術は使えないのか? 神の制限とやらは解除できないのか?」
「6年前の主様ほど感情は荒れ狂っておらんし人死もまだ少ない今の状況では無理じゃろうな」
「くそ!」
俺は怒りに任せ思いっきり床を叩いた。
「おい! エルビス。隣にこの事態を引き起こした犯人がいるかも知れないんだぞ。静かにしろ」
「そんなものどうだっていいでしょう? いたならいたで俺の友人を殺した報いを受けてもらうだけです」
カインさんが俺の方に歩いてきて頬を叩いてきた。乾いた音が部屋に響いた。
「お前の気持ちはわかるさ友人が殺されたら冷静じゃいられないことくらい。でもなそれでもっと多くの人が死ぬ可能性があるんだぞ! 今は一回落ち着くべきだろ」
「すみません……でも落ち着くなんて無理です。早く校長室に行きましょう」
「エルビス、お前は俺の後ろにいろ、前には出るな今のお前には前衛は任せられない」
「ノータとやらエルビスが前に出ないように抑えてくれ、お前も主が死んだら嫌だろ?」
「そうじゃなわかった。その代わりこの鏡を使っておけ」
ノータがどこからか新品の保存の鏡を取り出した。
「今は回復の秘術は使えないって言ってただろ? なんで使わせるんだ?」
「この後必要になる場面が来るかもしれんじゃろ?」
「こんな老人用の道具何に使うんだよ……」
困惑した表情のカインさんは渋々保存の鏡を使用した。
「これで準備万端じゃの、さぁ気を引き締めて突撃じゃ」
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