第75話 緊急事態と間一髪

 侵入した教員塔は大きく変貌していた。壁中に魔法陣が張り巡らされており、構造が外見と違いかなり広く迷宮のようになっている。


「どうやら煉獄の門っていうのは本当らしいな、あのドラゴンはこれを止めに来てたのか……申し訳ないことをした。エルビス、いいなここは既に魔法陣によって構造変化している例えばここにある扉」


 カインさんは話しながら扉を開けた。その先には塔の構造ではありえない大部屋があった。


「こんな感じで外見に囚われてはいけないんんだ正直俺にもどこが2階に続く扉かわからない。煉獄の門も完成間際らしいなここまで構造が変わったら一番上まで行くのに3日は掛かるぞ。一回食料確保してこよう」


 そう言ってカインさんは後ろを振り返った。先程入った塔の入り口は既に消えていた。


「くそ、やられた。行くぞエルビス。上に上がるんだ」


 カインさんが先ほど開けた扉を締め塔の内部とは思えない長い50メートルくらいある廊下を突き進み始めた。


「カインさん俺が食料を持っているので分けます」


「そうか……いろいろすまねぇ」


「まぁカインさんですからね」


「何だそれ……お前は俺を英雄視しないんだな昔に戻った気分だぜ」


 そりゃあ、時間を巻き戻す前カインさんの弟子みたいなことしてたからな。カインさんが覚えていないのは悲しいが仕方ないまさかまた会うことになるとは思っていなかったからな。


「おい! エルビス……気をつけろ」


 カインさんが指差した地面が黒くなりそこから魔物が湧き出てきた。しかも通常の魔物ではなく黒魔種だった。


『斬撃波:火』


 湧き出てきた黒い狼が完全に地面から出る前に火の魔法を纏わせた斬撃波を直撃させた。


「ナイスだ。まさか剣圧に魔力を限界を超えて付与して切り離す事で魔法属性斬撃波を撃つとは……やるな」


 時間を巻き戻す前のカインさんはここまで理解できていなかったはずだ。俺が知っているカインさんより数段成長しているらしい。


「カインさんは全然焦ってないですけどなんでですか?」


「ははっそりゃそうだろ。煉獄の門には絶対に必要な触媒が複数ある。一つ、精霊の涙と呼ばれる、超物質だ。あれがあれば死人が生き返るほどのエネルギーを回収できる」


 俺の体から冷や汗が流れ出す。まさかまさか……一つだけだよなうんそうに決まってる。


「2つ目これまた難しい、竜のうろこだ」


「……カインさんさっき火竜エグドラスを倒しましたよね……」


「あ。い、いやいやまだ大丈夫だ。精霊の涙を仮に元々持っていたとして、ドラゴンの鱗をそこから剥ぎ取ったとしても未来視能力者の心臓が必要だ。こんな希少な人間そうはいないだろ?」


「……サレンさんが危ない……いや今日見てないぞ? もしかしていやまさか」


「どうした? あとは、魔眼の持ち主の目は錬金術に非常に強い効果を付与したり恩恵が多い、これもなかなか手に入らない、これだけ揃えないといけないんだぞ? 無理だろ?」


 カインさんの話は半分以上聞いていなかった。二人が危ない、いやもう遅いのかもしれない。


「カインさん早く上に行きましょう」


「なんでだよ、ドラゴンの鱗だけがあったってしょうがないだろ? 時間はある」


「違うんです。俺は精霊と契約していて精霊の涙を数日前に学校に寄付しました。そして未来視能力者と魔眼の持ち主はうちの学校に在籍しています」


 カインさんの顔が真っ青になる。冷や汗もダラダラ出ている。


「おま、なんでそれ早く言わないんだよ! 早く上がるぞ。急げ時間がない」


 俺とカインさんは直線の廊下を走り分かれ道に付いた。


「くそ、どっちだ? 右行くぞ」


 右に曲がった瞬間背後と正面に魔物が湧いた。ロックウルフだ。岩のように硬い皮膚と土属性の魔法を使う魔物だ。


「エルビス避けろ」


 声に反応してその場から回避すると元いた場所に鉄の槍が出現していた。少し遅かったら串刺しにはならないだろうがしばらく動けなかっただろう。


「カインさんは前を俺は後ろをやります」


「任せろ」


 カインさんと背中合わせになり、俺は目の前のロックウルフに魔法を撃つことにした。


『子龍魔法:ダークバレッド』


 地面をボコボコえぐりながらロックウルフに魔法が被弾した。ロックウルフの体についていた岩が吹き飛び素肌が顕になった。


「GARUUUUUUUU」


 ロックウルフが飛びかかってきたので回避して思いっきり剣の腹で叩いた。そのまま吹き飛び壁に激突した。同時にカインさんが剣でロックウルフを切り倒していた。


「さぁ、進むぞ! 急ぐんだ。全ての素材が揃ったらあとは詠唱だけだ。神話では詠唱に2日は掛かっていた。魔眼の持ち主はいつ最後に見た?」


「数時間前です」


「ならギリギリか? 急ぐぞ、走れば2日で最上階まで行けるぞ」


 俺が一歩足を踏み込んだ瞬間スイッチ音がした。遠くの廊下から一定のリズムで何かが飛び出る音がしている。振り返ると地面から針が飛び出て天井に突き刺さっている。そしてどんどんこちらに近づいてきている。


「やべ……」


「おい! エルビスお前何してんだ!」


 二人で廊下を全力で走り始めた。途中の廊下で地面から黒いシミが広がり魔物が出現したが針に串刺しにされて死んでいった。


「おい! エルビス、前向け後ろ見てたら死ぬぞ。あそこの大扉に飛び込むぞ」


 俺とカインさんは扉に飛び込んだ。飛び込む瞬間靴に針が当たり持っていかれた。

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