第74話 カインさんの失敗
ノータの説明を聞いてテンペル山に住む火竜エグドラスは深くうなずいた。
「そうじゃ、あの邪悪な魔法陣がなぜあそこに存在するかわからぬがあれをなんとしても破壊しなくてはならぬ。貴様が煉獄の門の関係者でないなら我に協力しろ……そうすればこれ以上無駄な命は奪わぬ」
「わかった。だが奪った命を返してくれないか? 俺がスキルで生き返らせられない」
「スマヌがそれは無理じゃ……既に魂は願いを叶えるエネルギーに変換された。それも人を生き返られる程度に溜まってはいない、もし儂が失敗した時にあの魔法陣に奪われる命を少しでも減らすために持ってきたのだ。簡単に人を生き返らせられるものは持っては来ない」
そうか……時間を巻き戻すか? 命を対価に……正直それは嫌だ。俺だって簡単に命を投げ出すようなことはしたくない。死んだものには申し訳ないが許してくれ。少なくとも身近の人間の誰かが死んだりしない限り使うことはないだろう。知らない人に命を使うほど聖人君子ではない。
「わかった。その魔法陣を破壊しよう。協力はする。その代わり無駄に人の命を奪うな」
「ふむ、いいだろう。しかしあの魔法陣を破壊しなくてはお前の学園の生徒が死ぬのには変わりがないぞ」
「わかってる」
俺たちはそのまま再び元の世界に戻ることにした。戻る直前ノータが俺に一つ忠告をしてきた。ディーネが俺に話さなかった回復の秘術の制限についてだ。
「主様よ、これはおそらくディーネも伝えておらんじゃろうが、現時点で主様が回復の秘術で人を生き返らせたり時間を巻き戻すことはできぬ。回復の秘術による時間干渉や命への干渉は神から強い制限を受けておる。以前それでも時間を巻き戻せたのは神の制限を無理やり破壊できるほどの感情に駆られて追ったからじゃ、つまり今の主様には使用不可じゃ」
「いや、スキルの詳細には書いていなかっただろ?」
「そりゃあ嘘はついていないじゃろ? 実際にシルヴィとの失われた時間とか言うかなり無理がある理由でスキルを発動しておったじゃないか。そもそもあのスキルは神の制限さえ突破すれば万能じゃ。命を魂を奪われたなんて言い方の問題じゃろ? 奪われたも失ったも意味はほぼ同じじゃ、結局あの時シルヴィは命を失っておったんじゃからスキルが発動できないわけがないじゃろ?」
それは俺も思っていた。見方や言い方の違いだろと、あの時シルヴィは確かに命を奪われていたが、失っていたとも言えるのだからスキルは発動できたはずだ。
「あの時は神の制限が命を奪われたという理由をつけて回復の秘術でのスキルの発動を却下に過ぎん。そこでシルヴィを生き返らせられないと絶望した主様の感情が神の制限を突破したから回復の秘術を発動したんじゃ。全く同じシルヴィを生き返らせるという理由でスキルを発動してもスキルは発動してあの場でシルヴィは生きかえておったじゃろう。まぁあの状況でその選択肢を取っていたら死んでおったから時間を巻き戻して正解だったんじゃが」
「ノータの言いたいことはわかった。よく覚えとくよ。ところでなんでそんな見てきたかの様な言い方してるんだ? ノータはいなかっただろ?」
「主様よ妾がディーネと同一の存在だったということを忘れていないかの?」
ノータの言葉を聞いた瞬間俺は元の世界に戻ってきた。先に戻っていた火竜エグドラスは塔を攻撃していた。そして既に学園に生徒はいなかった。転移前に攻めてきていた魔物たちはいなくなっていた。誰かが倒したんだろうか?
「おう! あの時の……えっとエルビスだったか? ここで何してるんだ?」
声がした方を振り向くとカインさんがいた。時間を巻き戻したせいでカインさんは俺を覚えてはいないが……
「あ、あの塔にあるれんご」
「少し待つのじゃ! 主様よ……あの魔法陣の話はできるだけせん方が良い」
「なんだ? よくわかんねぇけど少し待ってろあのドラゴンを倒してくる。お前がやったのか? もう瀕死じゃねぇか」
そう言って俺が止める暇もなく地面を強く蹴り飛び上がった後、火竜エグドラスの首を切り落とした。エグドラスの頭が大きな音を立て地面に落ちた。
「ふぅ、ナイスアシストだ。エルビス……やっぱりお前は強いな、いつか一緒に冒険ができたらいいな」
「カインさん……彼は、その竜は教員塔にある煉獄の門という魔法陣を破壊しに来たんです。殺しちゃだめだったんですよ」
俺が出した悲痛な声は誰もいない潰れた校舎に響いた。俺の言葉を聞きカインさんは後ずさる。
「煉獄の門だと……そんな神話の時代の魔法陣が本当にあるのか?」
自分のやらかしたことの重大性に気が付き若干放心中のカインさんが俺に問い詰めてきた。
「その竜が言うにはあるらしいです」
「そうか……じゃあ俺が破壊する……自分がやっちまった事は自分で尻拭いをする」
カインさんは教員塔に歩き出したが、教員塔を守る魔法陣に阻まれ中に入れないでいる。
「カインさん! 俺も付いていきます」
俺とカインさんは教員塔に入った。この先に何が待ち受けているとも知らず。
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