第70話 黒ローブの男の正体

「Dクラスの人達みんなどこかに行っちゃったね。さすがエルビス! 旗取りゲームみたいだしあの旗取りに行こ?」


 シルヴィがDクラスの旗に向かって歩き始めた。


「主様よ。この剣一回、回収するのじゃ。剣を振っただけで衝撃波が出るなんて想定外だったのじゃ……」


 俺の手から黒色の刀が消えた。全く……普通の剣は殺傷力が高いから駄目って言ったのにもっと威力の高いものを作り出してどうするんだ。そんな不満を抱えながら、俺は青色の旗に歩いて旗を抜き取った。


「この旗どうするんだ?」


「わかんない……持っとけば良いんじゃない?」


 俺とシルヴィが奪った旗を持って困惑していると、さきほど俺に文句を言ってきたラルフがこちらに来た。


「お前らか、よしその旗を寄越せ。クラスリーダーの俺が預かる」


「そうか……それは良いけどルール教ええくれないか?」


「は? ルールも知らずに旗を奪っていたのか……呆れたぜ。時間もないからサクッと説明するぞ。この旗取り合戦はポイント制だ。各クラスのシンボル旗が50点だ。各クラスは最初から50ポイントは持っている状態で始まる。他のクラスから奪えば50点加算奪われたら0点だ。他にもクラスリーダーを倒すと10点。他の生徒を倒せば1点だ。簡単だろ……ウチのクラスは既にSクラスに旗を取られた。お前が得点を稼いでくれ。じゃあな」


 説明を終えたラルフは立ち去っていった。


「じゃあ、エルビス! 生徒をいっぱいぶっ飛ばそう!」


 ルールを聞いたシルヴィが張り切って歩き始めた。


「そうだな……適当に森の中を歩いて出会った生徒を倒して他クラスの拠点に遭遇したら旗を奪い取ろう」


「うん!……エルビス。人の気配がする」


 急に魔法を打つ準備をするシルヴィ、俺も周りを警戒すると木の裏や茂みに少なくとも10人以上いるのが分かった。


「隠れてないで出てこいよ」


 俺がそう言うと木の裏や茂みの中からかなり濃密な魔力をまとった10人が出てきた。


「俺達に気がつくなんて流石入学式のサバイバル戦で新入生たちを蹴散らしただけはあるな、あの時の借り返させてもらう」


 そう言って俺達を取り囲んだ生徒たちが詠唱を初めた。


『中龍魔法:ファイアーレイン』


 俺はとっさに龍魔法を唱えた。3mを超える龍が口から空に火を放った。そのままサバイバル戦の時に使った方法と同じ要領で森にいるすべての生徒に火の雨を直撃させた。


 だが俺の周りにいる生徒は風の障壁や岩の障壁などで各自防御をしていた。


「ふふふ、以前と同じ手は喰らわないさ。俺達Sクラスは対セルビスの為に練習していたんだ。半年もクラス線に参加しなかったのは許せないが今度こそお前を倒す。みんな撃て」


 詠唱を終えたSクラスの生徒が俺に色々な魔法を飛ばしてきた。火矢、水球、水槍、石つぶて、風の刃色々飛んで来る。


「エルビスまかせて!」


 シルヴィが無詠唱で水のドームを作り出した。飛んできた火矢は威力を落とし俺の足元に落ち、水球は水の盾に吸収され石つぶてはそのまま弾き飛ばされ風の刃はドームに当たりどこかに飛んでいった。


「ありがとう! シルヴィ」

 その瞬間頭の中にノータの声がした。


「主様よ、闇の刀新しいの作ったのじゃ。使ってくれ」


 俺の前に漆黒の刀が出てきた。刀には刃がなく軽く振ったが魔力が飛んでいくこともない。ノータが作り出した刀を持った瞬間スキル剣圧が自動発動した。その瞬間スキルの効果で周りの生徒の位置を完全に把握した。そのままリーダー格の生徒に向けて剣圧に闇属性の魔力を付与して斬撃波として飛ばした。


 斬撃波に当たった生徒は吹き飛んで木に激突した。スキル剣圧は剣のスキルであるが今飛ばしたのは魔力を付与した剣圧だから魔法学校のクラス戦で使っても大丈夫だろう。多分!


「シルヴィは剣圧が貯まるまで時間稼ぎをしておいてくれ」


 俺は、そう言いながら再び魔法を付与した斬撃波を飛ばし一人倒した。1秒あれば、斬撃波として飛ばすくらいの剣圧と魔力は貯まる。本来剣圧は飛ばすものじゃない、俺が剣に満たした剣圧に過剰付与した魔力が剣を振った時に剣圧ごとまとめて一緒に飛んでいっているだけだ。


「な、なんだあの魔法……あんなの教科書に無いぞ……リーダーも倒された撤退だ!」


 Sクラスの生徒が逃げようとした瞬間30mくらいの巨大な火のドームが俺達を取り囲んだ。


「エルビス! Sクラスの生徒が逃げられないように捕まえた! あとはよろしく」


 シルヴィが機転を利かせてくれたおかげで生徒を逃さずにすんだ。


「くっ、もうやるしか無い! あの転校生を倒せ。そうすれば逃げられる」


 赤髪の生徒が他の生徒に指示を出した瞬間、俺は、その生徒に斬撃波を飛ばした。赤髪の生徒刃弾き飛ばされシルヴィが作った火のドームに焼かれた。


 その光景を見て一つ思いついた。俺は、手加減のスキルを使ったあと子龍魔法で

 俺とシルヴィを中心に外向きの風を吹かせた。するとSクラスの生徒は風に押されシルヴィの作った、火のドームに近づいていく。じわじわと風に押されている生徒が泣き始めた。


「や、やめてくれ! 降参だ! 降参するから押すのは嫌だぁ熱い熱い!」


 降参の声が八人分に超えたので俺は風を吹かせるのをやめた。その瞬間終了の鐘が流れた。コイツラが最後の生き残りだったようだ。最初に撃った龍魔法で殆どの生徒はKOされていたようだ。


「エルビス。教室に戻ろ?」


「そうだな」


 クラス戦が終わったので教室に戻ると誰もいなかった。ヴァリオン先生以外……


「やぁおかえり。無事なのは君たちだけか。いやいやびっくりしたよ。突然落ちてきた火の雨に当たって一年生のほとんどが倒されたんだ。うちのクラスもボロボロさ……集計が終わるまでクラス戦の結果はわからないけど絶望的だね。旗も取られたし」


 どうしよう……それやったの俺です。シルヴィが俺をじっとっとした目で見てきた。先生は犯人に心当たりがあるようで、俺をニヤニヤした顔で見てくる。


「あ、そう言えば精霊の涙校長先生喜んでたよ。あとあの日記すごく興味深いと言うか結構問題になることが書いてあったからね。君は読んだかい」


 どうやらこれが本題らしい。正直に言わないほうが良い気がする。


「いえ、読んでないです」


「そうか……良かったよ。じゃあ私はここで……他の生徒も見なくちゃいけないからね」


 そう言って立ち去ろうとしたヴァリオン先生の脇に抱えていた書類の中から豪華な装飾が付いた黒い本が落ちた。それは、この間ヴァリオン先生が落とした日記帳……6年前に村を襲った黒ローブが持っていた日記帳だったのだ。


「おっと、いけない落としてしまった」


 そう言って大切そうに日記帳を拾ったあと、ヴァリオン先生は立ち去った。ヴァリオン先生が黒だったのだ。教室にはヴァリオン先生が歩き去っていく足音だけが聞こえている。


「エルビスどうしたの?」


 俺の険しい顔を見てシルヴィが心配そうに様子をうかがってくる。


「シルヴィ……今日は帰ろう」


「ん? 分かった」


 俺は6年前に村を襲った黒ローブの事だけを考え俺達は帰路に付いた。

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