第68話 ビーフシチュー
帰ってきた場所は、学園内の俺の家の前だった。家の電気は付いている。どうやらシルヴィとディーネはいるようだ。
「そう言えばノータはディーネと仲悪いのか?」
「ん? なんでそんな風に思ったか分かぬが元々同一個体なんじゃから仲が悪いなんてことあるわけなかろうが」
確かに……言われてみたらそうだ。じゃあ家に帰るか……家の扉を開けようとすると俺が開けるより先に扉が空いた。
「エルビス! よがったよ~急に消えるから心配したんだよ」
シルヴィが俺に抱きついて来る。く、首が締まってる……
「ま、マスター、ノータに誘拐されていたんですね」
「ひさしぶりじゃのディーネ、妾も主様と契約したのじゃ。これからよろしゅうの」
「はい、よろしくおねがいします」
ディーネが不機嫌な声で挨拶をする。あれ……仲悪いなんてことは無いって聞いてたんだけど……
「まぁいいや、疲れたから寝るみんなは親交でも育んでくれ」
「あ、エルビス! 私も一緒に寝る」
「駄目だ。シルヴィはこのティラノの世話でもしておいてくれ」
「な、何この子……かわいい! ティラノって名前なの?」
「いや、まだ決めてないけど……というかオスかメスか知らないんだけど」
「私達みたいな、精霊以外は基本的に性別はないですマスター」
「じゃあどっちにも取れる名前にしようかな……取り敢えず家に入ろうぜ。家の前で寒いし」
俺達はリビングに向かった。俺は早く寝たいのでティラノの名前を早く決めたい。シルヴィはティラノを気に入ったようでぬいぐるみのように抱きしめている。
「うーんレオとかでいいか眠いしな」
「私、ポンタがいい」
「は? ポンタ……たぬきみたいな名前だな。まぁシルヴィがそう言う名前を付けたいならポンタでいいよ」
「GYAOO」
うむ、ポンタも喜んでるし、ポンタでいいや
「マスター料理を作ったんですけど……いりませんか?」
「私も作ったの! 食べてよ。ビーフシチューだよ」
シルヴィがポンタを抱きしめてそう言った。そしてディーネが鍋を持ってきた。紫色の液体が入ったビーフシチューの様だ。いつか俺が好きだと言ったのを覚えていたのだろう。ビーフシチューは紫じゃないけどね。寝ていいかな……
「あ、ノータ。食べていいぞ! どうだ? 美味しそうだろ」
「あ、主様よ、これはあんまりではないか? こんな、どk……おほん、こんなに美味しそうな色をしたビーフシチューは見たことがない。是非一緒に食べよう。なんなら主様一人で食べても良いのじゃ」
「バカ言え。これは、ディーネ達がお前を迎えるために作った料理に決まってるだろ? 歓迎されたやつが食べるべきだ。全部な!」
「主様よ。思い出してみるといい。ディーネは私がここに来た時、私が主様と一緒にいることを知らなかった様な発言をしていたではないか……つまり妾に作ったビーフシチューなどではないのじゃ」
「じゃあ俺からのプレゼントだ。頂いてくれ……いや命令だ!」
「くっ……分かったのじゃ。いただきます」
ノータがスプーンを手に取るが鍋に手が近づくほど手が震えていく。そしてスプーンでビーフシチューをすくい口に運んだ。
「うん、美味しいのじゃ」
笑顔でノータが倒れた。そして痙攣を始めた。やはり毒だったか! 色が毒のそれだもん。
「さ、エルビスも食べようね」
シルヴィがスプーンを持って俺に接近してくる。
「い、いや。ノータが倒れたの見てないのか? それはやばいぞ。先にシルヴィが食べたら俺も食べよう!」
「分かった! いただきます」
シルヴィは躊躇無く紫色のビーフシチューに手を伸ばした。そして一口頬張った。
「美味しいよ! さあ! エルビ……」
シルヴィもノックアウトしたようだ。
「ディーネ……そのビーフシチューどうするんだ?」
「あれ? マスターが食べるのでは?」
「ディーネ味見したか?」
「いえ……してません。何か問題がありますか?」
「あるだろ……味見してみろよ。人に食べさせる前に自分で味見するんだ。ほら食べさせてやるから」
「マスターが食べさせてくれるなら食べますけど……」
俺は、ビーフシチューにスプーンを伸ばしビーフシチューを掬うとディーネの口に持って言った。
「いただきます」
ディーネはビーフシチューの中にあった巨大な肉を食べた。
「おいふぃでふ」
「さあ、マスター……マスターの番です」
ディーネが俺にスプーンを持って近づいてくる。このまま3人ノックアウトにして、ビーフシチューを文字通り闇の中に葬ろうと思っていたのにディーネが馬鹿舌だったようだ。
「ま、待てディーネみんなを見ろ。そのシチューは劇物だぞ」
「何を言っているんですか? 私は普通に食べられました。他のみんなは美味しさのあまり気絶したんですよ。マスターも食べればわかります」
「やめろ……やめ……」
ディーネに無理やりビーフシチューを食べさせられた俺の意識は暗闇の向こうに消えた。
翌日、台所を見ると、くまでも食べれば気絶するというきのこが置かれていた。味は美味しかったのに気絶するからおかしいと思った。このきのこは俺が封印しておこう。
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