第66話 試練

 俺を殺そうとした、光の戦士は30分ほどして目を覚ました。


「お、おい。離してくれ! こんなに縛られて引っ張られては死んでしまう」


「いや、死なない速度で進んでるんだ。問題ない気にするな」


「俺が気にしないで誰が気にするんだ! ふざけるな、ボケがぁ」


 俺は、ティラノの動きを止めさせる。


「何だうるさいな、お前が誰の差し金で、ここまで来たかちゃんと話せば、待遇をよくしてやってもいいけど」


「は、話す! お前は躊躇無く人を殺しそうだ。さっさと話す。その代わりちゃんとした対応をしてくれ」


 冷たく対応して情報を引き出す作戦はかなりうまく行った。後はこいつから誰の差し金か聞くだけだ。


「で? 誰の差し金だ」


「あぁ、 俺達の族長ラーグ様だ。外からの異邦人を侵略者と言って殺すように命令された」


「そうか……で? どこにいる」


「それは言えない。それを言えば俺は殺される」


「まぁ、いいや。あれだろ? お前らの村」


 俺の視線の方を見た光の戦士は具合の悪そうな顔をし始めた。


「ま、待て。何をするつもりだ。まさか村を滅ぼす気……」


「いや、対話だよ」


 俺の視線の方向にある村は、かなり大規模の村だ。建物が周りの風景とは比例していない。普通に木造建築2階建てが多く建っている。そして、村の方から大量の人影がこちらに向かってきている。


「そこで止まれ異邦人、それ以上の侵略は許さんぞ」


 俺の目の前に立ったのは、俺が背後で縛り付けている光の戦士と寸分違わない戦士50人だ。


「は? おい、お前がたくさんいるぞ」


「私は閃光の戦士と言う種族の精霊だ。故に同じ種族の精霊は、ほぼ全員同じ形状だ」


「は? 聞いてないんだが」


「言ってないからな」


 仮面で見えないが、ニヤッとしているんだろう。


『ダークデコイ』


 俺の周囲に敵と同じくらいの数のデコイを生んだ。それをそのまま突撃させた。


「突っ込んできたぞ! 迎撃」


 俺のデコイに向かって光の槍を飛ばしまくる光の戦士達


「みんな! それはただの影だ! 本体はお前らの後ろにいるぞ!」


 俺が捕まえた光の戦士が声を張り上げるが戦闘音にかき消された。そして俺は予定通り集団の背後に回った。


『子龍魔法:闇の巨兵』


 魔術支配は本当に便利だ。既存の魔術理論を完全に無視して通常では再現不可能な魔法を生み出す。龍魔法を経由しなくてはいけないのはもう諦めた。


 それでも十分強い。俺が生み出した闇の巨兵が手を振り光の戦士たちを薙ぎ払った。この世界に来て闇魔法の有用性に気がついた。今まで馬鹿みたいに物入れとしてしか使わなかったのがもったいない。


「敵は闇の使徒だ。全軍、闇の使徒を取り囲め」


 俺の周りにまだ怪我をしていない光の戦士が集まった。


「やつは魔法使いだ。近接攻撃で倒すぞ」


 俺の方向に一斉に光の槍が飛んでくる。だが、俺は普通に避けた。黒魔種の攻撃以下程度の速度しかでていない。これに当たれと言う方が無理だ。


 俺が攻撃を避けている間に闇の巨兵が光の戦士を薙ぎ払い続け、ついに一人になった。リーダー格の戦士だ。鎧も少し豪華だ。


「ば、バケモノ。こっちに来るな」


「やだなーちょっとお話がしたいだけですよ」


「ひっ、や、やめてくれ俺には家族がいるんだ。ここで死ぬわけにはいかない」


 光の戦士が情に訴えてきた。


「族長の所まで案内するなら殺さないが……」


「わ、分かった。する案内させてもらう」


「そうか……じゃあ頼む」


 俺が背中を見せた瞬間、背後から殺気を感じた。


「ハハハ、馬鹿め敵に背中をみせるなん……」


 俺を攻撃しようとした光の戦士は闇の巨兵の手のひらに潰された。あ、やば……殺しちゃったかもしれない。巨兵が手を持ち上げた後には何も残っていなかった。


「殺っちゃった。殺さないようにしてたのに……」


「ホッホッホ。大丈夫じゃよ、光の戦士はただの精霊。時間が経てば自然に復活するじゃろ」


 背後にいたのは体から光を放った老人だった。鎧は着ていない。


「お前が族長か?」

「そうじゃ」

「そうか、じゃあ俺に戦士を差し向けた敵だな」


 俺は、剣を構え戦闘態勢に入った。


「ま、待ってくれ。儂は頼まれただけじゃ。この世界の神にお主の『条件』を達成させる手伝いをしろとな」


 おやおや? これもあの声の主の仕業だったのか。それにしてもその神はどんな力を持っているんだ? この世界を作ったと言っていたから、あの声の主がこの世界の神なのは分かるが


「ふむ、儂が見た所、『条件』まであと一歩と言った感じかの。ではこういうのはどうじゃ?」


 老人が指を鳴らした瞬間、太陽の光が一点に集約し始めた。そしてだんだん人の形を形成していく。


「まだじゃ」


 そう言って今度は雷雨を作り出した。その雷は人型のなにかにまとわり付き雷雨から出てきた人型の何かは、雷を纏いこちらに飛んできた。


『子龍魔法:ダークホール』


 ブラックホールをイメージした闇の穴を作り出した。そのままアホみたいに、人型の何かはダークホールの中に入って行った。そのままダークホールを閉じた。


「お、お主……それでは修行にならんじゃろ」


 老人がどん引きしている。めんどくさいからダークホールを作ったんだけど駄目だったらしい。


「も、もう一度作るから待っとけ」


 老人が再度作るのを待った。数秒で同じモンスターを作り上げた。


「行け、雷人本気で攻撃するのじゃ」


 雷人がこちらに雷のようなとんでもない速度で走ってくる。超加速を使い回避したが雷人が振った手から電気が走り俺に当たった。


「あだだだだ、あ、危ないな。普通の人間なら死んでるぞ!」


「ほれ、闇魔法でもなんでもいいから体をコーティングして雷から身を守るのじゃ」


『子龍魔法:ダークコート』


 もう魔力が殆どない。剣で切り倒せるかな? 斬ったら感電しそうだ。


「ほれ、この草を噛め。少しだけ魔力が回復する」


 老人が俺にそこら辺に生えていそうな雑草を渡してきた。


「これが毒じゃない保証は?」


「神が試練を与えた人間を殺すわけなかろうが。そんな事をしたら儂らも死ぬ」


 老人が必死にそう言ったので渋々噛むと多少魔力が回復した。本当だったらしい。


「ほら、回復したなら続きじゃ、雷人動いていいぞ」


 どうやら雷人の動きを止めてくれていたらしい。俺は、剣に闇を纏わせ電気を通さない様にした。


 雷人の拳を避け雷人の体を剣で斬る。雷人の体の電気量が少し減った気がする。俺は超加速を使い続け雷人はそんな俺の速度に平気でついてくる。雷人の攻撃を喰らうたびにこちらのダークコートも削れていく。


 雷人の振った横薙ぎ攻撃をしゃがんで避け、そのまま雷人の足を斬りつける。一瞬バランスを崩した雷人の胸に剣を突き立てた。それでも痛みは感じないようで尖った爪で俺の体に攻撃をしてきた。その攻撃でダークコートが完全に剥がれた。


「やっべ、こいつ死なないぞ、爺さん!」


「大丈夫じゃ、あと一撃よ」


 俺と老人の会話のスキを付いて雷人がギリギリ目視できる速度で突っ込んできた。反射的に剣に纏う闇を切り離し斬撃波と合わせて飛ばした。


 見事に直撃した雷人は煙のように霧散した。


「はぁはぁ、最後まじで死ぬかと思った」


 脳内にアナウンスが入る。


『スキル:闇の波動獲得しました』


 条件ってこれだったのか。でもディーネに世界を作るほどの力はない。回復、勇気この2つは、基本属性を司る属性の泉より弱いということか?


「ほっほっほ、どうやら条件はクリアしたようじゃの。神の居場所が今の主には分かるのではないか?」


「ああ、分かる。けど遠いな」


「この村で準備をしていくといい。人間の食べられるものがあるかはわからぬが、食料の持っていけ」


「そうか……じゃあ、お邪魔するよ」


 中で、一週間分の食事と魔力回復草を貰った。


「じゃあ行くか。ティラノ」


「GYAU」


 俺とティラノは遠くに見える天に届くほど大きい山へ向かう。

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