第65話 精霊の世界

「GAYAOOOOOOO」


「やっべ、逃げよう」


 超加速を使い俺は全力で走り始めた。……がピッタリと後方に付いてくる。早すぎる、このままでは先に疲れるのは俺だ。魔術支配を切って付近にある木を風魔法で切り飛ばしながら突き進む。


 だが木に躓くことすら無く平然とこちらに詰め寄ってくる。


『龍魔法:闇』


 巨大なブラックホールのようなものを作り出した。その穴にハマりティラノサウルスは動きを止めた。どうやら闇属性が有効らしい


『子龍魔法闇:ダークバレット』


 恐ろしい速度で、闇の散弾が当たり苦しそうな悲鳴を上げるティラノサウルス、グキリとなにかが折れる音がした。ここまででいいだろう……もう追って来ないはずだ。


 頭の中に響いた声の主を探して、歩き始めた。が……背後で苦しそうに泣くティラノサウルスが痛ましく思えて、戻ってきてしまった。


「おい、俺をもう食べようとしないなら、治してやるけど……って言ってもわからないか」


 だが俺の言葉に反応してギャウギャウ言い始めた。


「分かった。治す。これを飲めディーネ特性の回復薬だ。俺のスキルはこの状況じゃ使えないんだ」


 口にディーネ特性の薬を流し込む。すると辛そうに呻いていたティラノサウルスが元気に立ち上がった。


「元気になったか。もう俺を襲おうとするなよ?」


 そう言って立ち去ろうとしたら急に景色が変わった。ティラノサウルスが俺を空中に飛ばしたらしい。そのままティラノサウルスの頭に俺は乗った。


「なんだ? 運んでくれるのか?」


「GYAU!」


 移動速度が上がった。こいつは、本気の俺の走りに付いてくるくらいには早い、すごく楽だ。

 ふと手を見ると白い光が手首の回りをくるくる回っていた。


「お前精霊だったのか、契約したいのか?」


「GYAUGYAU」


 走りながら頭をコクコク振る。


「そうか……いいぞ。大きすぎるのが問題だな」


 俺がそう言うとみるみると小さくなり自転車くらいのサイズになった。


「おお! 精霊だから大きさが自由なのか、いいな!じゃあ取り敢えず声の主の元に向かってくれ」


 そう言うとティラノサウルスは悲しそうな声と表情で首を振った。どうやら知らないらしいてっきりこれが条件かと思った。


「そうか……じゃあ条件探しを続けるか、適当に歩いてくれるか?」


「GYAU」


 その後の道は楽なものだった。歩かなくていいのが最高だ。ダラダラこの世界を巡っていると空に大きな影がさした。空にいたのは巨大なエイだった。俺を見たエイは光の槍を大量に落としてきた。


『子龍魔法:闇、ダークバリア』


 俺とティラノサウルスを包むような闇のバリアが展開される。光の槍が闇のバリアに触れると、相殺されるように消えていく。


『子龍魔法:ダークジャベリン』


 音速を超えた速度で闇の槍は飛んでいきエイを貫通した。反撃のように光の槍を大量に落としてきた。がティラノサウルスが機敏な動きですべての槍を回避した。


「いいぞ! ティラノサウルス! 後は俺に任せろ」


「中龍魔法:ダークジャベリン」


 車ほどある巨大な槍が音を裂きながらエイに突き刺さった。そして巨大なエイは力を失い土煙を立て墜落した。俺も魔力切れでティラノサウルスの上で倒れた。


 目を覚ますと、俺は地面に横たわっていた。俺の頭の下にはティラノサウルスが猫くらいのサイズになり俺の枕になって寝ていた。すっかり夜だ。俺の近くには大量の木の枝があった。俺はそれに火魔法を撃ち焚き火を始めた。


「腹減ったな……」


 俺は、ティラノサウルスを見た。ビックっと体を震わしティラノサウルスが目を覚ました。

 そして、近くの木に走り突撃した。木の上からきのみが落ちてくる。それを咥えこちらに持ってきた。


「お? ありがとな」


 ティラノサウルスの頭を撫でる。こうしてみるとかわいいやつだ。そしてきのみもうまい!


「お前もいるか?」


 ティラノサウルス首を振った。肉食か……更に首を振る。精霊だから食べる必要なかったな。

 突然立ち上がり声をあげるティラノ騒ぐ方向を見ると、光輝く鎧を着た戦士がこちらにきた。


「お前か……外から来た人間とは。申し訳ないがここで死んでもらう」


 そう言って、光の光線を飛ばしてきた。とっさに体を反らし回避した。


「ほう? 外からの人間のくせにやるでは無いか、だがこれで終わりだ」


 光の戦士の周りには百を超える槍が出現した。そしてその槍はすべて俺に向かって飛んできて俺の体をぐちゃぐちゃに貫いた。


「それで終わりか?」


 俺は、光の戦士の背後に周り剣に闇をまとわせ貫いた。光の戦士はよろよろと俺から距離を取った。


「なぜだ! 貴様はそこで貫かれているではないか! お前は誰だ」


 光の戦士は、光の槍に貫かれた俺の影を指差した。


「それは俺が作ったダークデコイだ。作り出したデコイは黒いから夜しか使えないんだけどな、その代わり魔力や気配を放って完全に敵を欺く」


 俺は、光の戦士に近づき刺さっている剣を蹴った。


「ぐはっ、や、やめてくれ」


 光の戦士は、尻もちを付いた状態で後ずさりし始めた。


「お前だって俺を殺そうとしたじゃないか。見ろよ俺のデコイあんなにぐちゃぐちゃになって」


「お、俺は命令されたんだ、俺の意志じゃない」


「関係ないね。お前が殺そうとしたのは事実だ」


 俺は光の戦士の腹から剣を引き抜き思いっきり振り下ろした。光の戦士の股間からアンモニア臭がする。俺は気絶した光の戦士を縄に縛り付け回復薬を振りかけ、ティラノのしっぽに縛り付け運ぶことにした。丈夫な鎧を付けているんだ。死なないだろう。後、光の戦士は街頭みたいな明かりを発しているのでライト代わりに最高だった。

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