第63話 黒の魔窟 (大部屋)

 サトウさんの部屋を出て、通路を奥に進むと最後の一人の部屋があった。警戒しながら扉を開け、中に入ると、一人目の部屋と同じ様な錬金道具が大量に置いてあった。


「本探せーこの部屋になかったらあのフィギュア部屋探すことになるぞ」


 俺が脅しを掛けると二人は機敏な動きで部屋を捜索し始めた。というかここに来た日本人は多分魔法なんて使えないだろう。故に錬金術に手を出したんだと思うんだけど、錬金道具を置いてなかった3人はどうやって錬金術をやっていたんだ?


 他の二人に錬金術をやって貰っていたのかそれとも錬金部屋でもあるのか、もし錬金部屋があるなら個室に錬金道具を置いている二人はきっと錬金術が大好きなんだろうな。


「マスターここにはなにもないです」


 ディーネが泡立て器のようなものを持って俺に報告してきた。


「そうか……奥に錬金部屋みたいなものがあるかもしれない、無かったら多分すぐ行き止まりだろうから……そしたらフィギュア部屋探そうな」


「え、エルビス一人で探してきなよ……」


 そんなバカな! シルヴィが俺を売っただと、どれだけ嫌なんだよ。


「そっか……じゃあ行こうか」


「へぁ、あの、え、エルビスそのエルビスのこと嫌いってわけじゃなくて……」


「ああ、分かってるあの部屋が嫌なんだよな」


 無駄に哀愁感を漂わせて俺はシルヴィに心理的なダメージを与えておいた。あのフィギュア部屋を探索することになるかもしれない俺からの少しばかりの復讐だ。


 シルヴィは俺から発された哀愁を敏感に感じ取り、かなり吃った様子であたふたしている。


「マスター奥に大きな扉があります!」


「本当か! やったぜ。これであの部屋を調べないで済む」


 俺はウキウキで大部屋に向かい扉を開けた。その瞬間石が飛んできた。反射的に避けると背後で『うぴゃあ』と悲鳴が聞こえた。振り返るとシルヴィが頭を抑え蹲っていた。


「あ、シルヴィごめん」


 俺は、石を投げた犯人を見る。黒魔種のゴブリンだった。


「お前! よくもシルヴィに石を投げたな! 覚悟しろ」


『ファイアーボm……』


「マスターその魔法使ったら部屋にある貴重品が壊れます」


 ディーネが俺にヘッドロックを掛けながら全力で俺の魔法詠唱を止めた。


「痛い痛い! ディーネ決まってるから……痛いっすディーネさん」


「わっ、す、すみません魔法を止めようと思ったらとっさに頭絞めてました」


「いてぇ、ディーネ気をつけろよ。とっさに出たって、それ普段誰かにその技掛けてたりしてないよな」


「してませんよ! いつもマスターのそばにいるじゃないですか!」


 俺は土魔法で槍を飛ばしゴブリンを牽制しながらディーネと会話をしていた。今更ゴブリンって舐めすぎだろ……とこの時は思っていた。


『貴様、なんの用があって我が拠点に攻め入った?』


 ゴブリンがこちらに話しかけてきた……様な気がする。


「ディーネ……なんか言ったか?」


「いえ、マスターがなにか言ったのでは?」


「いや、俺じゃないけど……シル、シルヴィは無いな」


 シルヴィは未だにうずくまり頭を抑えている。シルヴィが出してる声はただのうめき声だ。


『俺だ! こっちだ! どこを向いている貴様ら』


「やっぱディーネ話してるだろ?」


「違いますって」


『俺だって言ってんだろうが! いいかげんにしろよ、俺が怖くて、聞こえないふりしてるならさっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってろ雑魚どもが!』


「なぁディーネ、あのゴブリンうるさいよな、殺るか……」


「はい、殺りましょう」


『マジックブースト』


『リトルファイアードラゴン』


 ゴブリンが俺らをバカにしてきたので問答無用で本気の魔法を使った。崩落上等! だが運良くこの大部屋は錬金術によって強化されていたようで崩落はしなかった。


「ふぅ、終わったな……探索するか」


「はい、そこら辺が燃えてるので私は消火しておきます」


 大部屋にはかなり多くの錬金道具が転がっていた。まぁ俺の龍魔法でほとんど壊れたが。


 まだ火が移っていない本棚を見る必要そうなものは全部闇魔法の異空間に放り込む。


「エルビス! 私も手伝う」


 痛みから帰ってきたシルヴィがこちらに来た。


「ありがとう! まだ燃えてないところから本を持ってきてくれ」


「分かった!」


 燃焼が広がってきたので部屋を締めて燃焼を防ぐことにした。


「持ってきた本を調べよう」


 闇魔法の中に収納した本を取り出した。


「う~ん、錬金術の事が書いてあるのはわかりますけど、どれに極意がかいてあるんでしょう?」


「やっぱり、極意っていうくらいだから私達が読んでも錬金術が習得できるものじゃない?」


「そうだな……この本は透視眼鏡の作り方……これが……極意」


 俺が、大切に保管しようとした瞬間シルヴィが透視眼鏡の作り方の本を今なお燃えている大部屋の中に投げ入れた。


「おおおお! 待て! あれはお宝なんだ」


 必死に本まで駆け寄ったが既に火が着いていた。諦めてシルヴィたちの所まで帰った。


「なんで、燃やしたんだよ……あれが依頼の品かもしれないだろ」


「もう既に数十冊単位で燃えてるんだから一冊くらいいいじゃん。それにエルビスがどうしても見たいって言うなら別に私は見せても……」


 シルヴィが変なことを言い始めた。俺が知らない間に痴女にでも進化したのだろうか?


 ふと、一冊の本に目が入った。これはまた日記のようだ……少し見てみよう。

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