第62話 異世界日本人アパート

 両端向かい合わせの部屋の前にたどり着いた。暗くてよく見えなかったが5mほど進んだ場所に更に2つ部屋があるのが見える。


「取り敢えず左の部屋に入ろう」


 俺達は左の部屋へ慎重に入る。中はホコリ臭く長く人が出入りしていないのが分かる。


「やっぱりこのダンジョン元々は錬金術の施設だったみたいだな」


 部屋の奥には大釜や錬金板がホコリをかぶって放置されていた。最初からおかしいと思っていたさ、なんでダンジョンの奥に錬金術の極意が書かれた本があるのかってな、一番疑問なのは、なんでそれを知っていて今まで取りに来なかったかということだ。


「マスターここにあるのはゴミばかりです。次の部屋に行きましょう」


 ディーネがゴミを投げながら俺を急かしてくる。


「待って! ここにエッチな本が!」


 シルヴィが興味津々に本を手に取り読んでいる。後ろから覗き込むと日本語の書かれたエロ本であった。


 即座に俺はシルヴィから本を取り上げた。


「あ! まだ読んでるの。返して!」


 シルヴィが本を取りも出そうと俺に迫ってくる。お年頃なのは分かるけどこんなに過剰に反応されると困るな


「見ろシルヴィここにR18って書いてあるだろ! 12歳のシルヴィは見ちゃ駄目だ」


 そう言うとシルヴィがR18の部分を見た。


「本当だ! R18って書いてるね。でもいいじゃん! エルビスとディーネしかいないもんバレなきゃ犯罪は犯罪じゃ無いのさ!」


 そんな会話をしている俺らの会話を聞いて疑問な顔を浮かべているのがディーネだ。


「マスターとシルヴィはこの文字が読めるのですか? 私には読めないんですけどどこで習得したのでしょう?」


 そう言われて血の気が引いた。そうだ……シルヴィは俺の前世を知っている可能性があるんだった。以前は寝言で俺の名前を言っただけだったから放っといたが日本語が読めるならもうそれは、確実に俺と同じ転生者ということだ。


「取った!」


 一瞬考え事をしていた間にシルヴィにエロ本を取られた。


「これは私が見つけたものだから私のもの!」


 確かにダンジョン探索の暗黙の了解としてお宝は見つけた人の物というのはあるがエロ本は別だろ、でもこの流れならディーネの疑問を疑問のままごまかせる。


 シルヴィに前世のことを聞くと何かが変わってしまいそうで今の俺には聞けない。シルヴィが話したくなるまで待つことにした。


「分かったよ。でもあんまり外に出すなよ」


「うん」


 シルヴィは幼馴染モノのエロ本を大事そうに抱えた。そう、シルヴィが見たがっていたエロ本は幼馴染モノのエロ本だのだ。


「次隣の部屋をみよう」


 左の部屋を出て左右を警戒した後右側の部屋に入った。そしてその瞬間ドン引きした。


「「うわ~きっつ」」


 女性陣のコメントいただきました。右の部屋を開け目に入った光景は、大量の裸の女性人形だ。いわゆる等身大フィギュアだ。


「こいつら錬金術師じゃ無いのか? 何研究してんだよ。エロ本にラ○ドールや裸の等身大フギュアってやばいだろここ」


 そもそもなんで、日本の物がこんなに散在してるんだ? こちらのオタク全開の部屋も日本人の制作物だろう。フギュアの足元に頑張って考えたのだろうネームプレートが日本語で書かれていた。


 この部屋には何もないだろ……出よう。俺達は無言で部屋から出た。


「さ! 気を取り直して次行こう!」


 明るい調子で声を掛けたが、女性陣は先の部屋が忘れられないのだろう気分が悪そうだ。五メートルほど歩くと通路の両端に再び部屋があった。


「今度は右から行こうか!」


「うん、そうだね……」


 すっかり気分の落ちたシルヴィの声が聞こえる。そんなにショックだったか? 右の部屋に入ると中には水槽が大量に飾られ、水の枯れた水槽の中に魚の骨や亀の骨などが転がっていた。そして足元にある袋には日本語で魚の餌とかかれた餌袋が転がっていた。


「ここ本当に錬金術の施設か? どう考えても日本人転移者のアパートだろ」


「そうですね。アパートというのはわかりませんが生活感がすごいですね。趣味の偏ったやばい奴らの……ですが」


「エルビス見て! 扉ホコリですごいから気が付かなかったけど名前書いてある!」


 シルヴィが扉をこすって字を見ようとしている。


「どれどれ、見せてくれ」


 扉には表札があった。カイトとカタカナで書いてある。やっぱり日本人か


「反対側はどうなってる?」


 俺がそう言うとシルヴィが表札のホコリをこすって取り除く。サトウと書かれている。やっぱり日本人のアパートじゃないか


「取り敢えずカイトさんの家は見終わったからサトウさん家に入ろう」


 サトウさんの家は至って普通だった。ベッドと机などなど普通にここに住めそうな物が揃っている。


「マスター本がありました!」


 ディーネが走ってきて俺に本を渡した。中は日記だった。虫に食われて読めないが最初の1ページは読めた。


『異世界に迷い込んで一日目たまたま持っていた日記帳にこの世界のことを書くことにする。僕たちは飛行機に乗っていたのだがその時ありえないくらい飛行機が揺れ墜落した。生き残ったのは僕たち5人だけだ。

 墜落地点にはいい感じの洞窟があったので墜落した飛行機から使えそうな物を持ってきてここを日本人の住むアパートにしようと思う』



 此処から先は読めない。飛行機の墜落で助かった日本人の集まりだったのか。それなら日本語の物が多く転がっているのは納得できた。だがあのフィギュア……普通に考えたら墜落の衝撃で壊れるだろう。つまり手作業で作ったということになる。ものすごい執念だ。ある意味尊敬する。

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