第52話 ダンジョンの外の混乱


「マスターそろそろこの勇気の泉から出ませんか? 一日は経過しましたよ?」


 呆れた声で俺に話しかけるディーネは少し怒っている。半年間も時間が飛んだと知った俺が不貞腐れてここで丸一日寝ていたせいだ。


「後一日くらい大丈夫だってどうせ半年過ぎてるんだから」


「マスター私がバジリスクにやられて眠っていたせいですね‥‥すみませんでした。契約解除というならじでぐたざい」


 最初は、優しげな声で頭を撫でながら俺を慰めてくれていたが、途中から具体的には契約解除のあたりから涙ぐみ始めた。嫌なら言わなければいいのに‥‥


「やっばりやめでぐだざいぃぃ」


 ディーネが号泣しながら俺の腰元に抱きついてきた。そのまま押し倒されてお腹の上で泣き続けた。そのまま30分ほど泣かれようやく自由になった。


「マスターすみませんでした。今は同化したばかりで感情がうまく制御できなくて」


 あれだけ激しく泣いていたのは、同化の影響らしい……


「じゃあそろそろ外に出るかディーネ」


「はい! マスター」


 笑顔でディーネが頷き立ち上がった。そのまま出口の転移門へ向かい外へ出た。


 再び輝きの洞窟に来た。半年振りらしいが俺の感覚で言うと2日振りだ。


 どうやら転移門から出た瞬間に殺されるということもないみたいだ。少しだけバジリスクがいた場所を確認するとそこには、大量の石像があった。こんなものは、前に来た時には無かった。つまり、バジリスクにやられた犠牲者ということだ‥‥


 一巡してさろうとした時、手をつないだ石像が目に入った。どこかで見たことがある。クラウドとサレンさんだ。まさかこの二人もここに来たのか? 何もないのにここにピンポイントで来る意味も分からない。俺を追ってきたと考えるのが妥当だろう。


 奥から何かが擦って這い寄る音がした。バジリスクだ‥‥俺は闇魔法で別空間に二人の石像を収納して走り始めた。


「ディーネ! バジリスクだ! 走れ」


 俺とディーネは走ってダンジョンの外に出ようとするが背後からズルズルと這い寄る音がしている。


「マスター勇気の秘術を!」


 ディーネの鋭い声が飛んでくる。


「分かってるだろ! 無理だ! 今は強大な敵に立ち向かってるわけじゃない、逃げてるんだから使えるわけ無いだろ」


「マスターなんとかしてくださいぃぃ」

「ディーネは剣に戻ればいいだろ!」

「あ‥‥」


 そう言ってディーネは剣に戻っていった。なんかすごい寂しい! 背後から毒弾が飛んでくるその飛沫が飛んで来た瞬間スキルを大量に獲得し始める。


『毒耐性獲得(中)』

『毒耐性獲得(特大)』

『毒耐性が進化しました。猛毒耐性(中)獲得しました。』


 ここまで進化してようやくバジリスクの毒を軽減されたようだ。俺はふらつきながらダンジョンを出た。外には複数の騎士が待機していた。


「中から人間が出てきたぞ! 捕らえろ」

「待て! こいつはバジリスクの毒に侵されてる近づいたら我々も死ぬぞ!」


 毒を軽減してようやく意識を保つことができたがそれもここまでらしい

「マスター少し待ってください! 今治します」


 そう言ってディーネが回復してくれる。遠のいていた意識が帰ってくる。


「君! 今すぐそいつから離れろ! そいつはバジリスクの毒に侵されているんだ!」


 そう言ってディーネを連れて行こうとする。


「私に触れていいのはマスターだけです! 触らないでください、離せ!」


 無理やりディーネは引きずられる。ディーネが回復してくれたおかげもありおそらく死ぬことはないだろう。俺は意識を手放した。その直前聞いたことのある声がした。


 目を覚ますと知らない天井の上にいた。俺が寝ている布団の中になにか温かいものがいる。ゆっくりと布団の中を覗いてみるとディーネだった。ディーネが俺にベッタリと張り付いており普通に暑い。


「やあ、やっと目を覚ましたかい? 今度学校に来た一級生徒だからって休みすぎだと、言いたかったけどまさかダンジョンの中にいたんだね、よく生きていたもんだ」


 そう言って病人用ベッドに来たのは俺の担任ヴァリオン先生だった。


「先生があの状況から助けてくれたんですか?」


「ああ、そうだよ。いやいやせっかくの光の日だからちょっと魔術触媒を買いに街に出たら騒ぎになっててその中心に君がいたんだから驚いたよ」


 ヴァリオン先生は気楽にそういった。そして急に真剣な顔になる。真面目な話があるようだ。


「半年間ダンジョンの中にいたこととか、一年生はダンジョンに入ってはいけないこととか、そこの女性のこととか色々聞きたいこと、怒りたいことがあるが‥‥一つ質問だ。君とほぼ同時期に失踪したクラウドくんとサレンさんについて何か知らないかな?」


 俺は少し躊躇した後離し始めた。


「ダンジョンの話は知りませんでした。すみません‥‥俺は一人でダンジョンに入ったんですけどそこで時間の流れが違う空間に閉じ込められる罠に閉じ込められて約一日そこにいました。そこから出ると今日まで時間が飛んでいたんですけど、ダンジョンから出る際に2人の石像を見つけました」


 ヴァリオン先生は深く思慮した後一つの答えを導き出した。


「そうか‥‥その二人は君を追いかけてダンジョンに入ったんだな、そしてバジリスクと出会った。だが困ったな石化を解くにはバジリスクの毒袋が必要だ」


 ヴァリオン先生は絶望的な表情でそう言った。

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