第50話 勇気の泉

 

 砂浜の奥にある青く輝く泉にいたのは、ディーネをそのまま小さくしたみたいなピンク髪の幼女ディーネだった。


 姉妹のたぐいかな? そんな泉の奥にいた幼女ディーネが俺をじっと凝視している。


 泉の奥にいた幼女ディーネが砂浜を歩いて、俺の下まで来ると俺の手を掴み指をペロペロなめた後、噛み付いた。


 そして俺の目をじっと見てそっと手を離す。そして、モゴモゴと彼女の口が小さく動く。


「そう‥‥」


 幼女ディーネは少女のディーネに近づいて手を合わせるように触れた。その瞬間幼女ディーネは光の粒子になり消滅した。辺り一面に飛び散った光の粒子はディーネの周りにまとわりつき溶けて消える。


 その瞬間数年ぶりになる緊急アナウンスが脳内に流れた。


『緊急緊急! これ以上は人間である範疇を超える可能性があります。すぐに精霊との契約を解除してください』


 緊急アナウンスが3回ほど流れた後、強大な力が強制敵に流れ込んでくる。


 勇気の秘術(60):強大な敵に立ち向かう時、敵の持つ特性の内の一つだけ完全無効する。


 そのまま強力な力が体を押しつぶす様な重圧を与えその重圧に耐えきれず気を失った。


「‥スター‥‥ま‥たー‥‥マスター!」


 俺はディーネの呼び声で目を覚ます。見た感じディーネに変化は無いようだ‥‥


「ディーネ‥‥さっきディーネの子供の頃の姿みたいなやつが居たんだけど、ディーネに触れた瞬間消えたんだが、あれがなにか知ってるか?」


 そう言うとディーネの顔が引きつり始めた。何か知っているらしい。


「ディーネ、話しなさい‥‥」


「う‥‥ハイ」


 そこからディーネがたじたじと語り始めた。


「精霊は、森羅万象いろんな物に宿っているんですが、私達泉シリーズの契約は契約条件が厳しい代わりに強力な力を得ることができるんです‥‥元々泉シリーズの精霊は元々一体の精霊が別れた姿なので先程のように同化吸収することができます‥‥」


 確かに‥‥ディーネと幼女ディーネは、似ていたし同化直後強力なスキルも獲得している。ずっと放置していた勇気の波動の問題も解決した。


 ここに来たことは色んな意味で正解だった。だが転移門の向こう側はバジリスクがスタンバイしているはずだ。出た瞬間に殺される可能性は大いにある。


「っていうか‥‥本当にここ誰も来たこと無いのか? 結構あっさり来れたけど‥‥」


「この泉への入場条件が件のスキルを持っていることなんですよ」


「じゃあ、俺が勇気の波動を持ってなかったら、あの時死んでいてもおかしくなかったってことだよな」


 そう考えると鳥肌モノだ。あの階層にバジリスクがいるなんて予想外だったってのもあるけど油断しすぎていたのは否めない。


「ところで、あのバジリスクどうやって倒そう? 龍魔法はこんなところで使うと、ダンジョンが崩壊して潰され兼ねないから使えないし普通の魔法は効きそうな感じがしない」


 ディーネが不思議そうな顔で俺を見ている。


「マスターって、剣持っているのにあんまり使いませんよね? 嫌いなんですか?」


 あ‥‥腰に差さっている剣の存在を忘れてた。


「その‥‥ほら、魔法が使えるなら魔法使いたいじゃん!」


 我ながら苦しい、いい訳である。


「マスター、聞こえています。心の声が‥‥」


「ま、まあどうやって安全にダンジョンから脱出するか‥‥そこが問題だ! 早くここから出ないと光の日が終わる。そしたらバレるだろ?」


 そう言うとディーネが言いづらそうな事を言おうとしているのかモゴモゴし始めた。


「あの! マスター、精霊の泉の中は時間の流れがデフォルトだと‥‥その違くて外のほうが時間の流れが早いんです。もう既に、ここに丸一日います。マスターが気絶している間にそれくらい立ちました。」


 俺は、ディーネが言わんとしていることが大体理解できた。以前シルヴィを助けるために精霊の泉に入ったがあの時は一時間の滞在で時間が一週間経過していた。そんな中に一日居たんだから半年くらい時間が飛んでいてもおかしくない。


「でも、おかしくないか?最初に回復の泉にいた時は半年は確実にいたぞ?」


「それは私があそこの時間の流れを外と同じに合わせていたからです! 二回目にマスターが来た時はデフォルトに戻していたのであれだけ時間が飛んでしまいました。すみません。」


「でで、でも半年も学校休むってどうなるんだ? 退学か? 最悪だ!」


 俺が取り乱しているとディーネが俺の方をポンポンと叩き慰めてくれる。


「大丈夫です。一級生徒は、授業の出席が義務ではないので授業に出なかったぐらいでは、退学にはなりません。ただマスターがいなくなったEクラスがクラス対抗戦に勝てるとも思えないので、もしかしたらクラスの人間に嫌われたかもしれません」


 終わった‥‥俺の学園生活‥‥さようなら


「あ、ディーネ、時間の流れを外に合わせといてくれ。ここで、もう少しゆっくりしていくことにしたから、いや~ここは回復の泉と違って呼吸ができるし、泉は光ってて明るいし最高だな!」


 そう言うとディーネが縮み始めた。先程ディーネと同化した幼女ディーネだ。


「私の泉は少女体ディーネとは違ってご主人を受け入れる準備は万端!」


 幼女ディーネはペタンコな胸を張りドヤ顔をしている。同化したんじゃないの?


「記憶は共有してる! 問題ないの! 後私が外に出るのはかなり疲れるからそう簡単には出れないの、今回はただの挨拶なの……あ‥‥」


 あ‥‥と言って幼女ディーネが大きくなった。いつものディーネだ。


 そこから一日、意外と勇気の泉の中は心地よくゴロゴロしていた。外では俺が寝ていた半年間恐ろしいことがおきているとは知らずに‥‥


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いつも見てくださる皆様評価して下さる皆様、ありがとうございます。2章を前期と後期に分けることにしました。後期にてシルヴィが登場します。

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