第21話 全力で。

 

 十匹以上の大猿だ。


 何が楽しいのかニヤニヤしている。なまじ人に近いせいか表情がよくわかる。ここまで走って追いかけて来ただろうに今はゆっくり歩いている。自分らが優位に立っていると思い楽しいのだろう。

 腹立つなこいつら。こんな奴らは絶対にテイムしない。


 さて。囲まれる前にこちら仕掛ける。

 一気に走り出し、一番前にいるやつに体当たりをかました。すぐ後ろにも大猿がいたのでそいつにぶつけるよう体当たりをし、二匹を転ばし封じる。

 追撃しようと思ったが左からも大猿が来たためそいつに蹴りを入れ、転ばしたやつの方に向かい殴りつける。


 こんな大雑把な攻撃じゃ気絶させたり、ましてや殺すのは難しいが最終的に全員動けなくすればいいからひたすら動く。

 距離が離れていれば体当たりをし、近くにいれば殴り、裏拳で引っ叩き、蹴飛ばす。足下が不安定なので踏ん張れず回し蹴りなどは出来ないので普通に一度蹴りをいれるだけだが、結構ヨロけたり転がったりしてくれる。


「あっ⁉︎」


 3匹同時に相手をしていたら後ろから衝撃を受け、倒れた。体当たりをされたのだろう。自分がしょっちゅうやっていることとはいえ、されるのは腹が立つな。しかも大猿に。


 立ち上がり体当たりしてきたやつを倒そうとしたら他の奴が突っ込んできた。


「いっつ」


 いてぇなおい。


『ご主人さま!』


 珍しく間延びしていないクー太の声が聞こえた。心配してくれたのだろう。

 俺の周りにいたやつをクー太が吹き飛ばしてくれたようだ。すぐさま起き上がる。


「助かった」


 後でたくさん撫でてあげよう。


 おそらく袋叩きにされてもすぐにどうかなるほどレベルアップの恩恵は少なくない。だがジリ貧にはなっていた可能性はあるだろう。危なかった。


 アレだな…。素手で生き物を殺す感覚ってのは嫌なものだ。だから出来るだけ吹き飛ばし気絶させるようにしてきたし、恥ずかしいがトドメをクー太達に任せることも多かった。それは安全に狩りができたから、というのもある。


 だが、それじゃあこの状況ではダメなんだな…。

 スピードや力は大猿より上なんだ。俺も遠慮なく殺すつもりで全力でやろう。



 近づいてきた大猿の攻撃を躱し、殴りつける。倒れたそいつの顔に数発お見舞いし、次のやつへ。確実に殺すつもりで。

 先程の二の舞にならないようクー太と離れすぎないよう、囲まれないよう視野を広く持つ。

 こんな時だというのに冷静に考えて戦えている。不思議だ。物事を考える余裕も、大猿たちの動きもよく見える。


 そうやって繰り返してクー太と共に次々と倒す。

 そしてどれくらいたったのか立っているのは俺とクー太だけになった。


「はあはあはあ。あー。くそ。川の水持ってくればよかった」


 喉が渇いた。

 でもまあクー太は怪我してないし、俺も特に問題はない。体当たりされて転んだがどこも痛めていない。レベルアップ様様だな。


「クー太おいで」


『ご主人さまおつかれー』


「おう。お疲れ様。さっきはありがとうな」


 そう言って撫でてやる。頭を撫で耳裏を強めに、そして最後に身体を軽く揉みながらマッサージするように。

 本当認識が甘い。それを今日何度も思い知らされた。

 まあ性格が変わるわけではないからまた同じように思うことはあるだろうけどな。気をつけるようにしよう。


「さて、クー太には悪いが魔石を取り出すのは任せていいか?食べるのは少し待ってくれ。クー太のステータスを見ておくから」


『わかったー。取りに行ってくるー』


「あ、それと殺し切れていないかもしれないから気をつけてくれ」


『大丈夫ー。狸寝入りくらいわかるー』


 狸が狸寝入りを理解するというのも笑えるな。


 そういえば何匹いたんだ?

 一、二、三………十六、十七。十七匹かよ。午前中に会ってたらレベル的に確実に殺されていたな。

 さてと、ステータスと。



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 個体名【中野 誠】

 種族【普人】

 職業【テイマーLv4(使役上限数♾)】

 性別【男】

 状態【 】

 Lv【20】6UP

 ・基礎スキル:【拳術Lv5】2UP【防御術Lv2】

       【速読Lv2】【造形Lv2】【料理Lv2】

       【毒耐性(中)Lv3】

       【精神耐性(大)Lv2】new

       【回避術Lv3】2UP

       【テイムLv4】【蹴術Lv3】2UP


 ・種族スキル:【無特化】


 ・特殊スキル:【ステータス鑑定】【ボーナス(特)】

       【テイム(特)】


 称号:【適応する者】【魔物を屠る者】

   【魔物に好かれる者】





 個体名【クー太】

 種族【妖狸(亜成体)】

 性別【オス】

 状態【進化可能】

 Lv【★15】10UP

 ・基礎スキル:【噛み付きLv6】UP

       【体当たりLv3】UP

       【気配察知Lv5】UP【加速Lv1】new


 ・種族スキル:【変化】


 ・特殊スキル:【制限解除】


 ・称号:【進化・使役魔獣】


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 この前に七匹?で今十七匹だから二十四匹か。クー太と二人で経験値の分散が少ない分得られる経験値が多かったのだろう。

 レベルがすごく上がっている。スキルは増えてないがレベルは上がっているから良しとする。


 それよりもクー太だ。いつのまにか進化可能に!!十五レベルで進化できるのか。スキルのレベルも上がってるし、【加速】か。助けに来てくれた時に覚えたのかね?



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【加速】

 早く動くという意思を待てば速度が大幅に上がる。レベルが上がるほど上昇値も上がる。


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 常時発動で常に速さに関する身体能力が上がるっていうより、スキルとして発動しようと思えば加速する。って感じか?

 回りくどいスキルだが、充分使えるスキルだ。

 お次は進化だな!


 あ、その前に。


「クー太!もう進化できるみたいだからとりあえず魔石は食べなくていいぞー。進化したら食べるといい」


『そうなのー?わかったー』


「クー太が魔石を集め終わったら進化させるから、魔石を集めたら戻ってきてくれ。俺は進化先を見ておく」


『わかったー』


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 ○クー太の進化先を選んでください。


 ・妖狸(三尾)

 ・大狸

 ・牙狸

 ・殺戮狸

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 四つ…か。

 結構多いな。基本的な進化先と持ってるスキルに対応した進化先…か?


 詳細は?


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【妖狸(三尾)】

 ・特殊な術を使えるようになった妖狸。


【大狸】

 ・身体が大きくなり身体能力が高い種族。


【牙狸】

 ・牙が伸び、牙での攻撃に特化した種族。


【殺戮狸】

 ・身体能力が大幅にあがるが理性が薄くなり攻撃性の増した種族。


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 三尾、か。何尾まであるんだ。でも尻尾が増える度に特殊な術を覚えるとかならかなりいいよな。

 大狸は…なんだろうか。栗鼠も蛇も猿もどれだけ大きくしたいのだろうか。まあこの選択はなしだな。大きくなっても種族スキルの変化が残ってるなら小さくなって貰えばいいが、変化が消える可能性もあるからな。


 牙狸は…あれか?スキル【噛み付き】のレベルが上がったから選択肢が出たとか?イマイチだよな〜。

 殺戮狸は却下で。愛らしさがなくなるやつじゃないか。クー太から愛らしさを奪おうとするとか。許さぬ。


 まあ三尾か牙狸だな〜。

 それにしても特殊スキルの【制限解除】の恩恵はあるのだろうか?確か効果?は進化の幅が増える、だよな?

【制限解除】を持ってない妖狸を進化させてみないとわからないな。

 またいつかまた狸とは出会うだろう。その時もう一匹くらい仲間にしてもいいだろう。

 いや、それともこの森の狸を全て仲間にして狸軍団ってのもいいな。


 まあそれは追々だな。クー太はまだかな?


『ご主人さまー取り終わったよー。そこに集めといたー』


「いつもごめんな。ありがとう」


『どういたしましてー』


「じゃあ進化先の説明をするな」


 先程表示された内容をそのまま告げる。


『んー。ご主人さまにまかせるよー?』


「いいのか?コレがいいってのがあれば言ってくれな」


『んー。殺戮狸はいやー。ご主人さまと一緒にいられなくなりそうー…』


 ああもう。可愛いなあ…。俺のキャラが崩壊しそうになるわ。撫でながら言ってやる。


「大丈夫だ。俺もそれを選ぶつもりはないし、仮に選んでもずっと一緒にいるさ」


『ならよかったー』


 手に頭を押し付けるようにして甘えてくる。よしよし。

 んじゃ、進化先は三尾だな。


 三尾を選択。っと。

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