第20話 貧乏くじ
やっと見つけた二人に声をかけた。
二人は顔を見合わせ警戒した様子を隠すこともなく高山ナオキさんのほうが俺に話しかけてきた。
「あ、ああ。そうだが。そちらは?」
「中野という。年上の方だろうけど、口調は勘弁してくれ」
「それは構わない。それより何故私たちの名前を?救助隊や探索隊の方ってわけではなさそうだが…?」
まあこんなワイシャツを着崩したやつを調査隊や探索隊などの人間とは思わないだろう。
確かにその通りだしな。俺は昨日までサラリーマンで今はただの酒好きテイマーである。
まだ退職してないけどな!あ⁉そういえば!普通に明日までレベル上げするつもりだったが明日仕事じゃん俺!電波もないから休むにしても連絡入れられないし。無断欠勤はだめだ。それは譲れない。
てことはやっぱり齋藤さんと街まで行くことは必ず必要だ。会社に連絡を入れて戻ってこよう。
「ど、どうした?」
突然自己紹介の途中で頭を抱えはじめた俺を見て何事かと聞いてきた。まあそうだよな。怪しさ満載だよな。
うん、気にしないでください。ちょっと自分の考えなし加減に頭痛がしただけだから。
「いえ、なんでもありません」
何事もなかったかのようにキリッとしてみる。
森田ミミさんと高山さんの視線が痛い…。
「あー、そのあれだ。齋藤…あれ?下の名前って聞いたっけ?まあ黒髪の二十歳くらいの女の子に君達を探してきてほしいって言われて探していたんだ」
「メイは無事なの⁉︎」
「ん?ああ。足首捻ったらしいがそれ以外は元気だったぞ」
「よ、よかった…」
「森田さん。本当よかったね…」
ありゃ?女の子のほうは泣きはじめちゃった。まああんな大猿に突然襲われて友人が逸れたんだから心配で泣いてもおかしくはないか。
「じゃあとりあえず齋藤さんのところに戻りましょうか。歩くと一時間はかかりそうですが怪我とかは大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ありがとう。僕も森田さんも怪我はしていないから大丈夫だ。それより大きな猿や大きな蜘蛛に追いかけられたが大丈夫だろうか…」
蜘蛛?見たことないな。大きな蜘蛛ってあれかな?ハリー○ッターに出てくるやつみたいな?流石にあれがリアルにいたらキモいだろう。
「猿でしたらここにくるまでにも7匹くらい倒してますし大丈夫ですよ」
「倒したって…こ、ころしたのか!?」
「え、ええ」
森田さんも高山さんも信じられないと言った感じで目を見開く。
自分たちが追い回されたやつを倒したからびっくりしてるのか?
「無闇に動物を殺したのか⁉︎そんなことしたら問題になるぞ!」
「え…どうして…」
えー。そっちかぁー。何言ってんだろうこの人たち…。なーんか助けたくないなー。
「はぁ。散々追いかけられたんだろう?それに道中にいた大猿の近くにはあいつらに殺された人もいたぞ。無闇…かはわからないが、殺さず逃げ回るか、殺されるのを待てと?勘弁してくれ。
それで?動物を無闇に殺す人間とはいられないというなら方角だけ教えてあげるから俺は同行しなくてもいいぞ?」
人が殺されていたと聞いて相当ショックなようだ。
んー。普通こんなもんなのか?齋藤さんはそんな感じはしなかったんだが。
「声を荒げてすまない。それでもやっぱり自分達だけで行く。失礼だとは思うが場所を教えてくれないか?」
「え、でも高山さん…」
「大丈夫だ。ここまでもちゃんと逃げ切れたし。女の子1人くらい何かあれば守るさ」
うーん。俺とは相性悪そうだなー。
「んじゃあちらへまっすぐ。1時間くらいだとは思いますが走ってきたので実際徒歩でどれくらいかかるかはなんとも言えませんけども」
「ありがとう。それでは失礼する」
高山さんは荷物を担ぎ移動を始める。森田さんは少し申し訳なさそうにペコリと一礼して後を追う。
はぁ。齋藤さんとの約束だし少し離れたところから様子見てついていくか…。
貧乏くじ引いちゃったなー。
二人が見えなくなるのを待ってクー太に声をかける。
「クー太。そういうことだからもう戻って平気だぞ」
『わかったー』
パッと光るとチビクー太になっており、そのまま肩に飛び乗ってきた。
はぁ。レベル上げしたいな…。
見えない位置から追いかけるので追跡はクー太に任せて俺はユラユラ揺れるクー太の二本の尻尾を見ながら歩く。
この尻尾九本まで増えるのか?あと七回進化すると完成形?気の長い話だ。まあどんな進化でもいいがクー太とランには癒しでいてほしい。
俺はクー太の後ろを追うだけだし、ここにくるときに大猿を倒しているからか魔物もでない。ボケーっと歩き続けていると周りがよく見えてくる。
そういえばあまり周りを注視してなかったな。足首まで草が生い茂り、木は乱立し、木の葉で太陽の光が遮られている。木が倒れ光が漏れているところもちゃんとあるが。観察してみるとキノコもたくさん生えており、歪な木もある。
これが瞬く間に出来上がったのか?よく考えたら不気味じゃね?ここ。今までなんで気にならなかったのだろうか。
自分でも平常心ではなかったのだろうか。まあクー太たちが可愛かったり、レベルアップや進化で舞い上がってたのは否めないが。
へぇ。食虫植物みたいなのも見えるな。あれは魔物なのだろうか。
それに虫が少ない…?これだけ深い森なら虫はたくさんいそうなものだが。そういえば虫刺されはあるが蚊などは見かけていない。これは寝ている間のものだろうか。
すごく今更だな。注意力欠如しすぎだろう俺。齋藤さんにも虫がどうのこうの言ったけど、虫全然見かけないし無意味だったかね。
『ご主人さまー』
いやー。これからは周りにも目を向けないとな。思わぬことで怪我をしたりするかもしれないし。大猿のところで、死んだ方を見たときに考えが甘かったのだろう。とは思ったけどまだまだだったようだ。
『ご主人さまー!』
「ん?どうした?」
『ご主人さま呼んだのに反応してくれなかったー…』
「まじで?すまない。考え事していた。クー太の尻尾はちゃんと見ていたぞ」
『尻尾ー?』
クー太は首を傾げながら尻尾をふりふりする。可愛い。
『あっ。違うよー。後ろの方から多分お猿さんがくるよー』
「そうか。ありがとう。何匹だ?」
『わからないのー…。多い』
「え?まじで…?クー太が判別つかないくらい多いって相当だろ⁉︎そいつらはこっちに真っ直ぐ向かってきてるのか?」
『そうー。もうすぐきちゃうー』
「なら逃げられないか。俺とクー太なら逃げられるかもしれないが、俺らが逃げたらあいつら確実に襲われるだろうしな…」
『どうするのー?』
「迎え撃つさ。ただ自分とクー太を危険に晒してまで助ける気はないから危険だと思ったら逃げるぞ」
『わかったー。じゃあ本気で行くねー?』
パッと光るとハクと同じくらいのクー太がいた。
え?大きすぎじゃない?いや、可愛くないわけじゃないけど、それはちょっと大きすぎる気がします。
てか本気でって。そんな大きくなれたのか。
「いつの間にそんな大きくなれたんだ?」
『わからないー。なれそうってなんとなく思ったのー』
クー太は感覚派だからな。戻ってランに聞いてみるか。
そんなやりとりをしていたら大猿が見えてきた。
くそ。まじで十匹以上じゃないか?もしかしてこいつら高山たちを追いかけてたやつらとか?
本当貧乏くじだ。安全にレベルアップしたいのに。
「クー太、無理はするなよ」
『うん。多分大丈夫ー』
「よし、いっちょ頑張るか」
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