第2話 警戒心



 声が聞こえた。蛇が動かなくなったのを確認し、倒したこと、つまりは殺せたことを理解し地面に膝をついた。


「はぁはぁはぁ。あ、焦った」


 緊張の糸が切れ息が乱れる。

 息を整え少し冷静になる。なんか獲得とか、レベルが上がったとかなんとか言ってたな。本当に異世界転移でもしたのだろうか。クー太の能力が知りたいなぁ…ステータス!とか言ったらなんか出るんじゃないかと考え、念のため周りをチェック。


 ステータス!とか言ってるのを人に見られたら痛い人だと思われるしな……。

 よし。


「ステータス!」


 ………変化なし。いや、人がいないとこでよかった…


 だがアナウンス的なの聞こえるのにステータス確認できないのはなぁ…もっと強く念じる必要があるとか?


 誰が見てるわけでもないんだから色々試してみるか…?思ったらそう行動せずにはいられないが、念のため周りをチェック!


「プロフィール!」


 ……反応ないな…。


「能力開示!」


 ふむ…。


「クー太の能力表示!」



 ————————————————————


 個体名【クー太】

 種族【魔狸(亜成体)】

 性別【オス】

 状態:【 】

 Lv【3】

 基礎スキル:【噛み付きlv2】【体当たりlv2】


 種族スキル:—


 特殊スキル:—


 称号:—


 ————————————————————



「おお!なんか出たな!」


 これは対象を口にするか対象のことを強く考えなきゃだめなのか?

 それと能力表示ってのが大切なのか?試してみるか。


「俺のステータス表示!」



 ————————————————————


 個体名【中野 誠】

 種族【普人】

 職業【未設定】

 性別【男】

 状態:【酒酔い(中)】

 Lv【2】

 ・基礎スキル:【拳術lv3】【防御術lv1】【速読lv2】

       【造形lv2】【料理lv2】

       【毒耐性(中)lv3】【精神耐性(中)lv5】


 ・種族スキル:【無特化】


 ・特殊スキル:【ステータス鑑定】【ボーナス(特)】

       【テイム(特)】


 ・称号:【適応した者】【魔物に好かれる者】  

    【魔物を屠る者】


 ————————————————————



 ふむ。対象を口にすれば情報でもステータスでも問題はない、と。

 じゃなくて!いやいやいや。突っ込みどころありすぎだろう。

 お?ステータス鑑定なんてもってるじゃんか。だから見れるのか?詳細とかも調べられるのだろうか?

 普人の詳細出よっ!



 ————————————————————


【普人】

・魔力に適応した普通の人類。


 ————————————————————



 いや。うん。普通の人類ですがなにか。

 変な性癖持ってたら種族変態とかになるのだろうか…?というか魔力に適応した時点で普通の人類と呼べるのだろうか…?


 それと…職業ねぇ。サラリーマンは職業としては認められていないのだろうか。神殿とかで職業についたりとかすんのかね?

 あと酒酔い(中)とか。わざわざ書かんでよろしい。


 基礎スキルは…今までの経験?それにしては少なくない?野球やってたけど野球とかでてもおかしくないし、釣りも結構頻繁にしてたし…。基準がわからん。

 種族スキル無特化なんて…ディスられてる感じがするな。

 お前は取り柄なんてねーぞ!って言われてんのこれ?


 それに特殊スキルと称号は…。


 あー、いや、詳細出んなら片っ端から見ればいいだけか。でもまた蛇来たら嫌だし…とりあえず雑木林?から出て落ち着いてから確認するかな…。


「クー太すまんな。とりあえず移動しようか」


 ステータスが出た中空から視線を逸らしクー太の方を見ると何やら蹲りゴソゴソしていた。


「!?クー太そんなもの食べちゃだめだ!」


 クー太はこちらに背を向けてるのではっきりとなにをしているのか見えないが、蛇に噛み付いているように見えた。咄嗟に注意してみるものの、クー太は反応しないので慌てて両脇を掴んで持ち上げる。


「ぎゃう!」


「毒とか平気か!?………今は大丈夫そうだな。なんともないならいいが、そんなの食べるなよ…。毒あったらどうするんだ」


 クー太が降りようと暴れるので危ないので下ろす。するとまた蛇に近寄り今度は爪で傷口を引っ掻く。食べないなら、と様子を見ていると血で赤くなったビー玉ぽいのがコロコロっと転がり出てきた。

 クー太は転がり出てきたそれに鼻を近づけ匂いを嗅ぎパクッと…。


「お、おい!?」


 クー太は丸呑みしたのか小首を傾げこちらを見ている。苦しんでる様子はないが、心配だ。毒とかに罹ってないかこまめに様子を見ておこう。


 それにしても先程のあれはなんだったのだろうかと考えるがわからない。蛇の内臓にあんな物があるのだろうか。

 考えて思いつくのはあれだ。ファンタジー+魔物の定番、魔石的な何かだろうか。

 わからないことと突っ込みどころばかりだが、クー太が問題ないなら優先するべきは雑木林から出ることだ。どの方向へ行けばいいかわからない上、魔物?魔獣?みたいなのもいるようだし暗くなる前に外に出たい。


 時間的にはまだ朝だから大丈夫だろうが、早いに越したことはないだろう。


「クー太。今度こそ移動しよう」

「ぎゃう!」


 移動し始め何十分か。二、三十分は歩いただろうか。だが、それほど距離は稼げていない。何故かというとまた赤蛇が出たのだ。しかも三回。

 戦闘自体は問題なく、怪我せず赤蛇を倒した。


 二回目の蛇との戦闘でクー太と俺自身のレベルが一つ上がり、クー太がレベル4、俺がレベル3になった。

 そしてクー太はまた蛇の身体から仮称魔石的なビー玉ぽい、何か。本当なんだろうなこれ。

 まあとにかくそれを取り出してまた食べていたので、二匹目の蛇のビー玉はクー太から一つ貰ってみた。

 え?ほしいの?的な感じで首を傾げるクー太は物凄く可愛かった。


 ビー玉は血を拭ってみたら色は黄色っぽかったので胆石…胆嚢結石的な何かなのだろうか?個人的には魔石であって欲しい。


 それにしても距離が全然稼げていない。なぜならクー太威嚇→赤蛇遭遇→心臓バクバク→戦闘→解体?→クー太に異常がないかチェックと、時間がかかる。異常ないかチェックするのが一番時間がかかっている気がする。


 そして今三メートル先にはまたたぬきがいる。クー太と同じくらいのたぬきだ。そして菓子パンはもう、ない。


「クー太の友達か?」


 クー太は反応せず、新手のたぬきも反応せず睨み合っている。いや見つめあってるのか?狸って目元黒いから睨んでんのかただ見てるのかは横からじゃわからん。


「さすがにクー太と同種の生き物蹴り殺すのも嫌だし、つか野良でも動物殺しちゃまずいんじゃね?ファンタジー化しても異世界転移してても動物を愛護する方達はいそうそうだし…」


 睨み合って動かないのでどうしようかと悩む。仮称魔石をあげたらまたテイムできるかな?やってみる?戦闘になったら嫌だから逃げてもいいんだけど…。

 よし迷ったらやってみよう!


「てことで。これ食べるか…?」


 出来るだけ優しく声をかけ新手のたぬきに向けて魔石を軽く投げる。俺たちとたぬきの間くらいにだ。そして俺は数歩下がって様子見をする。クー太も横について下がった。癒されるわ…。


 新手のたぬきは魔石を投げた瞬間ビクッとしたが、間近に投げたわけでもないので逃げはしなかった。少しずつ魔石に近寄り匂いを嗅ぐ。こちらを見る。魔石の匂いを嗅ぐ。こちらを見てクー太と見つめ合う。


 ………なんだこれ?たぬきってこんな警戒心ゆるゆるの生物だったの?君らそんなんじゃ乱獲されちゃうよ?

 なんて思っていたら新手のたぬきが魔石に食いついた!丸呑みしてすぐこちらに視線を向けてくる。

 さすがに魔石あげただけじゃテイムできないか…。いや、試してみる価値はあるだろう!


 しゃがみつつ声をかけてみる。


「怖くないぞ~?」


「ぎゃう」


 クー太も一鳴き。んー、動かないか。無理そうだな。


「クー太移動しよう。襲ってこないなら戦うことはないよ」


「ぎゃう~」


「何もしないから大丈夫だよ」


 新手のたぬきに一応声をかけて進路をずらしてから、クー太がついて来てるのを確認して進む。

 クー太みたいに後から付いてくるかなー?と少し期待してゆっくり歩いてみる。後から微かにカサカサ音がするのでそーっと後ろを見る。もちろん足は止めない。するとやはりついて来ていた!これならテイムできるかも!?


 歩みを少しずつ緩めクー太と共に後ろを振り向く。やはり三メートルほど後ろについて来ていた。

 様子を見ていると新手のたぬきは少しずつ距離を詰めてこちらを見上げる。



《魔狸が仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る