ファンタジー化した世界でテイマーやってます!〜狸が優秀です〜
酒森
一章 テイマーになりました。
第1話 テイム
「う゛…」
頭痛のする頭を押さえながら横になっていた身体を起こす。視点がはっきりとすると目の前には雑木林の様な光景がひろがっている。
「え…?あー…。酔っ払ってどっか迷い込んだか?」
まあ問題は…ないこともないが、それより鞄だ。
とりあえず抱えてた鞄の中の持ち物をチェックする。
「財布…に…携帯とキーケース…あったあった…。あー、よかった…」
念のため財布の中も確認をし、貴重品の確認ができたので一安心である。
えーと、今は…九時過ぎか。
とりあえず貴重品の確認ができて、落ち着けたのでここがどこか調べるか。
最近は年に一、二回の頻度になったが、昔から学校や仕事が休みの日には飲み過ぎて東京駅で別のホームに降りてしまい、さらには終点付近まで寝て乗り過ごし、降りたあともフラフラとどこかへ行ってしまうことがある。酒を飲んでも人様に迷惑をかけるほど酒癖は悪くないつもりだが、どうしても帰らなきゃ、起きてなきゃって考えがなくなり放浪して朝どこかで目を覚ますことになる。学生の時よりは数段マシだが。
しかし記憶が全くなく、こんな人のいないとこで目覚めたのは初めてである。
「ありゃ?携帯電波届いてないんだが…。ちっ。めんどくさいな…」
地図アプリを開いたが、電波マークが立ってなく現在位置がわからない。
昨日の記憶を整理してみるが…所々覚えてない…。というより肝心などこで降りたかの記憶がない。
最後に確認した時から現金は減ってないし、電子通貨もそんな額入れてないから二千円とか三千円もかかるようなとこに来たわけでもないだろうし…。
中野から乗って終電なら普通に考えて高尾や八王子だろう。だが駅周りにこんな場所なんて…。
「んー。電車乗って乗り換えて…何線乗ったかは覚えてないな…。んで駅員さんに起こされたから慌てて改札を出て…その後なんかあった気がするんだけど…」
声に出して記憶を辿るがやはり思い出せず、少し不安になりながらとりあえず起き上がり、軽く服を叩きつつ付近を見てみる。
道路も見えなければ歩いて出来るだろう草が踏まれた跡も見えない。
本当どうするかなーと、考えつつもジッとしていても意味がないのでとりあえず移動することにする。
移動する前に鞄に入っていたコンビニの袋を取り出し、中身を鞄に仕舞い、木の棒を拾い結びつける。
ある程度歩いて道路に出なきゃ反対側に向かう予定のため、今いる場所にビニール付きの木の棒を刺して自分がいた位置に目印をつけておく。
「さて、とりあえず歩くかね。
うーん。身体が怠いし、まだ酒残ってるなぁ…少しゆっくり行くか」
以前どこの駅か忘れたが千葉方面や神奈川方面に行って起きたらすぐ近くが林だったりしたことはあったが、こうも前後左右人の気配も道路もないとこまで来てしまったのは初めてだ。人様の敷地じゃなきゃいいのだが…いや国有地でも勝手に入ったら問題か…。
数分ほど歩き民家どころか車道すら見えないためちょっと不安になって、感覚を頼りに戻っていく。
行き先がわからないのに一人で十分、二十分も元の場所から離れるのは不安だからだ。
「んーまずいな…酔っ払って遭難とか洒落にならんのだが…明日仕事あるし…警察沙汰は勘弁だなぁ」
上司には気に入られているようだが先輩方にはあまり好かれてないため何かやらかすと、注意とか気をつけるよう言われるのではなく、嫌味を言われるため明日に響くような事になったら嫌だなーとため息を吐く。
目印を見逃さないようにまた十分程歩き少し離れたとこで目印にした白いビニールを見つけた。そのまま戻ってきた道の反対に行くこと数分、ガサガサと音が聞こえ音の聞こえる方に目を向けると一匹のたぬきっぽいのが見えた。
「おお、たぬき!?の子供?」
子たぬきっぽいのは俺の声に反応して逃げるのではなく、警戒してこちらを見て動かない。
「よし、鞄の中に菓子パンがはいっていたな。あげてみるか」
音を出来るだけ立てないように鞄を開き鞄の中で菓子パンの包装を開け千切って取り出す。
「よしよし、何もしないからおいで」
近所の野良猫に餌をあげる感覚で一メートル先くらいに菓子パンを千切ったものをそっと投げてみる。
だが、警戒しているようで一向に動かない子たぬきっぽいのを見て少し後ろに下がる。
菓子パンから三メートルほど離れると子たぬきは上目使いでこちらを見つつ菓子パンに寄って咥えて少し離れて食べる。
「おおー。可愛いな…」
菓子パンを食べる子だぬきを見ながらそっと鞄に手を突っ込み更に菓子パンをちぎり、音を立てないように近くに投げる。子だぬきはこちらが何もしないのがわかったのか少しずつ近づき食べ始める。
それを見つつ自分も菓子パンを一口。酒のせいで胃と喉が荒れているためか菓子パンを食べたら嚥下しづらく喉が乾いてることに気づく。
鞄の中には空のペットボトルはあるが肝心の中身がない。
「はあ、自販機ねーかな」
と、呟きながら菓子パンを全て袋から出し足下に置き、子だぬきを驚かさないよう後ろ向きで離れて移動を開始することにする。
「ゆっくり食べろよ〜」
と言って少しずつ離れ、子たぬきが草に隠れ見えなくなってからまた歩く。やはり何処か焦っており、子だぬきのおかげで落ち着いたのか、先程まで聞こえなかった鳥の鳴き声や風が草を揺らす音のようなものが聞こえてくる。
「ふむ。こんだけ周りが木ばかりだとな…。不安…だけどそれよりも個人の敷地に不法侵入してないか心配である」
まあなんとかなるか、と歩き始め数分。
またガサガサ聞こえる。しかも周りから聞こえてくるきがする。少し怖くなり立ち止まるとガサガサ音も止まる。なんかいるのか?警戒して耳を澄ますとすぐ後ろで音がしたので、勢いよく振り向く。
「っ!?おぉ…び、びびった…」
すぐ後ろに子だぬきがおりこちらを見上げていた。
少し見つめあってみる。噛まれるのは嫌だが、今なら撫でられるんじゃないか?と思うゆっくりと手を伸ばし、威嚇するわけでも逃げるわけでもないようなので撫でてみる。
気持ちよさそうに頭を手に擦りつけてくるのでつい状況を忘れ、その場にしゃがみ撫で続ける。
《たぬきが仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》
ビクッ。
どこからか声が聞こえた。頭に響くようなかんじだ。
子だぬきを撫でる手は止めずに周りを見る。誰もおらず子だぬきに視線を戻すと目の前に【Yes or No】という表示がある。
「はい?なんだこれ?」
とりあえず目を擦りもう一度確認。表示が消えない。手で掴もうとするがなにも掴めず何も起きない。
「ふむ。頭がおかしくなったか、世界がファンタジー化したか、異世界に転移したか。……なんてな…」
鼻で笑いつつもファンタジー系のラノベや文学小説などは割と読むので、少し期待しつつ【Yes】をタップしてみるがなにも起きない。ならばと、Yesと念じてみる。
《たぬきが仲間になりました。称号【魔物に好かれる者】を獲得。称号【魔物に好かれる者】によりスキル【テイム(特)】を獲得》
《テイムした魔物に名前をつけてください》
おい。なんだなんだ。なんかごちゃごちゃ聞こえて来たぞ。
つかそんな突然言われてもわからんわ!
いや、つーかたぬきって。まんまかい。何とか狸みたいに種族名とかねーの?
なんとなく納得がいかないものの、とりあえず子だぬきの反応を見てみるとどことなくキラキラした目でこちらを見ているので名前をつけてみることにする。
「たぬポンとか? んー。全体的に茶色だからブラウン……いやないな。英語だとラクーンとかそんなんだった気がするし、クー太とかどうだろう」
「ぎゃう!」
「ん?今のはOKてことか?魔物とかなんか言っていたがちゃんと理解できてんのか?クー太でいいのか?」
「ぎゃう!」
返事をしてるっぽい…のでクー太に決定。普通のたぬきじゃないの?たぬきって言ってたよね?魔物になったなら名前くらい変えろや。
でもこれ実はただの幻聴でした。とかだったりして、日本ファンタジー化とか実は異世界でした。とかでもなけりゃあ連れて帰れないよな…たぬきって拾って飼ってもいいんだっけか?たぬきだけど狂犬病?の注射みたいなのは必要なんだろうか?
てかたぬき抱えて電車乗れないよな…。とりあえず異世界でも日本でもいいが、街目指して警察かどこかに行って聞いてみりゃいいか。電波通ればネットで調べてもいいし。
色々考えていたら突然クー太が喉を鳴らす様に威嚇を始めた。
「ク、クー太?」
やっぱ仲間になるだなんだと聞こえたものは幻聴で自分に威嚇してるのかと思ったが視線はこちらではなく後ろの方に向いている。なんだ?と思いつつクー太の視線を追いかけてみるとガサガサと音がして真っ赤な絵の具を塗りたくったような蛇の頭が見えた。
蛇の頭はクー太の身体と同じくらい大きい。
「うお⁉︎くるな!」
大きい真っ赤な蛇とか怖いだろう…。
声を荒げつつクー太の横に下り様子を見ているとチロチロ舌を出しながら近づいてきた。
真っ赤な蛇とか……毒持っててもおかしくないだろう。くそっ。
心の中で悪態を突きつつタイミングを見計らい一気に近づき蹴り飛ばす。意外と簡単に飛ぶがその程度で死ぬはずもなく少し離れたとこで蛇は身体を持ち上げ威嚇をする。
跳びかかれてはたまらないので警戒しつつ様子を見ているとクー太が飛び出し蛇にむかっていく。
蛇はクー太に噛みつこうとするがクー太は避け先程より近づいた場所で威嚇をする。クー太と蛇が睨み合っているので太い枝でもないか周りを探してみたが、細枝しか見当たらない。しかし拳大の石があったので出来る限り音を立てないようにそれを素早く拾い蛇の意識がクー太に向いてるのを確認して蛇に投げつける。
「よしっ!」
石が上手く当たり蛇が怯んだ。そこに間髪入れずクー太が蛇の首に噛み付いた。蛇は暴れるがクー太は口を離さず力を込めていく。クー太の口から血が溢れて、蛇の尾がクー太の顔を叩く。
「クー太!離れろ!」
クー太が怪我をするのを恐れ声を上げるがクー太は噛み付いてるのをやめない。
やばいやばい。なんかないか?いや、俺が蛇を踏みつければ…!
急いで二匹に近づき蛇の胴体を掴もうとしたが上手く掴めない。何度かやって掴めたので地面に押さえつける。不快な感覚を覚えるが我慢して踏み、どうすればいいか考え始めたその時。
《赤蛇を倒したことにより称号【魔物を屠る者】を獲得。称号【魔物を屠る者】を獲得したことによりスキル【ボーナス(特)】を獲得》
《赤蛇を倒したことにより個体名・中野誠のレベルが上がりました》
《赤蛇を倒したことにより個体名・クー太のレベルが上がりました》
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