第20話 ダゴン
おい!何か飛ばしてきたぞ!?水、だよな?水鉄砲ってより今の水大砲みたいだぞ。
「水魔法…ですかね。魔力の反応もありましたし。倒せば水魔法のスキルペーパーが出る可能性がありますよ!」
魔法か…。なら捨て置くには勿体無いな。
「んじゃ魔法には魔法だな。まだ木の矢しかできないが。牽制くらいにはなるだろ」
両手を突き出し30センチ程の木の矢を生成し飛ばす。
ぱちゃっ。威力が弱すぎて水に入った瞬間勢いを無くし魚…ダゴンだったか?ダゴンに届く前に勢いは完全に無くなり浮いてきた。
うん。格好つけて両手で放ったのが失敗だったな。まだ片手でしか無理そうだ。
「何してるんですか!」
「……ちょっとした実験だ。次はちゃんとやるさ」
片手で木の矢を生成。先程よりも長い50センチ。大きめのかえしがついた鏃。鏃自体は細いが長めに。狙うは頭部ではなく胴体の方へ。
「はっ」
ビュンッ。気合いを入れて打ったら風切り音を鳴らしながら凄い勢いで飛んでいった。着水した時も先程のようにポチャンなんて音もせず魚に一直線に飛んでいった。
「ん?当たった、よな?」
暴れているのが見えるので当たったはずだが悲鳴とかは聞こえない…。水の中だからか?
「当たりましたよ!また口を開けてます!魔法ですよ!」
「いや、あれはただ痛みでのたうち回って口を開けてるだけじゃないか?あんな暴れながら魔法撃っても変なとこに飛ぶだけだろ」
「それならもう一発打ちましょう!」
確かに。でも陸に上がってきてくれないとドロップアイテムが水没するんじゃないか?スキルペーパーも濡れて使い物にならなくなってしまいそうなんだが。
「いや、少し下がって待とう。矢を引き抜いたみたいだし、俺らが魔法の射線にいなきゃ陸に上がってくるだろ」
そう言いながら下がる。
「別に待たなくたっていいんじゃないですか?」
「ドロップアイテムが水没したら嫌だろ。水中でどれくらい動けるかも、魔物がどれくらい機敏かもわからんし」
「あぁ…。確かに」
「スキルペーパーは濡れても使えるのか?」
「ただの水や火ならスキルペーパーは無事ですよ。ドロップするお肉と似たような魔力の膜が覆ってますから。魔力を帯びた水や火には弱いですが」
「そうなのか?でも肉とは違って触ってもわからなかったが」
「お肉は汚れがついたり、質が悪くならないような膜で、スキルペーパーは損傷を保護する膜です。なので少し触り心地も違うと思います」
「そうなのか。…お。出てきたぞ」
とりあえず様子見をする。のそのそと水を滴らせながら上がってきた。
その姿は魚の頭部、というよりも魚顔の人型の異形だ。人型だが、魚顔で背中や頭部、腕や足にはヒレがついており、水掻きもある。色はモスグリーンで全身には鱗があり光を反射して青魚っぽい。
ついでに意外と大きい。オークやエビルルースターよりも小さいが俺よりも大きい。百九十センチくらいか?
魚は口を開け…無音だ。グオォ!とか聞こえるかと思ったらギザギザの歯が見える口をこれでもかというほど開けるだけ開けて走ってきた。
「えぇー…」
ドタドタドタ!という感じで走り寄ってくる。
「走り方下手か!」
「そりゃあ魚ですからね。基本的陸には上がらないのでしょう」
「そりゃそうか」
ドタドタ走ってきたダゴンを避け背中を蹴り飛ばすと物の見事に顔面からズザーッと転ぶ。
鈍臭いにも程があるだろう…。水の中じゃもっと機敏なんだろうが…一度は潜って戦ってみるか…?でもなあ…。いくら再生があっても酸素がなくなって気を失ったら死ぬよな…。
とりあえず転んで頑張って起きようとしているダゴンの首目掛けライノマンの角を振り下ろす。
ビチビチと跳ね始めたので距離を取って観察しているとピタッと動かなくなり消えていく。
「陸だとアルラウネレベルの雑魚だな」
「ですねぇ…。ちょっと哀れでした」
「まあ作戦勝ちってことで。んでドロップが…サクだな…」
ブロック状の三十センチほどのサクがでた。赤身か…つか切り身かよ。どうしろと。刺身で食えんのかこれ。
「ダゴンのサクですね!焼きますか?この階層なら木の枝とか燃やせるものがありますよ!」
「………ダゴンのサクねぇ…。これ生で食えるか?」
「まあ迷宮内には寄生虫とかも居ませんし、そのまま食べても問題ないとは思いますが…美味しいかわかりませんよ?」
「だが菌とかはいるんだろう?殺菌作用のある水で洗った時何も言わなかっただろ」
「流石に目に見えないほどの菌はいるのかいないのかわからないからです」
「そうか…」
焼いてもいいが…とりあえず魔力の膜を剥がし、殺菌作用のある水をかけてもらい齧ってみる。………生臭くはないな。食感もマグロの赤身っぽい…?まあ不味くはないが上手くもないな。
焼いてみるか。一番近くの木まで行き枝を集める。
「モモ燃やしてくれ」
「はい!」
乾燥した枝ではないので変な匂いもするがモモが頑張って火を焚いてくれたので端を火に焚べて焼けたところを食べる。
「上手くない…」
「そうなのです?知識では調理すれば美味ってありますけど」
「これは調理とは言わないだろ。これなら生で齧ったほうが…いや、変わらんな。火を焚く手間を考えたら生の方がいいってくらいだ。モモ食べるか?」
「私はいらないですー。大地さんがさっき魔法を使った時に漏れた魔力を食べましたし」
いつの間に…。とりあえず食べかけを捨てるのもなんなので頑張って食べ切る。三十センチもあるから腹には溜まる。
「はぁ。なんか損した気分だ」
「まあまあ。次はきっともっといい部位かスキルペーパーが出ますよ!」
「部位とかあるのか…まあ積極的に倒す気は無くなったな」
「じゃあ木の実取りにいきましょ!」
「だな」
気を取り直し先程見つけた赤いのが見えた木のところまで行く。
「りんごだな」
「はい!りんごですね!」
「味もちゃんとりんごか?」
「地上のりんごと同じかって事ですか?」
「ああ」
「それは…わからないですね。ただ甘くて美味しいって知識だけはあります」
手の届かない高さにあるので思い切りジャンプして一つ叩き落とし、服で表面を拭ってから恐る恐る齧ってみる。
「あっまあ!?」
「私も少し食べていいですか?」
え?魚食わなかったのにこれは食うのか?そう思ったが甘さにやられて口を開くのも億劫になったのでモモの前に差し出してやると啄み始めた。
「本当甘いですね!魔力が豊富で美味しいです!」
なら好きなだけ食ってくれ。俺はこの甘ったるいのを食べるならダゴンのサクを食べる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。