第19話 魚


「ほい。一分」


「うう…。でも前よりは優しかったです…」


「もっと痛い方がいいのか?」


「あ、いえ!反省しました!」


「まあいいさ。実際隠し部屋なんてわからなかったし、隠し部屋をわざわざ探すなんてしてたら帰るのがいつになるかわからないしな。でも…落とし穴とか罠って全然ないよな?落とし穴に落ちても死にはしないだろうって気持ちで行動してるからあんま気にしてなかったが」


「このダンジョンは罠の数はそこまで多くないですよ?罠だらけのダンジョンもあるみたいですけど…ここは…色んな種類の魔物を配置するコンセプトって言えば良いでしょうか。魔物に力を入れてるみたいです」


「………コンセプトって。実は人間がダンジョンマスターです。とかないよな?」


「はい。ダンジョンコア、迷宮核、呼び方はどちらでも良いですが水晶玉みたいなのがダンジョンの本体で、魔物や罠を作ったりするのも迷宮核です……一応」


「一応?」


「一応です。知識によると最下層にボスがいるんですが、そのボスが迷宮核らしいです」


「どういうことだ?」


「うーん。迷宮核本体は水晶玉ですが、姿形を変えてる、って思っていただければ」


「了解。よくわからんが最下層にいる魔物が迷宮核自身ってことだな」


「はい」


「まあそれはまだ先の話だしいいか。この階層にいる魔物は見当つくか?」


「湖があるからガーゴイルとかは違いますし…リザードマンですかね?」


「でも見えないよな。木は結構あるが隠れられるほどじゃあないし。リザードマンは水棲とか?」


「いえ、陸棲のはずです」


「ふむ。とりあえず湖まで行ってみるか」


「はい」


湖もこの空間も思った以上に巨大らしく、湖は見えているのにたどり着くのに十分ほどかかった。


「綺麗だな。だいぶ澄んでるから魚がよく見え…ないな?」


「ダンジョンですからね。普通の生物は居ませんよ。いたら魔物です」


「そんなもんか」


「はい。それと二十階層代は中型の人型が配置されているので魚の魔物は居ないはずです。人型の魚なら…人型の魚も知識にありました。ダゴンって魔物ですね」


「人型の魚か…。二足歩行してる魚しか想像出来ないが…だがこれだけ透き通っているんだから居ればわかるだろ?」


「いえ、湖はかなり大きいですし中心辺りとか反対側の方にいるのかもしれません。それに透き通っているとはいえ岩とかもありますから隠れているだけかもしれませんよ?」


「ふーん?なら湖に入らなきゃ問題ないのか?」


「いえ、人型と言ったように、魚の顔でエラやヒレもありますが手足もちゃんとありますし、陸上でもある程度は活動できるみたいです」


「想像できないが…まあ水中に入らなきゃとりあえず大丈夫だろ。水浴びはしたかったが…」


「少しなら大丈夫じゃないですか?それに水で満たされている階層もありますしここで水中関係のスキルを取っておくのもいいかと!」


水中で襲われたくはないんだよな…。トラウマ…に近いが、昔に夜の海で遊んでいた時気がついたら陸から離れすぎて焦って戻ろうとしたら周りにクラゲがたくさんいて更に焦って…無我夢中で陸まで戻ることができたが溺れていてもおかしくなかったし、あれ以来昼間でも濁っていて周りが見難かったり、綺麗でも底が見えない場所では泳ぎたくないんだよな…。

これほど綺麗な水でも泳いで死角から魔物に襲われたら絶対に戦闘どころではなくなる自信がある…。


「やめておこう。湖の周りを歩いて魔物が出るのを待とう。姿形も強さもわからない相手が居るだろう湖に入るなんて嫌だしな」


「わかりました!なら湖沿いを歩きながら木々を見ましょう!もしかしたら何か実がなっているかもしれませんし!」


「木の実なんてなっているのか?」


「はい!地上の果物を参考にして似たものを作ったようですよ。ここのように木があれば実がなっている木もあるかもしれません!」


食料が手に入るならば。とモモの提案に従う。湖沿いに歩きながら視界に入る木を注意深く見て行く。湖から魔物が出てくる可能性もあるからそちらの警戒はモモに任せて進む。


「お、あの木。赤い実がなってないか?」


「どこです?」


「あれだ。結構遠いが…」


結構離れたところにある木だ。


「本当ですね。私もよく見えませんが赤いのは見えます!」


「んじゃ行くか」


「は、い!?大地さん後ろ!」


モモの焦った声と同時に咄嗟に前へ駆け後ろを振り向く。


「焦った…。なんだよ。なんもいないじゃねーか」


「居ます!水の中!ここですここ!」


モモが湖まで飛び湖の上で羽を下に向け何かを指す。


「そこに魔物がいるのか…?でもなんで出てこない?」


「わからないですけど…!?み、見られてます!大地さん私見られてます!」


「そりゃぁ…真上にヒヨコが飛んでたら魚だって見るだろう…」


「そ、そうですが…」


ふよふよ〜っとモモが戻ってきた。一応警戒してモモが指していたところを注視するがここからは魔物の姿は見えず、出てくる様子もない。


「どうする?無視して木の実を見に行くか、近づいて誘き出してから戦うか」


「それはお任せします!けど怖かったです!オークより凶悪な顔してましたよ!」


「魚…の顔した人型…だよな?」


「はい」


どんな魔物が見ておくか。別にこの階層は魔物と戦わなくても普通に通り抜けられそうだけどドロップアイテムも気になるし、スキルペーパーもどんなものが出るのか知りたいしな。


「じゃあモモ」


「はい!」


「魚の上に行って、近づいたり遠ざかったりしながら少しずつこっちまで移動してくれ」


「はい!………それって私を餌だと思わせて誘き寄せるってことですか!?」


「餌だと思わせるってか、餌だな。食いつかれないように頑張れよ?」


「いーやーでーす!私なんて一飲みですよ!?大地さんが近づけば出てきますよ!私が食べられたらどうするんですか!」


「他の妖精を探す…のは少し面倒だな…」


「!?」


「冗談だ」


「だーかーらー!」


「冗談に決まっているだろうが。ほら行くぞ。水中で呼吸出来るようなスキルが出たら嬉しいな。泳ぐ気はないが」


モモが俺の頭を突いてきたが…なんの痛痒も感じない…。こいつだって生活魔法だろうが戦闘には参加しているんだからレベルが上がっていてもおかしくないんだがな…。弱いな。


「お、ここまで来たら見えるな。頭だけだが。それにしても動かないぞあいつ。餌でもあげてみるか?」


「ってなんで私のこと掴むのですか!私餌じゃないですよ!もう少し成長しないと美味しくないですよ!」


「まあ…ヒヨコを食べるとは聞かないよな。やっぱ鶏にならないと食べるとこがないのか?」


「私はきっと不死鳥とかガルーダとかに進化するのです!鶏なんかに進化しませんよ!」


「へえ」


「あ、信じてない!いいですよ!進化して大地さんを惚れ直させてやります!」


「そもそも惚れてないから惚れ直すも何もないが…まあほんのちょっとだけ期待しておくよ」


「どれくらい期待してくれてます?」


「再生持ちの俺が普通に老いていく可能性くらい」


「それ期待ゼロですよね!?ゼロですよ!良いです!結果で示してやります!」


「楽しみにしておく」


「ふんっ。あ、動きましたよ」


「動いたってか…口を開けたな。デカイ口だな…!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る