第18話 昼寝


二十五階層に降り立った。

これまでなんだかんだと休みをほとんど取らないできたせいか疲労を感じ始めていたが、二十五階層に辿り着きその景色を見た瞬間余計に疲労感を感じた。


というよりも気が抜けた、と言った方がいいだろうか。

階段を降りた先にあったのは、通路の様な構造ではなく広大な草原だ。床には踝くらいまで草が生い茂り、木々が疎らに生え、巨大な湖が見えた。

湖はキラキラと光を反射しており、上を見ると巨大な電球…ではないだろうが光っている大きな球体が見えた。太陽ではない、だが太陽の様に暖かい光りである。

そして遠くに見える左右、正面の壁は緑色一色で壁があることはわかる。降りてきた方へ振り向くと階段と壁。壁はやはり遠目に見える壁と同じで緑色。よく見てみると緑色の苔である。


そしてなんと風が吹いているのだ。草木の香り、湖がたるせいか少し湿った空気。どちらかと言えば涼しさを感じる風。

迷宮だろうが地上だろうがこんな光景を見たら驚きと同時に深呼吸をしてしまうのも致し方ないだろう。

その結果身体に疲労が溜まっている事を自覚してしまい、座り込む。草のクッション。そう言っても過言ではないほどの密度で草が生えており、このまま日向ぼっこしていたくなる。


「感動するのはいいんですけど、なんかやる気ゼロって顔してませんかー?というかすでに寝転んじゃってますし!」


「ああ…。ここは気持ちがいいな…。寝ていいか…?」


横になって風や陽光、草の匂いを感じていると眠りたい衝動に駆られる。結構疲れてたのかもな。


「えっ。寝るんですか!?い、いや、まあ確かに休憩も大して取らず丸一日も行動して来ましたし、レベル1の状態で二十階層から二十五階層まで一気に来るなんて正直狂気の沙汰だとは思いましたけど!ですけど!そんな無防備に寝たら襲われちゃいますよ!?」


あー…頭があんま働かなくなってきたな…腹立つこと言われた気がするが…。


「あとで…説教、な」


「え!?ほ、ほんとに寝るんですか!?」


「襲われても、即死じゃなきゃ、なんとかなる…だろ……」


「あ、まじで寝ちゃいました…?確かに即死じゃなきゃ何とかはなりますが…仕方ないですね…。お疲れ様です」



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



あ?ここどこだ…?

ああ…ダンジョンか。手や頬に触れる草の感触を感じ思い出す。すげー寝た気がする。陽の位置は変わってないが…まあダンジョン製だし変わる物ではないのだろう。そういえば再生があるからといってこんなところで寝てしまったが大丈夫だろうか?心配になり咄嗟に身体を起こす。


ポテッ。


ん?なんかお腹の上から落ちたか?音がした方を見てみるとヒヨコが横を向いて倒れていた。


「………生きてる、よな?」


お腹のところを見ているとわかり難かったが呼吸によって上下に動いていた。迷宮妖精も寝るんだな。


「俺もモモも怪我はないし、周りが荒らされた跡もないな」


よく考えたら今まで結構階段降りてすぐに魔物に会っていた。少し不注意だったな。でもまあ…こんな気持ちが良いし仕方ないだろう。まるで春の陽気のような…あの太陽みたいなのはなんなのか、とかモモが起きたら色々聞きたいな。


そして俺はもう一度横になってモモが起きるのを待った。寝ているモモはぱっと見まるで死んだ鳥のようだが、うるさくないと可愛いもんだ。ステータスでも見て待ってるか。


————————————————————


個体名【泉 大地】

種族【日本人】

性別【男】

Lv【38】10UP


スキル

・戦闘スキル

【格闘術2】【受身3】【腕力上昇1】

【肉質向上1】【聴覚上昇1】【魔力操作1】

【生命力上昇1】【木魔法1】【表皮硬化1】

【脚力上昇1】new


・耐性スキル

【苦痛耐性3】【物理耐性3】

【毒耐性3】【精神耐性3】


固有スキル

【再生】【種】【ドロップ率上昇】

【時空間魔法】【超速再生】

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うーん…。キングエイプ、オーク数匹倒した辺りまでは一気にレベルが上がってたが…。最後にステータスを確認してからライノマン十数匹、イビルルースターとイビルへェンを十数匹…正確な数は覚えてないが結構倒したはずなのに10アップ。自分よりレベルが高い相手を倒すと多めに経験値が貰え、自分と同レベル帯や低い相手だと経験値が低かったりするのだろうか?それともレベルの上がり方はこんなもんなのか…。

それとスキルレベルが全然上がらない。チラッとモモを見るとぐっすり眠っている。いつもなら叩き起こすが…寝かしておいてやるか。その間に筋トレと魔力を操作する練習…魔トレ?をしてみるか。


そしてひたすら腕立てをする。ただ腕立てをするのではなく魔力を意識し、腕や脚、背筋や胸筋、腕立てをして負担がかかりそうなところに魔力を集める。【脚力上昇】とか【腕力上昇】がこれで上がるかはわからないが【魔力操作】にはなっている…はずだ。そして体感で一時間以上は経った頃ようやくモモが起きた。


「ふぁ…」


「ふっ。ふっ。ふっ。お。起きたか」


「あ、寝ちゃってました?すみま…なにをしているのです?」


「見ての通り腕立てだ。再生のおかげかレベルアップのおかげか全然疲れないんだよな。なんだか楽しくなってくる」


「スキルレベルを上げるトレーニングってことですね。普通の訓練よりもより多くの魔物を倒してレベルを上げていけばスキルレベルも多分上がっていきますよ?」


「そうなのか?だが、無駄ではないだろ?」


「無駄ではないですよー」


依然と腕立てをしながらモモと会話する。腕立てをして筋肉がついても再生で戻ってしまうのかもしれない。だから普通の筋力というのはもうつかないのかもしれないが、スキルレベルを上げる一因にはなってくれると信じて腕立てを続ける。


「そういえばあの太陽みたいなのとか、この風とか、この階層とか。色々説明が欲しいんだが」


「あ、はい。あの光ってるのは発光花が巨大化したやつですね。よく見ればわかるんですけど、巨大な発光花以外にも周りには発光花が結構ありますよ」


「何でこの階層の発光花だけあんなでかいんだ」


「それは…知識にありませんねー。ダンジョンがここをこういう形で作った、と思っていただければいいかと。それで風は何処かに送風花とかそれ系の植物があるのかと。二十五階層が特別、ってわけではなくこういう階層は時々あるらしいですよ」


「ほー?遠目に壁が見えるがこの階層はこの部屋、と言って良いかわからんが、この大部屋だけなのか?」


「多分そうです。ここまで大きいとなると他の部屋や通路がある可能性は低いですね。隠し部屋とかならあるみたいですが」


「隠し部屋?」


また後出しか…。


「はい。通路だけのところは落とし穴みたいな形で隠し部屋があったりしますし、この階層ならあの湖の中、とか。色々な場所につくってあるみたいです…よ?あ、いえ…えーっと言わなかったのは、私も大地さんもそういうのを発見する技能がないので必要ないかな…と?」


「忘れてただけだろう?素直に言えば優しくしてやる」


「はい!忘れてました!」


「その潔さに免じて…一分だけで許してやる」


「えーっと…なにが一分…なのでしょう…?」


そう言いつつ逃げようとしているモモを掴みあげ、一分間握り締める。

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