第11話 二十二階層
「は…?お前まじでなんかしたのか?」
「いえいえ!私はしてませんよ!出会って短いですし、意地悪ですし、ノリ悪いですけど、なんだかんだ言っても大地さんのこと結構好きですし!あ、好きってそういうことじゃないですよ!勘違いしちゃあダメです!」
「いきなり何故ツンデレ。というか喧嘩売ってるのか?あ?言い値で買ってやるぞ?」
「暴力反対です!」
「というかヒヨコに恋愛的な意味で好かれても仕方ないだろうに。まあ…俺もお前のことはなんだかんだとそれなりに信頼はしているさ。……だからこそ。隠し事があるなら言ってくれ」
「隠してたわけではないですよ?基本的に私達ダンジョンフェアリーは言ってはいけない事は記憶にありません。でもパートナーが気づかないなら自分から口にすることを禁じられていることはあります。それが先程のことですね」
「つまり?」
「私が精神魔法を使ったとかじゃなくて、ダンジョンには進入した人間が下層へ行きたくなるような特性があるんですよ。精神魔法、というよりダンジョンの特性ですね。
大地さんが気づかなかったら私もこの話はできませんでした」
「まあ…信用しよう。俺は精神耐性が高いから気付いたのか?」
「多分そうかと思いますよー。精神耐性だけじゃなく他のスキルやレベルも関係しているかもしれませんが、そこら辺は詳しくは知りません。けれど、会った当初にも言いましたが基本的にスキルレベルを1から2にするのって凄く大変なんです。才能があっても相当鍛えないとレベルは上がりません。だから初めから精神耐性のレベルが3とかどんな拷問を受け続けたらそうなるのかってレベルです!」
「まあなんとなくわかった。スキルレベルに関してはまあ色々と思い当たることはあるが…今はいいだろう」
「そうですか…それでどうします?上に行きます?」
「あ?何言ってんだ」
「え?」
「上に帰りたかった理由は、ここら辺の魔物にはレベル差がありすぎて敵わない。ボロボロになりながら再生すれば勝て可能性がある。って話だったから地上へ帰えるつもりだったんだ。
今なら問題ないだろう?それよりもっとレベルを上げて、魔法スキルを探して、と。やりたいことができたからな」
モモがダンジョンが下層に誘導していることを話せなかったせいかちょっとしんみりしていたので、そう言って笑ってやった。
「さすが大地さんです!これからもサポートしていきますね!」
「あぁ。頼むぞ」
結局下層に向かうことになったがまあ楽しくなっているのは本当だからな。痛い思いもしたが…それよりもこの未知に、魔法にどうしようもなく惹かれる。
これもダンジョンの誘導の一つなのかもしれないが…まあいいだろう。楽しめているのは事実だしな。
「そういえば俺がこんなにも適応というか、この環境に順応が早い理由もダンジョンの性質か?」
「いえ?それは大地さんの元からの性格だと思いますよ?」
「…」
気を取り直してアルラウネと戦った…アルラウネを潰したところから移動し、下層への階段を探し歩く。
オークが何度か出てきたがもうほとんど苦戦しない。
アルラウネはあれ以来見ておらず、この階層はオークがメインなのだろう。
オークが三匹現れた時は怪我をしたが最初のように意識を失ったり、倒れるような怪我はしなかった。
しかし、オークを何度も倒したが【鑑定】など欲しいスキルは出ない。というか肉質向上のスキルの出現率が高い。
最後にステータスを確認してから八匹倒して【肉質向上】が四つ、【腕力上昇】が二つ、【聴覚上昇】が一つ、そして【嗅覚上昇】。これは初スキルだ。
肉質向上のスキルが自分の肉質が向上するのではなく、相手‥はなんか嫌だな。スーパーで買った肉の肉質を向上させられるとかならよかったんだがな…。
なんてことを考えながら歩いていたら階段を見つけた。
「やっと見つかりましたね!」
「ああ。次の階層はどんなところかね」
「どうですかねー。次は確かアルラウネがメインの階層のはずです!この階層で見たのはオークとアルラウネだけでしたし。まあ湖とかがなければパパッと移動して次の階層に向かいましょう!」
「そうだな。まあアルラウネなら楽だな。あいつらの攻撃は効かないし、物理的な強さは無いしな」
そして二十二層に降りるとそこは二十一層より草が生い茂っている階層だった。壁は石壁だが蔦に覆われていたりキノコが生えている。
構造は二十一層とあまり変わらない。広い通路がずっと伸びている。
そういえばさっきの階層で広い部屋とかは見なかったな。本当に迷路のように通路しかなかった。
お?早速アルラウネか?男バージョンぽいが。通路の先に何か動いているものを捉えた。
「あれはマンドラゴラですね。まあ名前が違うだけでアルラウネ雄とかでも構わないです!」
「雑だなおい」
「でも能力が少し違いますね。アルラウネは混乱させたりするような胞子を飛ばしたり、たまに魔法を使う個体もいますが、マンドラゴラは叫び声を上げて、音で混乱状態や錯乱状態にさせるような魔物です。
パーティを組んでいる人間へ同士討ちをさせるような能力がメインですね!」
「なら安心だな。モモが錯乱して攻撃してきても痛くも痒くもないし」
「事実ですが………あれです!水を出して頭からかけたり、ズボンを濡らしてお漏らししたかのように見せたりはできます!」
「地味に嫌だな。……………なあ。水源探さなくてもモモの生活魔法で出した水は飲めないのか?前も思ったけど戦闘中だったから頭の片隅に追いやってたが」
「あ!そうですよ!生活魔法なんだから飲めるに決まってるじゃないですか!なんで今まで気がつかないんですか!」
「いや…お前が気づけよ…。俺は魔法ってのに馴染みがないんだから魔法で出す水は飲めないって無意識に思ってたのかもしれないし、思い至らなくても仕方ないだろ。というかお前の手から出て来た水って…本当に飲めるのか?」
「なんですかそれ!私が汚いとでも!?」
「いや…そうじゃないが…飲めるんだよな?とりあえず水を出してくれ」
「む…したかないですね…」
ぶつくさ言いつつも魔法を使ってくれるモモ。両掌で器を作りそこに水を出してもらう。
あ゛ぁ゛ー。水がうまい。冷たいし。
「もっと頼む」
「もう仕方ないですねー」
浴びるように…というより最後の方は頭から被って実際に浴びていたが満足した。
「ありがとうな。問題なく飲める」
「それならよかったです!まったくー。水源探す必要なかったじゃないですか!」
「いや、別に探し回ったわけじゃないだろう?移動した先にあれば良いな、程度で。というか、本当なんでお前が気づかないんだよ…。なんのための生活魔法だ」
「し、仕方ないじゃないですか!知識はあっても生まれたばかりですから!まだ0歳ですよ私!」
「む。そう言われるとそうだな…。俺も気づかなかったしおあいこってことで。また水頼むな」
「仕方ないですねー!また出してあげます!」
なんか偉そうだが…まあモモに頼ってるのは確かだしな。
あ…!マンドラゴラのこと忘れていた。
モモから視線を外し、マンドラゴラを見る。
動いて、ないな。アルラウネもそうだったが、足があるのに動かないのは何故だ?
「なんであいつは動かないんだ?すっかり忘れていたから今襲われたら攻撃を受けていたと思うんだが」
「さあ?なんででしょう?力がないので直接攻撃しても意味ないからでは?さすがに彼らの生態に関して詳しく知りませんよ?」
「まあいいか。待っててくれてたんだし、そろそろ相手をしてやるか」
相手ももうとっくに気づいているだろうから普通に近づいていく。
一応初見なので警戒はしているが、大丈夫だろう。
そのまま近づいていくと突然金切り声のような音が聞こえてきた。
ああ。これが混乱・錯乱させる音か。不快なだけだな。
モモは大丈夫だろうか?モモの方を見る。
あれ?いない?
あたりを見回すと先程会話していた場所から動いていなかった。
あいつなにしてんだ?後で聞けばいいか。
とりあえずマンドラゴラに近づき棍棒を振り下ろす。マンドラゴラは潰れ、すぐに消えてゆく。
本当物理防御力弱いな。
モモの方を向くと、フヨフヨと漂いながらこちらに向かってきた。
「お疲れ様です!」
「おう。なんでついて来なかったんだ?」
「なんとなく嫌な予感がしたので。多分あの音を間近で聞いたら影響受けそうです」
「あー、そうなのか。なら離れていた方がいいか。もしモモが錯乱状態になったらどうすればいいんだ?」
「なにか衝撃を与えたり、押さえつけておいてくれれば時間経過で元に戻ると思います!」
「わかった。もし、モモが錯乱状態になったら鷲掴みしておけばいいのな」
「鷲掴みしなくてもいいです!ちょっとかるーく!ペチペチって感じで叩いてくれれば!」
「大丈夫だ。ちゃんと手加減する。それに叩き落とす方が手加減しづらい」
「叩き落とす必要はないのです!かるーくで!かるーく!鷲掴みするとしてもちゃんと手加減してくださいね!潰さないでくださいよ!?」
「任せろ」
「ふ、不安です…」
さてドロップはなにかね?
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