アルルと秋色①
最初は懐かしい風景だと目を細めていたが、今となってはもはや見慣れた景色と言えよう。
何せ最近は、ここに通うのが俺のルーチンワークになっていたのだから。
夕焼け空から降り注ぐ斜陽で、茜色に染まる中庭。
そんな中庭と共に朱に交わらんと、顔を真っ赤にして俺は少女の言葉に応えた。
「……バカ言ってんじゃねーっつーの。俺はお前なんか大っ嫌いだ」
顔を真っ赤にしてと先述したが、夕日に染められているので、目の前の少女にソレを悟られることはないだろう。
そう思って俺は努めて平静を装った。
だというのに少女はソレを見透かしたようにクスクスと微笑みながらさらに言葉を紡いだ。
苦心して動揺を抑えたというのにあっさり看破されてしまった。益々顔が熱くなっていく。
いや、コレは気温のせいだ。
衣替えが成されたばかりで、未だ我が物顔で居座り続ける残暑のせいに違いない。俺は無理矢理自分を納得させた。
しかし無駄な努力だったようで、結局俺は堪え切れずに言葉を発してしまった。
「お前の方こそ、俺のこと好きなんじゃねーの?」
そう口にしてからすぐさま後悔の念が押し寄せてくる。
うわー……うわー……何を言ってるんだろう俺は。
我ながら子供みたいだ。
時と一緒に精神年齢まで遡ってしまったのだろうか。
……あ、自己紹介が遅れたな。
俺の名前は
二十五……あ、いや、確かこの時は……十七年間純潔を守りぬいた、未だ穢れを知らぬ童貞紳士だ。
つい今さっきのお前の発言は、どう考えても紳士じゃないだろ、と言われたら返す言葉もないんだが。
ま、そこは見て見ぬフリをしてくれれば、甚だ幸いである。
そんな童貞紳士……あ、いや。到底紳士とはかけ離れた俺の発言に、突然憂いを帯びた表情になった少女が応える。
「ええ」
凛とした涼やかな声が、閑散とした中庭に響く。
どうにかしてさっきの発言をなかったことにできないか、考えを巡らせていた俺の思考は、彼女の返答によって急停止させられた。
「……は? 何だって?」
「……ええ、好きよ」
……一体、どうしてこんなことになっちまってるんだろーね。
そもそもなんで俺はこんなところにいるんだろう。
何しにこんなところにきたんだろう。
俺はフリーズ状態になった脳味噌に再起動を命じ、記憶の復元を試みたのだった。
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