ゲス共の戦場~球技大会編~③
翌日。
さてどうしたモノか。
元の自分と同じで、情熱のカケラも持ち合わせていないBチームのメンバー達をどうやって奮い立たせるべきだろうか。
秋色はこういったことにだけやたら回る頭を捻り始めたのだった。
「……ふむ」
こういった行事に友達と燃えた経験のない賢は、実はこういうシチュに憧れているであろうことを見抜いているので問題なし。
こっちがテンション上げればついてくるだろう。他のメンバーも大半はついてきてくれるはず。
……しかしまだ弱いな。ダメ押ししておこうか。
「委員長。委員長」
「……ん?」
廊下側から教室にいる委員長に静かに、周りに気取られないように手招きをする。
「どうしたの?」
やはり気の回る娘なのだろう。訝しみながらも声を殺して彼女は近づいてきた。
「俺、やるよ。球技大会。めっちゃ燃えてきた」
「え、本当に? どうして?」
「まあ色々あってね。でさ、委員長にお願いがあるんだけど……」
「な、何……? 言っておくけど不正とか駄目よ?」
「多分優勝したら、賢が委員長をネズミの王国に誘うと思うんだけど……」
「え、えぇっ!? さ、賢が!?」
「そう。で、委員長さ、賢のこと……」
「な、な、な、何よ? 昨日も言ったでしょ? あいつの世話焼くのは小さな頃から知ってるし、家も近所だし、わたしが委員長だから――」
「ソレだ」
「――え?」
「その否定をしばらく我慢して欲しいんだ。ソレが本気か嘘かはともかく、あいつって妙に意地っ張りだからそう言われたら絶対素直になれないと思うんだわ。そしたらあとは売り言葉に買い言葉でケンカになっちまう」
「……んん」
思い当たる節があるのだろう。彼女は口元に手を当てて考える仕草をする。
「だから、しばらく恥ずかしくても我慢してくれ。ソレだけでOKだ」
そう言って秋色は教室に戻って行った。
……次は賢だ。
「なあ、賢」
「……んあ?」
「俺、球技大会マジでやるよ。ぜってー優勝する」
「ええ、何で急に? ダラダラしよ~ぜ~」
「賢」
「何だよ、肩組むな気持ち悪い」
「お前、優勝したとしたら、一緒にデートに行きてぇ女はいねーのか?」
「……いねーよ」
「……委員長、誘ってみたら?」
「はぁ!? 何で!? ありえねーし!」
正気か、とでも言いたげな目でこちらを見る賢。
「もういい加減ジュンコ先生のことは忘れろよ。多分委員長お前のこと好きだぞ」
「えぇ!? ソレこそありえねーだろ……」
「バッカ、考えてもみろ。いくら家が近所で幼馴染だからって、オメーみてーなヤンキーの、ソレも実は弱くて腰パンなんて時代遅れのセンスのヤツの世話なんて焼くかフツー?」
「秋、ケンカを売ってるのか?」
「違うって。でもコレはマジ。委員長のオメーを見る目は恋する乙女のソレだ。優勝できたら誘ってみろって。絶対OKだから。俺が保証する」
「マジか……」
そう言って賢が友達と談笑している委員長の方を見る。二人の視線が交差した。
秋色の先程の言葉で、賢のことを意識しているのだろう。
委員長は恥ずかしそうに頬を染め、目を伏せた。
「な」
「マジかよ……そうだったのか」
「頑張ろうぜ。俺も全力でサポートする。目指すは優勝だ」
「あ、秋……じゃあお前、俺の為に……?」
「……ダチ、だろ?」
「うおおぉぉおおっ!! 分かったぜ秋!」
「おう!」
『目指すは優勝だ!』
……ククク、計画通り。コレで完璧だ。ちょろいモンだぜ。
秋色は胸中で笑みを浮かべた。
「何、お前ら、今更やる気出したの?」
二人の声が聞こえたのだろう。というか聞こえないワケがない。宗二が近寄ってくる。
「そうだよ。オメーらにゃ死んでも負けねーぞ! つーか話し掛けんな裏切りモンが!」
「はっはっは、やめとけって。あんま力むと負けた時ショックでけーぞ?」
「うるせー! 消えな! このマザーファッカーが!」
「帰れ! シットイーター!」
二人は外人に聞かれたら瞬殺されるような暴言を、余裕たっぷりの宗二の背中に浴びせた。
……許さーん! というかもう引くに引けん! どんな手を使っても勝ってやる! そしておっぱいをこの手に!
秋色はより一層やる気を滾らせた。根源は性欲なのだが。
賢の篭絡は予想通りあっさりできた。問題は残りの例外面子だ。
例えばこいつ。
長いまつ毛にさらさらとした栗色の髪。美少年としか言いようがない外見とは裏腹に、中身はキモオタ百%のケーツーこと
クラスの女子からは「変態王子」やら「ゲス王子」などと言われている。口癖は「うはwwwおけwww」。彼がいることで秋色はクラスNO・1ゲスの汚名を何とか回避できているのである。
次にこいつ。
明らかに高校デビューの方向を間違えたエセヒップホッパー、アンディこと
口癖は語尾を「YO」やら「ZE」やら英語変換するうざい口調。
極めつけはこいつだ。
クラス内に友達と呼べる人間が一人でもいるのか、ソレすらも怪しい軍事オタク、サバイバルこと
自称軍曹。口癖は「~であります」や軍事用語の連発。
ちなみに彼らにあだ名をつけたのは秋色である。彼は他人にあだ名をつけるのが趣味なのだ。
……さて、この灰汁の強い連中をどう誘導するか。
しかしこの問題はあっさり解決した。ケーツーには――
「お前顔はいいんだから、ここで運動神経もあることをアピっちゃえばモテモテだぞ。あーいった『クラスの男子を応援する自分に酔ってる女子』なんざ優勝チケットで自分をデートに誘う為に頑張ってると勘違いさせれば童貞脱出も確実だずぇ~」
――と誘う。案の定ケーツーは、
「マwwジwwでwwうはwwみwなwぎwっwてwきwた」
となる。
「つかwww僕顔いいっスかねwwフヒヒwwwサーセンwww」
ちょろいモンである。
ちょっと勘に障ったので、
「でも優勝するまではクラスの女子に甘い顔すんなよ。あいつらは応援する自分に酔ってるだけなんだから、ソレまでは冷たくして『ケーツーくん。あたしなんか誘ってくれないか。あたしなんか駄目だよね』って思ったところを誘うのだ。主従関係を教えてやれ。女尊男卑の時代は終わったのだ」
とまでつけ加える。
「うはwwwおけwwwたまにはエスでwww」
予想通りの返事だった。
次、アンディ。
「お前のその喋り方、超イケてるよ。あ、イケてるYO! ブームってのは待つモンじゃない。作るモンなんだ。お前が球技大会で活躍して優勝でもすれば次の日には学校中がYO! の嵐だぜ。想像してみろ。授業も校内放送もアンディ語に統一された世界を! ……俺は死んでもヤダけど」
「マジKA! コリャやるっきゃないZE!」
……ちょろ過ぎる。俺、外交官になれるかも。
最後。
……さてどうしたモンか。あいつは取っつき難そうだな。だけど案外ああいうタイプの方が扱い易かったりするモンなんだ。
「なあ、鯖春」
「……何か用か? 自分のような人間に後ろから声を掛けるのはタブーだ。誤って反射的に攻撃してしまう可能性がある。寝込みも同様だ」
……うっわ、めんどくせ……仕方ない。ノリを合わせるか。
「俺はこの度チームBの……いや、B小隊のチームリーダーになった戸山秋色少尉である」
「……! 少尉殿でありましたか! 大変失礼しました。ご無礼をお許しください!」
……食いついた。敬礼のおまけつきだ。
「……よい。諸君らも知っての通り、球技大会なるミッションの期日が迫ってきている。コンディションには最新の注意を払うように」
「サー! イエッサー! ……ですが少尉殿、井上が言うにはこちらのβチームはαチームの搾りカスで構成されていると聞き及んでおりますが……?」
……べ、べーた? あるふぁ?
「ソレは表向きの話だ。実際にはαチームは派手に動いて敵の目を引きつける陽動部隊、デコイだ。真のミッションはノーマークの我々が各個撃破、殲滅することにある」
「な、何と……!」
「その為に宗二は敢えて危険の多いαチームに志願したのだ。他の部隊と通じているスパイの目を欺く為、我々と仲違いした風な演技までしてな」
「そ、そこまでお考えだったのですか……!」
「日頃の鍛錬の成果を見せてみろ。諸君らの健闘に期待する」
「お、お待ちください少尉殿!」
……な、何だよ?
「……何だね?」
「そんな機密情報を一軍曹である自分などに喋ってしまってよろしいのですか?」
「……設定が細けーな……うほん! コレは他の連中には内密に頼む。ソレだけ、俺はキミを買っているということだよ。では」
「しょ、少尉殿!」
……な、何だよぉ!?
「まだ何かあるのかね? ん? コラ」
「……自分などを気に掛けて頂き、ありがとうございます! サー!」
「……ふふ、今からそんなにシャチホコ張っていてどうする? 肩の力を抜け。俺はまだ部下の遺族に手紙を書くつもりはないぞ?」
「サー! イエッサー!」
……ふう。めんどくせ。でもコレで士気の方は問題ないだろう。
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