第二十話

「俺、過去に戻る以前にも、出会い方は違うけど優乃先輩に会って、好きになってたんだ」


「ふへ? そーなんですか? でもソレだと……」


「ああ、記憶に残ってないのはおかしいな」


「そーですよ」


 頭に包帯を巻きながら俺はゆっくりと説明していく。まだ色んな意味で頭痛がするけど、大分マシになってきた。


「ソレは多分、俺が自分で記憶を閉じ込めてたんだ。宗二とかも俺に気を遣って内緒にしてたんだと思う。ソレが、リライの言ってた真っ黒に塗りつぶされてた部分だろう」


「……ふへ」


「俺、ストレス障害になってたんだ。軽度のPTSDってヤツ。さっきリライに聞かれた時には思い出せなかったけど、実家の部屋で覚えのない薬の袋、見たことがある……」


「……ぴーてぃーえすでぃー?」


「ちょうどさっきまでいた辺りから、卒業するらへんまで記憶が抜けてるんだ」


「あ……記憶障害……ですか!」


「そう、さっきリライの言ってたヤツだ。お前の言ってた通り、その無意識に閉じ込めてた記憶が……俺の自殺の原因に繋がるんだと思う……そうだろ。リライ?」


 そう……あの夢は、閉じ込めていた俺の懐古と、悔恨の念が溢れ出していたのだろう。


「……ごめんなさいですよ」


 リライはあっさりと認めた。


「やっぱ知ってたんだな」


「……はいですよ。って言っても、さっき知ったばかりで! ソレの内容わまだ分からねーですよ!」


「…………」


「アキーロがその記憶を思い出した時、自分を殺すことになる……ソレだけしか分からなかったですよ。ソレを伝えよーと思ったけど」


「……電波に止められた、と」


「……はいですよ」


 ……ったく。


 まぁリライの親玉の判断が間違ってるって断言は出来ないけどな。あの場で思い出したところで、その場でぶっ壊れるか、死期が早まっただけかもしれない。


「アキーロ。ごめんなさいですよ」


 リライが不安気な目をこちらに向ける。


「……ありがとな。リライ」


「……ふへ?」


 俺の言葉が意外だったのだろう。驚いた顔をしている。


「ギリギリだけど手遅れにならないで済んだ」


「……ほへ?」


「だから、もう一度さっきの続きに戻らせてくれないか?」


「……え、また戻るつもりですか!? でも、今死にかけたばっかりぢゃねーですか!? 今度こそ死ぬかもしれねーですよ!?」


「頼む! たまごかけご飯でも、ネズミの王国でも、何でもお前が望むモンを用意してやるから! だから俺をもう一度だけでいい! あの時間に帰らせてくれ!」


 俺は話をするのももどかしく、リライの両肩を手で掴んだ。


「そーゆーことぢゃなくて! さっきのわまだ運がよかっただけで、次わホントにぶっ壊れちまうかもしれねーですよ!?」


「このままでも俺は死ぬ! ここで行かないと、絶対に俺は自分を許せなくなる! 自分で自分をぶっ殺したくなる!」


「一体戻ってどーするってゆーですか! 何の為に戻るですか!?」


 涙目でこちらを精一杯睨んでくるリライ。


 ……最初に比べると随分と人間らしくなったな。


 だがここだけは譲るワケにはいかない。


「……今まで知らない内に取りこぼしてたモンを、取り戻す為だ!」


 そう叫んで俺はリライの唇に自分の唇を重ねた。


「……っ!!」


 大きく息を呑む音が聞こえて、少し間が空いてから、例のブラックアウトがやってきた。






「――きっ! おい秋! しっかりしろコラ!」


 気が付いたら視界に宗二と賢の顔があった。ソレも左右に激しく揺れる視界に。


 やたら顔面が痛いのはこいつらが俺にビンタを入れまくっているからだと気づく。


「いてーよ!」


 そう言って俺は両手で左右にいる二人の顔面にパンチを叩き込んだ。


『ぐわっ!』


「秋色復活!」


 俺は立ち上がり両手を掲げて空へと叫ぶ。


《……コレが最後ですよ? 危なくなったらまた強制解除ですよ?》


 ……サンキュー。リライ。


 無事戻って来れたみたいだ……無事でもないけど。


『秋! 大丈夫なのか?』


 驚いて叫ぶ二人に、俺は床に手を着いて頭を叩きつけた。THE・土下座だ。


「宗二! 賢! 親友と見込んでお前らに頼みたいことがある!」


『……え? え?』


 事態が飲み込めずうろたえる二人に、俺はソレを話した。

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