ボーンチャイナの棺

晴れ時々雨

手入れが行き届かなくなり取り壊しの決まった、親戚の所有する空き家へ整理に入る。整理とは名ばかりの、家財を処分する手間を省くために死んだ家の形見分けに預かりに出かけたのだ。

ここに住んでいた親戚は父方の遠縁に当たる独り身の女性だったと聞く。生涯伴侶を持つことなくなかなかに裕福な暮らしをし、早死という訳でもなくきちんと老いて亡くなったようだ。

貫いた独身のせいか親戚付き合いが希薄で、彼女の死後に遺された住宅の行き先について考える者がなく、何年も経った今になりようやく処分の手続きが済んだのだった。

下世話な話だが、独り者の女性の家はきっと遺産めいた物(金銭に代わるような)で溢れ返っているだろうと思われたがその実、やはり独り身ということがあって、かなり家財道具は整理されてあった。

それでも処分し切れなかったというか、処分しようのない品が幾つか出てきて、その奇妙さに一同困惑したのである。

伯母としておこう。伯母の趣味は人形蒐集だったようだ。壷だの絵だのそういったものであればまだしもヒトガタである。誰も興味がなかった。しかしどれも凝った作りであることは明白で、その筋に持っていけばある程度の価値はあるのではないかと一同通念した。しかしなんだか不気味さが先立ち、怨念というか呪いというか、下心を出して持ち帰ったばかりに眠れなくなったりしないかと、そっちを心配して遺品に手をつける者はいなかったので、数体の美しい人形たちは処分と書かれたボール箱に詰め込まれた。

さて、と尻をあげた部屋の隅に、廃棄用の箱以外の木製の箱があるのに気づいた。今まで気づかなかったのが嘘のように、結構な大きさの木箱だった。おそらくこれにも人形が入っているだろう。ああこんなに大きいのは手数料が高くつくな、などと木箱に手をかける。箱の表面がしっとりと手に吸い付く。桐箱のようだ。凡そタテ20〜30、ヨコ1mの木箱の蓋を底箱から垂直に上げる。箱はとても精密に作られていて中が密閉空間になり、蓋と本体が密着して開けづらい。

あまりの念入りに開け放つのが途中で恐ろしくなり、少しずつ開放したかったが構造上そうもいかず、蓋はすぽんと上に持ち上がり内容物の全貌が一気に明らかになった。

それは純白の正絹布に寝かされた作り物の人の片腕だった。しかも原寸大の女性物。磨き抜かれていて素晴らしく光沢しており、恐る恐る指で擦るとどうやら陶器か磁器製である。

腕の側面に藍色の花と蔓の模様と金の模様が装飾してあり、まるで貴族の食卓に並ぶ、電子レンジ厳禁の器のようだった。左腕のみの球体関節人形は冷たく滑らかに艶めいて、ひっそりと棺に横たわっていた。

落ち着いて眺めると、台座布の隙間に一通のカードが挟まっている。

薔薇と鳥のエンボス加工を施された2つ折りのカードを開くと黒いインクで流暢な筆記体が記されてある。

「Half of you are alive」

意味などさっぱりわからないが、とりあえず一通りそれをしまい小脇に抱えた。

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ボーンチャイナの棺 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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