−4  徹とムギの語り

「昔違うところに住んでいた時、結構金持ちだったんだ。でも、ある日そうじゃ無くなって」



俺は目の前の流れる川を見ながら、子供だった頃の事を思い出しながら語り出した。



「ある日俺が家に帰ると、お母さんは一人でシクシクと泣いていた。最初何がなんだか解らなかったけど、いろいろ事情があり俺と父さんと母さんと姉さんの四人は家を出る事になったんだ。詳しくは言えないけどさ、たくさんあった家の物を置き去りにして引っ越しして、新しい場所に住み始めた。最初は食べるものも困る生活で辛かった。それでもなんとか過ごして今は普通に生活できるようになったけど、その時のストレスのせいかある日姉さんは病気で亡くなり、その数年後優しかった母も病気になって亡くなった。



姉さんは死ぬ前、いつも体調が悪い体調が悪いって言っていた。でも、病院行くと若いから大丈夫!って医者に言ってるけど、その後病気だって解った時にはもう手遅れで、‥‥母さんは突然家を出た時のショックで時々死にたいとか何度も言うようになって、それから病気と入退院を繰り返して結局二人とも死んでしまった」



「‥‥そうなんだ。私より辛い事、いっぱいあったんだね」



「だから、簡単に死ぬとか言うのが嫌いなんだ。ちゃんと治せよ」



そう言って前を向いたまま、心の中にある悲しいという感情を打ち消すように、立ち上がった。



「俺より先に死ぬな」



「わかった。約束する」



「勉強もな。治ったらスパルタで俺が教えてやる。じゃあな」



俺はそう言うとムギはニコッと笑った。道沿いに上がり家に帰ろうとしたとき、振り向いてまだ土手の草むらに座っているムギの後ろ姿を見た。



夕暮れの空の下、一瞬だけどムギの隣に一匹の犬が寄り添って座っているように見えた。





私は一人、帰り道を歩きながら考えた。アクスの事、悲しい気持ちだったけど、いい思い出だったと心の中で仕舞い込む事にした。出会って良かった。そして今は学校も病気も好きじゃないけど、心配してくれる家族や徹に感謝したい気持ちでいっぱいだった。

ちょっとずつ頑張って、また徹に会いたい。

この川沿いの道に咲く花の道ををまた一緒に歩きたいと想った。

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川沿いの通り道で 嬌乃湾子 @mira_3300

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