−3 徹の語り
学校で、ムギがお母さんと職員室で担任の先生に何かを話しているのを見た。その後お母さんは先に帰ったらしく、ちょっとムギのいる教室を覗いて見ると、彼女は普通に授業を受けていた。
学校が終わり俺はいつもの帰り道を歩く。土手には今の季節、マツムシの音色が響きわたり一面に淡いピンク色のコスモスが沢山花を咲かせている。その花を見ながらとぼとぼ歩いているムギの姿を見つけた俺は、追っかけて声をかけた。
「ムギ、今日おまえのお母さんもいたけどどうしたの?」
「しばらく学校行けない日があるから。通院するの」
俺は驚いた。何があったのか解らず事情を探るように聞いてみた。
「どっか悪いのか?」
「検査だからまだ解らない。手術もするらしいけど、お母さん達はお前はまだ若いし、すぐ元気になるって言ってる」
「‥‥‥‥」
「でも」
絶句する俺にムギはボーっとした顔で答えた。
「どうだっていいの。クラスで病気だって噂するだろうけど、どうせ興味も無いだろうし。もし死んだとしても問題ないのよ」
「なんだそれ」
ムギの言葉を聞いて俺の顔は段々腹が立ってきたが、その感情を押し殺してムギに言った。
「面倒くさい奴。じゃあお前は皆んながそう思っているから死んでもいいのか?」
「だって、勉強苦手だし。学校に行っても居場所が無いのよ」
「勉強なんて、解き方とかちょっとずつ理解してけばいいんだよ。まさか、お前そのスペックで学校からいなくなるつもりなのか?」
「悪かったわね!それでも人には向き不向きってのがあるのよ。私はどれだけ頑張ってもクラスの子みたいにはなれないのよ」
「次は嫉妬かよ」
「綺麗でキラキラして、明るく喋ってくれる女の子、徹くんだってそう言う子の方が好きでしょ」
そう言われるとそうだな。ちょっと考えて思い出すように笑った。
「好き」
「ほら!」
「嫌いじゃ無いけど、女は時々面倒臭いから。お前も面倒臭いけど、なんか話しやすいから話ししてんだろ。そんな事?」
「それだけじゃない。ずっと引きずってる事があるの」
「‥‥‥‥じゃあ言おうか。お互いに」
「え?」
ムギは不意を突かれたような顔で俺を見た。
「誰にも言っていないけどな」
俺はちょっと黙ると再び口を開いた。
「ムギが自分の事を話してくれたら俺も話すよ」
「‥‥‥‥」
土手に咲いたコスモスの間の草むらに俺とムギは座った。ムギはアクスという犬の出来事を話してくれた。ずっと心につっかえていたものを吐き出すように。
「私、アクスの事を思い出すといつも悲しくなるの。もっとちゃんとすればよかったと思って」
「そうか。でも、アクスはムギの事を好きだったと思うよ‥‥ま、それはお前の勉強不足ってのもあるんだろうが」
「‥‥なんかムカつくけど」
「でも、好きだったんだろ?アクスの事」
「‥‥大好きだった」
「じゃあ」
俺は紙とペンを徐に取り出し、紙に「アクス」と書いてやった。
「これをずっと持っていろ。これでアクスはずっとお前と一緒だ!」
「何それ」
ムギは俺の鎮王な行動に笑いを堪えていた。そしてもう一つ、紙に書いて突き出した。
「俺の名前も書いてやる。持っていろ」
自分の名前を書いた紙を破顔した顔でまじまじと見ているムギに照れ臭かったが、意を決するように言った。
「‥‥‥俺さ」
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