見落とし

 後日、場所は学校。

 机に突っ伏しながら、昨日のこともあり意気揚々と謎について整理してみる。


 一、題名の意味→この範囲をよく見ろ

 二、ページの最後が真っ白→家族

 三、メッセージ→不明


「あとはメッセージだけだな」

 思考しろ、思考しろ、俺。

 ちゃんと考えればメッセージの謎も楽勝なはず。

「俺なら解ける」

 俺は題名と白紙の意味がわかったことで自信があった。




「うるさい……」


 そう俺が呟いた原因は、女子三人組が前の席で集まって、おしゃべりをしているからだ。いわゆる陽キャというやつである。集中して考え事をしているから勘弁して欲しい。


「ねぇ、この前のクイズ番組見た?」

「みたみた、古関こせきさん相変わらずかっこよかったな~」


 嫌でも女子たちの話が聞こえてくる。

 どうやら、この前テレビでやっていたクイズ番組の話をしているらしい。その話し声に釣られて、朱もその番組に事を思い出す。この三人組は古関こせきさんファンなのだろう。


古関こせきさんってほんとイケメンだよね! ただ、最後の問題の答え『歌川広重』だって!」

「あの答えはないわー」

「でも、合っていると思ったよね」

「うん。正解だって一瞬勘違いしちゃったよ。よく考えてみたら、歌川広重っていう答えだと?が浮かんだもん」

「あってそうであってなかったね」

「そうだね~、説得力あったんだけど違うなんて一本取られたよ」


 

 そんな女子たちの話は蚊帳かやの外に置いといて、あけは考えることに集中する。

 今、メッセージに対してのヒントはない。

 

「こうなったら、一つずつ、また謎を改めて確認していくか。まあでも、だいたいは正解のはず」


 本を再びよく観察する。この本の要点は以下の通りだ。


 ・題名は『彼はスコープで井戸を覗く』

 ・最後が白紙。

 ・メッセージがある。


 この3つの特徴がある絵本。

 これらのことについて、深く考えてきたつもりだ。

 そして、それなりにわかったこともあるが、わからなかったところもまだあるのが事実。しかし、わかったところはそれなりに正解している自信がある。



 Q、見落としはないだろうか。

 A、ない。



「でも、答えが『月』=『moon』、『歩』=『walk』って変換するなんてね」

「ほんとだよ、英語に直すなんてわからないよね」

「日本人なんだから日本語でかかれたら日本語で考えちゃうよね」

「確かに」



 Q、本当に見落としはない?


 前の女子たちの話が嫌でも入ってくる。

 そして、その女子が発した一言にピタッと俺の思考が止まる。

 

「日本語で書かれた……」

 そして、その一言を合図に思考が一気に加速する。


 Q、この本の題名は?

 A、『彼はスコープで井戸を覗く』

 Q、この本は何語で書かれている?

 A、英語

 Q、『彼はスコープで井戸を覗く』は何語?

 A、日本語

 Q、ではなぜ、――題名だけ日本語?


 あの本を、サラリと読んでいたためわかりにくかったが、よく観察してみると確かに題名は日本語で書かれている。本文は英語だ。


 朱の頭の中に、『題名だけなぜ日本語なのか』という疑問がさらに加わった。

 

 さらに整理していて一つ引っかかった点がある。

 題名の意味である「この範囲をよく見ろ」の『範囲』って何だ?

 


 『範囲』があるなんてもの、探しても一個も見当たらない。




 A、見落としがあった。




 もしかして題名の意味が違う? では、本当の意味は?


「うがー!」

 俺は頭を抱えて再び机に突っ伏した。


 そして「ちょっと考えるの疲れちゃったな」と考えるのをやめた。


 必死こいて見つけた答えであり自信があったために、『違う可能性がある』ということと『疑問が新たに増えた』というダブルパンチに、俺は目の前が真っ暗になった。


 完全に自信をなくした。

 あんなに合っていると思っていたものが、間違っている可能性があり、さらに新たな疑問が生じたのである。

 このことに、俺は疲れ『思考』を放棄した。




 『思考』を捨てた者に、答えは降ってこない。

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