名前

 無事、美術の時間が終わり、休憩時間。

 あけは友達である陸也りくやの相談事を聞いていた。

 何の相談かというと、恋愛相談だ。


花蓮かれんちゃん。可愛いよな〜。ちょっと気になっててさ。なあ、あけ。俺にもワンチャンあると思うか?」

「どうだろうな。まあ当たって砕けてこいよ」

「砕けてこいって。ほら、落とすコツとかなんかないか?」

「相手はあの花蓮かれんちゃんだろ……学園のマドンナだぜ? 噂によれば告白する人多数。が、縦に首を振ったところを見た人はいない……いわゆる高嶺の花だ。陸也もわかってるだろ?」

「……それは確かに俺もわかってるさ。でも、好きになっちまったんだから仕方ないだろ? ってことで、朱……お前の色気をよこせ!」

「バカにしてるなら、相談乗らないぞ。そもそも、色気って漢字違うわ」

「悪い悪い。でも、まじめな話、あけは美術の授業であの子の後ろだったわけじゃん? ほら何か有益な情報ないの?」

「ない」

「冷たいな〜」

「ないものはな……あ、そういえばヒントになるかはわからないけど、花蓮ちゃんっていつもかんざしさしてるよな」

「……かんざし。ん、わかった。ちょっと頑張ってみるわ。サンキュな、あけ!」 



「お前ら、席に着け〜。授業を始めるぞ~」


 先生が入ってきたことで、生徒が自分の席に戻っていく。

 今度の授業は国語の時間だ。

 とりわけ、テーマは『家族や自分の名前の意味』について。


 俺はこのテーマを聞いた瞬間、先程とうってかわってやる気がなくなった。なぜなら、もうこれについてはさんざん自分で考えたうえで結論が出ているからである。

 しかも、その結論というものはあまりいいものではない。

 ゆえに乗り気にならない。


 しかし、授業というものはめんどくさくて、先生に言われたらしなければならない。ゆえに、俺も調べることにした。


 『あけ』。これが自分の名前。意味は、五行で南方の正色。赤。

 『へき』。これが父親の名前。意味は、緑。青。

 『そう』。これが母親の名前。意味は、青。草のような青色。


 朱の一家の名前の特徴は、『色』だ。これは、小さなころから気づいていたことで、よく色気(色家)と呼ばれていたものだ。

 きっと、これは朱の家系が、絵を使う仕事に代々ついている。つまり、色というものを使う家系だからであるとあけはずっと思っている。


「きっと……それ以上でもそれ以下でもないよな」


 少しだけの寂しさと共に、国語の時間は終わっていった。

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