第9話 Sランク・パーティーがやって来た

 テーブルのお醤油差しに手を伸ばしたら、アーサーが取って渡してくれた。


「ありがと。――Sランクパーティってさ、すごく数が限られてるじゃん。Sランクまで上り詰めたら、国から騎士爵を与えられて、貴族の仲間入りなんでしょ?」


「そうだね、一代限りの継承なしだけど。平民が貴族位を得る数少ない手段のひとつが、Sランク冒険者になることだけど、容易い道ではないよ」


「あの騎士はどのパーティが来るのかまでは、言ってなかったの?」


「うん、残念ながら。……ねぇ、ディーンてば、さっきから海老と卵ばっかり取ってない?」


 オレ達は手巻き寿司を食べているんだけど、つい好物の海老と卵ばかり食べてた。


「寿司パーティにしようって言ったの、ディーンなんだからね!」



 Sランクパーティ……って、何かスシパーティと似てない……? つい、食べたくなっちゃったんだよ。



「色々考えたんだけどさ。やっぱ、Sランクともなれば、オレが直接対決するしかないんじゃないかな……」


 サーモンとイクラを取って海苔を巻くアーサーの手が止まった。


「確かに。新規に強力なモンスターも召喚出来ないとなると……。ここで一番強いのは、ミノタウルスだけど、Sランクパーティなら問題なく倒せちゃうだろうし」


 チラっとこっちを見て、手巻きを醤油につけて、パクリと頬張るアーサー。


「ディーンを本気で倒しに来るなら、きっと竜殺しドラゴンスレイヤーも装備して来るよね」


「えっ?! マジかよっ……」


 ドラゴンの鱗を抉りながら突き刺すのに都合の良い形状をした、竜殺しドラゴンスレイヤー。想像するだけで、身体がガタガタと震える。



「――い、嫌だっ。イタイのヤダッ!!」



 竜殺しドラゴンスレイヤーでオレを突き刺すだと……?! なんて人族は、残酷な種族なんだ。ひどい。



「落ち着いて! ほら、お茶飲んで」


 目の前が真っ暗になって、気が遠くなる。アーサーに背中をさすられながら、お茶をごくりと飲んだ。



「直接対決するにしても、最下層に到達までに出来るだけ、戦力を削って置きたいところだよね」


「やだ、やだっ、戦わずにお引き取り願いたい!」



 フローリングの上に大の字になって、ジタバタするオレをヤレヤレ、と肩をすくめて見ているアーサー。



 ……Sランクパーティに、なんとか穏便に帰っていただく方法はないのか?




◆◇



「ディーン、来たよっ」



 ついに、来ちゃったのか。Sランク冒険者パーティがっ……ガクガク、ブルブル。



「毛布被ってないでさ、ちゃんとモニター見てよ」 


「誰にだって、苦手なものがあるだろ? オレにとっては竜殺しドラゴンスレイヤーがそれだっ」



 あれからオレとアーサーが練りに練って立てたのは、コードネーム:マーケットガーデン作戦。


 うまく行けば、オレが戦わずして勝てるはず。


 おそるおそる毛布のすき間からモニターを見ると、5人組の冒険者たちがダンジョンの入り口に立っていた。



「騎士と魔法剣士、あれは賢者だね。それに聖女と暗殺者アサシンか……。さすがSランク、上位クラスだね」

 

「なんだよ、あいつら。オレを殺しに来たくせに『蘇りのミサンガ』を購入する気でいたのかよっ」


「まぁ、まぁ。あれがディーンの善意だってこと、人族たちは知らないから……」


「くっそ。自販機、品切れにして置いて正解だった!」


「情報収集もしたいから、会話も聞こう」



 アーサーはリモコンを手にすると、音量を上げた。



◆◇



「『蘇りのミサンガ』が品切れになっているな」


 自販機の前で、 暗殺者アサシンの男が舌打ちした。


「ったく、肝心な時に。ローランド、どうする?」


 魔法剣士の男が、このパーティのリーダーらしき、騎士を見る。


「アールはどう思う? みんなの安全を考えれば、『蘇りのミサンガ』を装備して攻略したい」


 パーティメンバーの中で一番年嵩の壮年の男、賢者が口を開く。


「資料によれば、このダンジョンの再ポップは24時間後だ。一日待っていれば『蘇りのミサンガ』も手に入るだろう」


「じゃあ、今日はいったん帰って、明日出直しますか?」


 白の法衣服を着た聖女が、訊くと騎士ローランドが首を振った。


「村人や他の冒険者に、ギルドを通じてダンジョンの立ち入りを禁じて来たから、このまま何もせず帰るわけにも。一階層のセーフエリアで宿営しよう。ここは、ボスモンスターから食料がドロップするし、携帯食の多少のロスは大丈夫だろう」


 一行は『蘇りのミサンガ』なしで、ダンジョンの入り口から中へ入って行った。

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