第7話 ランスロット卿

 その男は、単騎でやって来た。


 五階層ボス部屋まで一息に進む。そして扉を開けて霧が晴れると、墓石ゴーレムが出現。


 ゴーレムが突進し、石の拳を突き出す。騎士はギリギリまで引きつけてからヒラリと身をかわた。そして愛剣アロンダイトをゴーレムの脇腹に当てて、相手の力を利用して薙ぎ払う。剣と固いゴーレムがぶつかり合い、火花が散った。


 ビシッ!! 墓石ゴーレムの胴の部分に亀裂が走る。ゴーレムは振り向いて、戦いを継続させようとする。


 しかし、ひび割れは身体中に広がり、どうっと倒れた。


 波打つ見事な金髪を後ろで一つに縛り、ミスリルの胸当てプレイト・アーマーをつけた長身の美丈夫は、剣を腰に吊るした鞘に納めると、白いマントを翻して6階層への階段を駆け下りた。



◆◇



「すげっ。墓石ゴーレムを一人でやっつけちゃった。あれ、聖騎士だよね? あのマントの赤十字ってフレイア教の紋章だし」


 おやつのポテチを食べながら、アーサーとモニター見てたんだけど、思わずポカンとしてしまった。


 なんか妙にスカした感じの、物語の主人公ヒーローみたいなヤツが来ちゃったけど、大丈夫かな?


「ランスロットの魔剣アロンダイトは、どんなに硬いものでも刃こぼれしないんだ。厄介だな」


 ……やっぱ知り合いなのか。


「もしかして、アーサーを迎えに来た、とか?」


 アイスティーをごくりと飲んでから、聞く。


「――多分。ゴブリンやオーク達じゃ、ランスロットには太刀打ちできない。ダンジョンの当番のみんなには、村里に撤収するように言って」


「分かった」


 マイクを持ち、ダンジョン内スピーカーで放送する。


「鬼どもに告ぐ!! これより、コードネーム:不朽の自由作戦 を開始する!」


 俺の一声で、鬼たちは持ち場から離れ、一目散に走り出した。


 『不朽の自由作戦 』とは、ようするに全力で逃げろってことだ。アーサーと一緒に、非常時の暗号を色々考えたんだ。カッコいいだろ、へへ。


 鬼どもを19階層の草原エリアの村里に避難させ、次の手を考える。



「6階層の罠の落とし穴で、多少は時間を稼げるかな? 鬼たちが相手にならないとすると、次は20階層ボスのミノタウルスに頑張ってもらうしかないか」


「――いや、ボクが行くよ。ランスロットは、ボクに用があって来ているんだし」


「ええっ。そうなの? ……一緒に行こうか?」


「ううん。ディーンは、ここで見てて。ダンジョンに何かあった時に、すぐ対応できるように」



 まあ、それが妥当なんだろうけど。


 このダンジョン内に限っては、ロキ神から様々な権限を委託されている。極端なことを言うと、戦いの勝敗は、オレ自身が死なない限り負けない。あとは何とでもなるんだ。鬼どもだって、られても再ポップさせられる。アーサーにも『蘇りのミサンガ』を身につけさせているから、万一倒されても『死に戻り』させられるし。


 ――でも俺が倒されたら、すべてが終わってしまうんだ。


 そうは言っても、『死に戻り』はさせたくないよ。トラウマになることもあるらしいし。


「何かあったら、すぐに合図して」


「うん、行ってくる」


 最下層フロアにある、ダンジョン内を移動できる転移魔方陣まで、一緒に行きアーサーを送り出した。


 そして、部屋に戻ろうとした時、再び床に描かれた魔方陣が光りだす。下から上に円柱の光の柱が立ち昇り、その中心に人影が現れた。


「フ、フラウさんっ。ど、どうして、ここに」


「やあ。ちょっと、気になることがあってね。直接、話した方がいいと思って。あまり時間はないんだけど」


 片手を上げて微笑んだのは、緋色の燃えるような巻き毛を後ろに一つに束ね、黒地に赤のラインの入った軍衣にベルトにはサーベルを佩刀した長身の青年。竜族特有の瞳――金色の細長い――が、キラリと光った。

 

 フラウはうろたえるオレにかまわず、ずんずん歩いてオレの1LDKに上がり込むと、リビングのソファに座った。


「あの転移魔方陣は、ダンジョン間も移動できるんですか?」


「君は魔王陛下の戴冠式で忠誠を誓った時に、魔王城のある僕のダンジョンとも同盟を結んでいるでしょ? だから、君のところの転移魔方陣と僕のところをリンクできるんだ。 DPダンジョンポイントと引き換えだけど。知らなかった?」


 ミズガルズ大陸の西にある魔王城のダンジョンマスターがここに転移して来れるなんて、知らなかった……。


「それで、オレに話って……?」


 その時、壁に取り付けられている大型モニターに、洞窟の中にいるアーサーと聖騎士ランスロットが映し出された。


「――待って。フレイア教団の聖騎士が、何故ここに?!」


 金色の目が見開かれ、モニターに釘付けになっている。


 どうしよう――なんて説明すれば。勇者であるアーサーのことが、フラウにばれてしまったら。


 モニターの中の聖騎士は、アーサーを見つけると側に行き、片膝をついて頭を垂れた。


「ディーン、あれはどういうことだ? 音声を上げてみよう」


 テーブルの上のリモコンを取ると、フラウは音声のボリュームを上げてしまう。



 聖騎士が口を開いた。


「アルトリア姫」


 アーサーが手を差し伸べると、ランスロットはうやうやしく手を取り、手の甲にキスをした。




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