第6話 落とし穴
冒険者パーティ『竜の盾』は、土や木のゴーレムに悩まされながらも、五階層のボス部屋の手前のセーフエリアにたどり着いた。
「ここでしばらく、休憩を取ろう」
各自、セーフエリアに生えている薬草で傷の手当をしたり、泉の水でのどを潤す。
「あら、ここ薬草の他に、毒消し草や麻痺に効く三日月草も生えているわ」
僧侶のソフィが気がついて、みんなに知らせた。
マップに、これまで出現したモンスターや宝箱のアイテムを書き込んでいた魔法使いサリーは、手を止めた。
「やっぱり、これまでと全然違いますよ、このダンジョン。ギルドから渡されたマップには、上層階はゴブリンとスライム、ブラックバットしか書かれていなかったのに、二種類のゴーレムが現れたでしょう?」
「まあモンスターはそうだが、倒せない訳じゃないし、マップそのものは変わっていないけどな」
戦士のウィルは、サリーは心配性だなあ、という感じで口をはさんだ。
盗賊のザックは4階層の宝箱の短剣を調べている。
「お宝は聞いていたよりも、結構いいけどな」
「お宝と言えば、4階層のボスのドロップアイテム『高級マスクメロン』ここで食べないか?」
リーダーの盾役エドが提案する。
「「「「賛成!!」」」」
『マスクメロン』に舌鼓を打ち、疲れを癒した一行は、ボス部屋に挑んだ。
◆◇
5階層ボス部屋に出現したのは、墓石ゴーレム一体だった。
「はぁ、死ぬかと思った――」
戦いが終わって、へなへなと崩れるように座り込むソフィ。
「あんな墓石みたいなゴーレムが出るなんて……」
エドは何度も墓石にアタックされ、満身創痍になっている。
「墓石のヤツ、固すぎる!」
固い石のせいで、刃こぼれした
「苦労した割に、ドロップアイテムは『こんにゃくゼリー』だし」
せめて宝箱は、と期待をかけて開錠するザック。
「なんだ、毛布が人数分か……」
ギギィィィと、6階層へと続く扉が開いた。
「上層階はここまでで、6階層からは中層階になりますけど、どうしますか」
サリーは不安げに6階層に続く階段を見た。他のメンバーも、疲れが見えている。
「ボス部屋はともかく、もう少し探索してみないか?」
ボス戦では、盾役としてみんなの代わりに一番ダメージを引き受けたリーダーのエドにそう言われると、嫌とも言えない雰囲気になった。
「傷はもういいの?」
「ああ、ソフィに治してもらったし、薬草も豊富にある」
「じゃあ、もう少し進んでみるか」
一行は、6階層への階段を降りることにした。
中層階に降りて少しすると、ザックは魔石拾いに気を取られているように見えた。
「おい、ザック。ちゃんと罠の確認してるか?」
エドに注意されてもどこ吹く風のザック。
「もちろん。魔石拾いながらだって、抜け目はねぇ。おっと、ここにも」
少し大きめの魔石を拾い、ポケットに入れる。
「ザック、ずるいぞ。索敵で前にいるお前ばかり魔石を拾って……」
ウィルが後ろからやって来て、自分も魔石を拾おうとする。
「このダンジョンには罠がないんだから、みんなで魔石を拾いましょうよ」
「おいおい、ソフィまで……」
――その時。前に居たメンバーたちの足元で、小さなピシッという音がしたかと思うと。
バリン!!と床が割れて、エド、ウィル、ザックが暗闇の中に落下した。
「「「うぁああああ!!」」」
「あぶないっ」
一番後ろに居たサリーが、ソフィの腕を引っ張る。
「きゃぁああああ!!」
間一髪で、ソフィは穴に落ちずに済んだ。しかし――二人は、恐る恐る男性陣が落ちた穴を覗き込む。
「たっ、助けてくれぇえええ」
スライムプールの中で、悶えている男たち。服が溶けかけている。
「今、助けるから――!! しっかり!!」
「何か、ロープになるようなものは……」
二人はさっきの5階層のボス部屋の宝箱の毛布を縛って、穴に垂らす。
「これに掴まって!! ひとりずつ引き上げるから」
しかし、ピンクスライムに全身をマッサージされ、ビクビクと痙攣する男たち。
「んァッ! ぉおおうっ」
「うほっ、だめだぁ、そこは……ぉうっふ」
「その穴はぁ、はぁああああんっ」
「ぉおおぅ、でっ、出るぅっ」
「あ―――――!! 汚されるぅっ」
白目になりながらソフィとサリーは、なんとか男たちの中では、一番身体の小さいザックを引き揚げた。
そして残りの二人もみんなで協力して、助け出した。
けれど……。
装備をスライムに溶かされ、裸になって毛布を巻きつけている男たちに、もはや戦意はなく。
「……なんて恐ろしいダンジョンだ」
「これ以上の探索は危険だ」
「――帰ろう!!」
男たちの震えながらの訴えに、ソフィたちも頷いた。
「裸で戦えないですもんね……」
「別の道に目覚めなきゃいいですけど……」
◆◇
「ちょ、落とし穴にピンクスライムって……」
ジト目のアーサーに、俺はブンブンと首を振った。
「俺は知らない。ゴブリン村長!!」
村長を、ゴブリン村の広場に設置したマイクとスピーカーで呼び出した。
「へい。――ああ、あれですか?」
もじもじしながら、村長は……。
「嫁っ子を悦ばそうと、村里で開発したマッサージ用ピンクスライムですだ。ディーンさまも、よろしかったらお使い下せぇ」
――アーサーの視線が痛い。
「お前らが使う分には、かまわんが。お、オレ達は今のところ、間に合ってる」
ベチン! い、痛い。後頭部を叩くな。馬鹿になったらどうする。
「誤解を招くような言い回しをするな! 真面目にやれっ」
「あのな、アーサーだって、5階層ボスのドロップアイテムが『こんにゃくゼリー』っておかしいぞ?」
オレの指摘を受けて、アーサーは視線を落とした。
「……うん。不評だったね。最高にダイエットなのになあ……」
まあ、色々、反省点も分かったことだし、よかったよかった……?
『竜の盾』の男どもが毛布を巻いて、女たちに生温かい目で見守られながら、ダンジョンを出て行くのを、モニター越しに眺めつつ、オレとアーサーは、今後の改善点を話し合うのだった――。
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