第5話 再チャレンジ

 エド達冒険者パーティ『竜の盾』は、前回ゴブリン達に全滅させられた後、仲間たちと話し合いの結果、再びディーンのダンジョンにやって来た。


「なあ、冒険者ギルドから依頼されたここのダンジョン定期調査ってさあ、『死に戻り』も出来る初心者向けという話だったよなあ」


 戦士のウィルが、ぼやいた。


「ギルドの受付のねぇちゃんも、出現モンスターはスライムにゴブリン、せいぜいオークがいいとこで、Cランク冒険者パーティの俺らなら、まったく問題ねぇって言ってたのにな」


 肩をすくめて、盗賊のザックも同調する。


「初心者向けのダンジョンで、雑魚モンスターのゴブリンに全滅させられました、なんてギルドに報告できないわよ! 冒険者仲間どころか、町中の笑いものになるわ!!」


 口をとがらせて憤慨しているのは、僧侶のソフィ。


「片手間に引き受けた調査だったけど、こうなったら『竜の盾』のプライドにかけてこのダンジョンを攻略するぞ! こんな所で躓いたら、今後の仕事の依頼にも影響するだろうしな」


 リーダーのエドも、せっかくCランクまでパーティの評価を上げたのに、悪い評判を立てたら今までの地道なクエストの積み重ねまでが、水の泡になると考えた。


 だから、十分対策した上で、再度探索することにしたのだ。


「でも……この前の全滅した時の対策、と言っても麻痺治療薬の三日月草丸薬を、二回分各自用意しただけですよね?」


 魔法使いサリーは不安そうに言った。彼女だけは、再チャレンジに消極的で、いったんギルドに報告した方がいいのではないか、と言って仲間から却下されている。


「幸いこのダンジョンは『死に戻り』ができるから。死に戻っても、経験値は失われないし」


 リーダーのエドは、入り口の自販機に大銀貨を入れて『蘇りのミサンガ』を人数分購入する。


「前回のミサンガを使ってしまって、また出費するのは痛いな。ここのお宝はいまいち微妙なアイテムだし」


 ミサンガを受け取りながら、ザックが愚痴る。


 ギルドからの報酬とダンジョン探索によって得たお宝は、経費を引いたうえで、後で仲間と公平に分配することになっている。



「よし、みんなミサンガは着けたな。三日月草丸薬も各自持ったな?」


「「「「はい! リーダー」」」」


「じゃあ、リベンジだ! 行くぞっ」


 一階層のボス部屋、ポイズンスライムたちとの戦いは問題なく終えた。


 宝箱をザックが開ける。前回は、回復薬と解毒薬に水漏れのする壺だった。同じものが入っているだろうと思って見ると、今回は壺の代わりに魔道カンテラが入っていた。


「おっ、すげえ。魔道具が入ってやがる」


「魔道カンテラね。サリーの光魔法灯かりライトが節約できるわ」


 節約した分の魔力で攻撃魔法を使えるから、戦いで少しだけ有利になるはず。


 お宝で気をよくした一行は、一気に二階層のボス部屋の前まで進んだ。


「今度はゴブリン達に先制されるなよ! こちらから攻撃すれば、間違いなく一撃で倒せる。仲間が麻痺したら近くのやつが丸薬を飲ませること」


「「「「オー!!」」」」


 霧のかかったボス部屋に入ると、背後で扉が閉まり、モンスターが現れた!


「なんだぁ、あれは?」


「ゴブリンじゃないわっ」


「泥まんじゅうのお化けだ!!」


 泥ゴ―レムは、盗賊ザックめがけて泥ボールを投げつけた!



「うわー、泥が飛んできて、目に入ったぁ」


 ザックは両手で目を覆い、痛みをこらえる。


「敵は一体だけだ、みんな落ち着いて攻撃しろ!」


 盾役のリーダーエドの指揮で、我に返ったメンバーが戦闘態勢に入る!


 再び泥ゴーレムは、エドに泥まんじゅうを投げた!


 エドが盾で防いだ!


 戦士ウィルが戦斧バトルアックスで切りかかった!


 泥ゴーレムの片手がもげた!


 僧侶ソフィは回復魔法を唱えた!


 盗賊ザックの目が癒された!


「ソフィ、ありがとよっ」


 泥ゴーレムがエドに体当たりした!


 エドは盾で防いだが、ダメージ(小)を負った!


 魔法使いサリーは火魔法を唱えた!


「ファイアーボール!!」


 泥ゴーレムに火球が命中した!


 エドが長剣ロングソードで切りかかった!


 ウィルがまわし蹴りで泥ゴーレムの片足を折った!



 泥ゴーレムは、どぉっと音を立てて倒れ、そこをすかさずみんなで取り囲み、剣や槍で突いたり、斧で叩いたりとフルボッコにしてやっつけた。


 しばらくすると泥ゴーレムは、床に吸い込まれるようにして消えた。


 ゴーレムの倒れていた場所に、ドロップアイテムの入った箱が現れて、サリーが拾った。



「チョコレートトリュフだ! 泥のお化けが投げつけてきた、泥のボールと似てるね」


「お、おいしそう。一つ、食べてもいいかな」


 チラリとエドの顔を見る、ソフィ。



「女性陣は、チョコレートに目がないようだね」


「俺も食べたいぞ。チョコレートはダンジョンアイテム以外、手に入らないからなぁ」


「ウィルもか。じゃあ、みんなで食べよう」


 ソフィとサリーが目を輝かした。


「ザックは――」



 盗賊シーフは二階層のボス部屋の宝箱の開錠をしていた。中身は盗賊のナイフだった。


「おっ、すげえ! これは俺がもらっていいよな? 俺しか装備できねぇし」



「そうだな、その代わりギルドの報酬からはナイフの分を引かせてもらうぞ」


「おおよ、それでいい」


 にやりと笑って、ザックはナイフを自分の懐に仕舞った。ダンジョンのお宝には、一見普通のアイテムに見えても、なにか付加価値がついていたり、店で買うものより質がよかったりする。この盗賊のナイフにも、プラスの補正がついているとこの男は踏んでいたのだ。


 一同はチョコレートを食べながら、この後のことを話しあった。


「ギルドから貰ったマップは、十階層までだ。去年の定期調査では、十階層の先から『工事中立ち入り禁止』と立て看板がしてあったそうだ。今年の調査ではそのさきが、どうなったか無理のない範囲で調べて欲しいと言われている」


「でもリーダー、二階層のボス部屋のモンスターが、見たこともない泥のお化けでしたよね? 最初に来た時はゴブリンに全滅させられたし」


 魔法使いの塔で修行中のサリーは、今回は実戦実習期間限定で『竜の盾』に参加していた。


「このダンジョンは、今が成長期なんだと思います。この先の階層も、ギルドのマップとは違っているかもしれません」


 メンバーの中では、サリーが一番冷静に状況を見ているかもしれない。


「そうだな、慎重に行こう。途中で引き返すことも視野に入れて、行けるところまで行ってみよう」



 冒険者パーティは、索敵担当のザックを先頭に、三階層の階段を降りて行った。



◆◇



「何だよ、泥まんじゅうのお化けって!」


 1LDKのリビングのソファに座って、モニターを見ていたオレは納得がいかない。オレの傑作の土ゴーレムなのに。


「まあまあ。あのゴーレム一体で、中堅どころのパーティ相手によく頑張ったんじゃない?」


 むぅ。


 アーサーは二階層ボスのドロップアイテムのチョコレートトリュフを、パクリと口に入れた。


「人が食べているのを見ていると、自分も食べたくなっちゃうんだよねぇ。ほら、ディーンも」


 一粒つまんで、オレの口に入れてくれた。口の中で溶けていく甘いチョコレート。ほのかなブランディ―の香りがして、おいしい。


 だけど、それより――アーサーの白い指が少しだけ唇に触れたことに、ドキッとしてしまったんだ……。


 

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