第8話 訓練
話し合いの通り、村里の
アーサーが選んでゴブリン達に与えた武器は、クロスボウだった。弓は何年も訓練が必要だけど、クロスボウなら引き金をを引くことで矢を発射できるから、素人でも扱いやすい。小柄なゴブリンでも、これなら戦士の金属の甲冑を射貫くことも出る。さらに矢に毒や麻痺の薬を塗れば、かすり傷でも相手に戦闘不能状態に持って行けるだろう。
オーク達には普段の農作業や薪割りで使いなれている大鉈・斧を用意した。
後衛のゴブリン達にクロスボウで先制攻撃や援護射撃をしてもらい、前衛は巨体のオークに接近戦と盾役をしてもらうという作戦だ。
アーサーは訓練場にオークとゴブリンを集め、真新しい装備に戸惑う鬼たちに号令をかけた。
「よし! これから訓練を行う。この草原エリアに作った訓練場の模擬洞窟で早速やってみよう。ボクが1人で侵入者役をやるから、君たちは4人一組のパーティで待ち伏せするなり、奇襲するなり、後ろから挟み撃ちするなりして、襲いかかれ。本気で掛かって来いよ」
「アーサーさまにクロスボウの矢を撃ったり、鉈で切りかかったりしていいんですかい?」
「君たちは実戦と同じにやって欲しい。ボクの方は木刀でやらせてもらう。さあ、洞窟の中で配置について」
実戦と同じ訓練と言われて、尻込みする鬼たち。普段、上層階の見回り当番でやってたのは、大声を上げて冒険者を驚かせたり、石をぶつけて逃げたり、棍棒を振り回しながら適当に追いかけるだけだったりと、まともに戦ってなかったのだ。
慣れない武器を持ってあたふたする鬼たち。ゴブリンは前衛のオークのお尻に矢を当ててしまうし、斧を振り回したオークは、ゴブリン達の首を刈りそうになって悲鳴が上がり大騒ぎになって、散々な結果だった。
へとへとになって座り込んでしまった村里の鬼たちを見て、アーサーは腕を組み小首を傾げて、思案する。
「――ダンジョンに、出会いを求めてみたら、どうだろうか」
「どういう意味ですだ?」
「女の冒険者も数は少ないが、居るだろう? 聞けば、ゴブリン村長の嫁さんも元冒険者だというし。強くてカッコイイところを見せれば、もしかしたらエルフの女の子に惚れられるかもしれない」
「おら、野郎ども、立てっ。アーサーさまに、どこまでもついて行くぞ!!」
「オオー!!」
いやいや、お前らは冒険者からは、モンスター枠で、恋愛対象とはちがうんだが。まあ、せっかくやる気になったんだから、それは黙っておくか。ゴブリン村長の元冒険者の嫁みたいに、奇跡がまた起きるかもしれないし。
◆◇
それから二週間ほど経って、村里の鬼どもに一通りの武器や防具の装備が整い、訓練の成果も多少は見られるようになったある日の夜。
夕飯も食べ終わり、風呂も済んでそろそろ寝ようとしていた。モニターに映るダンジョンの外は、ひどい嵐で雨風が洞窟の入り口から吹き込んでいる。
ダンジョンの中に居る限り、外の嵐の心配をする必要もないけど。モニターから視線を離し、ふとアーサーを見る。
オレはいまだに、
「なあ、アーサー。お前の剣のことだが――」
「あっ、ディーン見て! こんな嵐の夜に、あんなに大勢で来るなんて、変だよ」
入り口付近のモニターには、数十人の人族や荷馬車が映っていた。一見すると、旅の商隊が雨宿りしているようにも見えるが……。
「よし、音声を拾うぞ」
聖剣のことは、取りあえず後回しだ。
「おい、お前ら間違っても逃げようなんて考えんな。ここはダンジョンの中だ。
だみ声の傭兵崩れ風の男が、荷馬車に座っている若い娘たちを脅していた。
「ったく、聖剣を盗んだ奴のせいで国境に行く道は封鎖されるし、あちこちで検問やら、騎士団のやつらまで借り出されてうろつきやがって。こちとら商売が上ったりだ」
「嵐が止んだら、出発する。それまで少し休んどけ。まさかダンジョンの中にいるとは、追っ手も思わないだろうう」
――ふうん、なるほど。盗賊が女の子達をさらって売り飛ばそうとしている、であってるかな。
「あの娘たち、ハーフエルフじゃないか? ティンタジェルには、ハーフエルフ村があるから、そこから攫われたのかも」
思わずアーサーと目を見合わせ、にやりと笑って頷いた。
草原エリアの村里に設置したスピーカーから、大音量で号令をかける。
「鬼ども、起きろっ! お前らの大好きなエルフの娘たちがピンチだぞ! 悪党どもから救い出してやれ! 全員フル装備で広場に集合だっ」
日ごろの成果を見せる時が来たぞ。ガンバレ。頑張って嫁さんをゲットだぜ。人助けも出来て、鬼どもも大喜びだし、一石二丁だな。
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