第4話 やり手の魔女(訪問販売)
ポーンというお客さんが来たことを知らせる音が鳴って、モニターの画面が切り替わった。
画面に映っているのは、冒険者などの人族用の表の出入り口じゃなくて、魔族用の隠し扉の通用口だった。そこに、薄紫の巻き髪に黒のとんがり帽子、マント、ワンピースと黒ずくめの服装をした妙齢の女が、竜頭の形のドアノッカーを叩いている。
(通用口にも、マイクとスピーカーが必要だな)
オレ専用のダンジョン内移動エレベーター、各階への移動をショートカット出来る魔方陣のある部屋に行って、通用口に転移し扉を開けた。
「ディーン、元気そうね。今日も掘り出し物を、色々持って来たわよ」
女はキャリーバックをポンと叩いて、ニッコリ笑った。
「やあ、アヴァロンの魔女モーガン。久しぶり。外の情報を、また色々聞かせて欲しいな。どうぞ入って」
モーガンは手にしていた魔女の箒を、手のひらサイズにコンパクトにすると、キャリーバックをガラガラと引きながら、オレと一緒に移動用魔方陣に入った。これのお陰で地上から数秒で二十一階の最下層に着くことが出来る。
ダンマスの居住区、1LDKのリビングに入ると、魔女は感嘆の声を上げた。
「まぁああ。すごいわ、最新式の大型モニターじゃない。これだけのモニターを設置しているダンジョンは、そうないわよ」
「出入口と各階層に複数のカメラも設置したんだ」
「やるわねえ。ディーンのDP節約生活が実ったのね」
オレが節約生活で貯めたのは、1万DPだけで、ほとんどアーサーの滞在DPのお陰だったんだけどさ。
実は誰かにちょっと、いやかなり、設置したモニターの自慢をしたかったんだ。丁度いい所に魔女が来てくれたな。
「そのソファに座って、見れるようにしたんだよ」
「あら、このソファも素敵ね。座り心地がいいわ」
ぼふんとソファに腰を下ろしたモーガンは、キャリーバックを開けると、土産の手作りおやつを出してくれた。
「かぼちゃのクッキーとキャラメル。チョコレート・ブラウニーも焼いて来たわ。ディーンの好きなお菓子、色々作って来たの」
「ありがと、お茶入れるね」
キッチンで紅茶を入れ、テーブルに紅茶ともらったお菓子を並べる。二人でソファに腰掛けて、お菓子を食べながらモーガンの話を聞いた。
今日魔女が持って来てくれた掘り出し物は、魔法の壺だった。
「この壺はくず大理石で出来ていて、水を入れると漏れてしまうの。でもこの壺の使い道は、花瓶じゃないわ」
「へえ、何に使うの?」
「ふふ、これは悪霊を吸い込んで閉じ込める壺よ」
「すごいな。そんな
少ないどころか、DPマイナスになっちゃったんだけどね……。
「あら、カード払いでいいわよ。他でもない、ディーンですもの。月々の分割払いでいいわ。いまなら、同じ性能の携帯用の小壺もつけてあげるわ。これを持てば誰でも
へえ。見たところ何の変哲もない白い大理石の壺だけど、そんなすごいお宝だったのか。
「オレのところのお客はメインが近くの村人達だから、お宝は薬とか食べ物にしてたんだ。よろこばれるし。でも、ボス部屋のお宝まで食べ物でもいいのかなって、最近悩んでたから、試しにその壺を置いてみようかな」
「薬草と食べ物だけじゃ、夢がないもの。冒険者は一獲千金の夢を求めて来るんだから。ボス部屋のお宝にその壺、いいと思うわよ。それに、この壺は火竜のフラウも買ったのよ」
「えっ、火竜も?! じゃあオレも買う!」
火竜のフラウは、ミズガルズ大陸一のダンジョンマスターで、オレが憧れている竜なんだ。
「じゃあ、分割払いね。ここと、ここにサインして」
魔法契約書を取り出すと、ペンを貸してくれた。
書類に目を通してサインしていると、モーガンはモニターを見ていた。
「そうそう最近、聖都でね。教皇が亡くなったんだけど……。その時、大聖堂の地下の霊廟から
「ええっ?! だって聖剣は封印されてて……」
「何百年も封印されていたわ。ティンタジェル神聖王国の国宝として保管されて、歴代の勇者にも与えなかった。国も、魔族との戦争を望んでなかったしね」
「聖剣は、勇者しか封印を解けないんだよね?」
「そうよ。ここ数百年は、勇者も国とフレイア教団に囲われて、腑抜けにされてたから、聖剣を持って魔王さまと戦おうなんていう気概のある者も居なかったし。魔族にとっては好都合だけど。
だけど新しい勇者は聖剣を手にして、国と教団に追われているなんて、皮肉なものね。まあ、人族同士で戦って疲弊してくれれば、こちらとしては助かるわ」
オレは、アーサーが新たに手に入れたと言っていた剣のことを考えていた。初見でヤバいと感じて降参したんだけど、エクスカリバーだったのか。どおりで。
――それにしても、あいつ、国と教団に追われてるって、マジか。
「あら、あの子……」
モーガンがモニター画面を指差してる。そこにはアーサーが映っていた。
草原エリアの、冒険者立ち入り禁止区域のゴブリン村に入って行くアーサー。睡眠魔法で村全体を眠らせると、畑に入って行き、野菜や芋を収穫して行った。野菜を欲しいだけ採ると、今度は鶏小屋へ行き、生みたて卵を集めていく。鶏たちが羽をバタバタと広げて、大声で鳴いて騒いでる。
「どろぼうだわ。ディーン、放っておいていいの?」
「いや、あれはオレの幼馴染で……うん、いいんだ……」
「昔の勇者みたいね」
「えっ?!」
勇者みたいと言われて、ドキッとした。
「ほら、何世紀も前の昔の勇者って、魔王討伐の旅の途中で、あちこちの村や里に寄っては、泥棒していたって、言われてるじゃない。村人の家に土足で入って、勝手にタンス空けて薬を取ったり、壺をひっくり返してへそくり奪ったりとか」
アーサーが勇者とバレたわけじゃないようで、胸をなでおろす。
「……はは。そうなんだ……」
さらにアーサーは、果樹園に移動していた。そこはオークの里だったが、丁度オーク達が、りんごを収穫している最中だった。
いきなりやって来たあいつを見て、驚くオーク達。
やめろ、お前達、逃げるんだ……。残念ながら、オレの心の声は届かない。
彼らは腰を低くして、アーサーを囲んでいる。オーク達に比べると、ほっそりした少年のアーサーは、あいつらの胸の辺りまでしか身長がない。オーク達がアーサーを侮っているのは、一目見てわかった。
ひとりが棍棒をアーサーに振り下ろした。あいつは棍棒をするりと避けると、しゃがんで片足を軸に、ぐるっと回転しながら、オーク達に足払いを掛けた。
巨体のオーク達が、面白いようにバタバタと転倒し、地面に叩きつけられる。アーサーは、彼らの背負い籠を拾い、落ちたりんごを籠に一杯入れると、ひょいと自分の背中に負った。
それから、カメラを見上げると、ニコっと笑い、ピースした。
オイオイ、カメラ目線とか、よせ。
「――何?! 今の。怖いわ。背筋がぞっとしたの。私、悪いけど帰るわね。ディーンの幼馴染さんに会わずに申し訳ないけど……」
あわてて帰り支度をする魔女。
「じゃあ、ディーン。またね」
去り際に、オレの頬にキスをして、手を振った。
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