&α 新しい普通が始まる.
「うええ。雨強いなあ」
「え」
「ただいま。お土産あるよ。ジンギスカンセットとか、明太子パスタセットとか」
「なんで」
「え、なんでって、え?」
「帰ってこないと、思っ、た、のに」
「連絡しなかったっけ?」
「してない。してないよ」
「したよ。ほら。みてみて」
「なんでパソコンのメールに送ったの。普通に、テキストメッセージで送ってよ。なんでよ」
「いや、長くなるからって。そか。メール読んでないか」
「読んでない」
「仕事がね。ようやく、終わりました。全国津々浦々回って、最後の仕上げが終わりました」
「そう。よかったわね。わたしがあなたに愛想をつかされたと思ってひとりで泣いてたときに、あなたは仕事」
「ごめんよ。ほんとにごめん」
「メールに、なんて書いたの」
「長いから。メール読んでよ」
「長いならそれこそ読まないわよ」
「結婚しようって、書きました」
「う」
「結婚式をする場合の式場とか、結婚式をしない場合の費用を旅行に回すとか、長くなる出張で旅行の下見をするから行きたいところがあったら言ってねとか、とにかくたくさん、書きました」
「そう、ですか。それは、どうも」
「あ、僕の好きな映画。見てもいいかな」
「だめ」
「あっ」
「つうれつにひなんするシーンだから。なによ。つうれつにひなんしようと思ったのに」
「メールで満足してテキストメッセージを送らなかったのは、ほんとうにもうしわけないです。次はちゃんと送りますので」
「次はありません」
「うわっ」
沈み込むソファ。
「結婚式も旅行もいらない。思い出もいらない。いらないの」
「いらないの?」
「あなたがいれば、それで」
「そっか」
「ごはん作って?」
「お土産セットからお選びください」
「ジンギスカンと明太子パスタ」
「両方?」
「両方。あなたがいれば、わたしはなんだって食べるの」
「ふとってもしらないぞお」
「そういえばこのソファ、ふたりで座ると狭いわね」
「ふとっ」
「ふとってない。まだふとってない」
「これからふとるよていなんですね」
「あなたがおいしいごはんを作ってくれるから。これからも。ずっと」
「はいはい」
雨、彼のいない部屋、ソファ 春嵐 @aiot3110
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