「愛」

死のう。

そうはっきりと決めたのは、春先。

なんとなく、すべてが嫌になった。

家庭のごちゃごちゃも、正規職に就けないことも、奨学金も。

わからない明日以降のことを考えるのも、

取り返しのつかない過去の自分の言動も。


空まで浮かんだシャボン玉が割れるように

ぱちぱちと光を出す線香花火が落ちてしまうように

突然、思い立った。


上手な理由も作れないし

きっと理解もされないんだろう

そんなことは承知の上だった


世の中理由がないといけないことが多すぎるくせに

言葉にするには大変なことばかりで

いやになる


だからSNSに遺書を残した

知ってほしかった

そういう人間がいるということも

こんなちっぽけなことで命を落とすような弱い人間もいるということを。


投稿をして、アプリをアンインストールした。

死んでからも嫌味を言われるのは嫌だから。


初夏の東京湾は地元の海よりも黒かった

その黒い水面に時折自分の姿が映った


生ぬるい風が水面をなぜて、私の姿をゆがめた


しゃがんで、堤防から水に触れる

パシャパシャと心地よい音


手の動きに合わせて泡ができては消えた。

こんな風に少しのいやなことが積み重なって

私を暗い底に落としていってしまったのかもしれない


決断したのは今日、でもそのきっかけはずっと続いていた


波に消えていく泡が、手で作る泡の量に勝って

その繰り返しでやがて水面はまた私の姿だけが映った

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