八月の半ば、海にいるからか、湿気がすごい。生暖かい風が腕を撫でる。

聖瑋の残り香はもっとすがすがしくって、こんな磯みたいな、青臭い匂いはしない。

彼女は夏の海で、何を思って死を選んだんだろう。

何を思って、その理由はあの手紙に書いてあった。

でも、ごめんね、聖瑋。

きっと僕を思って、書いてくれたであろう手紙を僕は信じ切れないんだ。

君はたぶん、まだ何かを隠している。

一番の親友だから、わかるんだ。

そのことを言えない、言わせない、僕がいる。

海の中は、もっと生暖かくて、じめった匂いがするんだろう。


泣いた。間違いなく、聖瑋のために。聖瑋を思って泣いた。


崩れ落ちた身体は、あと少し前にのめれば、海に入れる気がした。

でも、僕は、君のいるところには行けないんだ。

君みたいに、強くはないから。

聖瑋も強くはない、でも、自分自身を信じると言うことでは、僕よりも何倍も強い。

僕は本当に聖瑋の親友だったのだろうか。

海は真っ黒だった。


「太平洋は暖かかくて、澄んでいるね。日本海の海は黒くて汚いから。」


鹿児島に遠征に行ったとき、聖瑋が言っていた。でも、東京の海も黒いよ。


巡回に来た警察の人に声をかけられて、その場を離れた。

警察官は、少し僕を警戒しているようで、免許証の番号を控えられた。

明らかに、悲しみに暮れているであろう僕を見ても、警察官は慰めの言葉一つ与えなかった。

でも、それで良かった。

きっと、慰められたらますます、僕はわからなくなってしまいそうだったから。

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