「このたび、田中聖瑋は自殺します。その理由は、未来が怖いからです。奨学金の返済、安定しない仕事、一日一日を生きていくので精一杯です。困ったときに誰に相談したらいいのかわからない。本当に困難な状態にある人しか、人は助けてくれない。困難に陥りそうな人には、世の中はもっと大変な人がいるんだから、って慰めてくれる。でも、どうしたらいいの。わからない、不安しかない。こんなの甘えだって、人は言うかもしれない。そうだよ。でも、そんな風にしか生きていけない人も世の中にはいるの。わかってほしい。だから、私はこうして、遺書を残して死にます。」
昔、聖瑋と一緒に家にいたときに、彼女が死にたい。といって泣き出したことを思い出した。
理由を聞いても、「もういやだ、死にたい」と言った。
しまいには、「殺してくれ、でもしょうちゃんの手は患わせられない」「海で死にたい、海で他の動物の餌になりたい」「私の遺灰を向日葵畑にまいて欲しい。そしたらきっと綺麗な花が咲く。花咲かじいさんだ」
なんて、天井を見ながら言うようになった。
僕も困ってしまって、つい彼女に怒ってしまった。
うまく言葉に出来なくて、すごくおびえた顔をしていた。
でもわからなかったんだ。
なんで死にたいだなんて突然思うようになったのか。
もしかしたらずっとそう思っていたのかもしれない。
でも、僕の目の前にいる彼女は、笑顔がすてきでどちらかといえば、人の背中を押す方だったじゃないか。
「しょうちゃんが殺せないなら、誰か殺して。」
「それは俺が許さない。」
「しょうちゃん、私が殺されたら怒ってくれる?」
「そしたら、俺がそいつを殺すよ」
「じゃあ、殺人で死ぬのはだめだなぁ。」
あまりにも、淡々とそんなことを言ってしまうから、僕は彼女のことが理解出来なくなってしまった。
どうして、こんな頑張っている女の子が突然自らの手で人生を終わらせようとしているのか理解出来なかった。
「ごめん」
小さく彼女が謝った。
「しょうちゃんを泣かせたかったわけじゃないの。」
僕は無言で彼女を抱きしめた。彼女は温かかった。普段は少し痩せすぎだ、と感じる背中も、柔らかく感じた。
「私のために、泣いてくれて、ありがとう」
あのとき、本当に僕は彼女のために涙を流したのだろうか。
僕の思いは、ちゃんと彼女に伝わっていたのだろうか。
僕が涙を流したことは、彼女の考えをずらしただけであって、根本の解決にはなっていなかったのだろう。
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