「しいて、何が悪いのかと言えば、私の心の弱さ。だめだよね、未来が不安だからって、その未来を自らの手で見ないようにするなんて。でも、こんな弱い私がいたこともしょうちゃんには覚えていて欲しい。
本当に満ち足りた二十二年間だった。だからこそ、このまま、死にたいと思ったの。
本当にありがとう。そして最後まで迷惑をかけてしまってごめんね。でも、本当にしょうちゃんに出会えて良かった。長生きしてね。
田中 聖瑋」
気付いたら首都高を走っていた。気付いたら、なんていうにはあまりにも長い時間で。もう5時間近くは運転している。
車を運転することは好きだった。だから部活の遠征では、運転役を買って出ることが多かった。そのたびに、聖瑋に「そんなんは下っ端に任せてくれればいいのに~」なんて、軽く注意をされた。みんなが疲れて寝てしまっているときも、聖瑋は起きて、後部座席から僕の肩を揉んだりしてくれたものだった。
夕焼けが窓に反射している。この時間、自動車のライトがやたらまぶしくて、一番事故の多い時間なんだという。もし、今事故が起きたら、僕は聖瑋の元に行けるのだろうか。
目指している場所は、遺体が見つかった、と報道された東京湾である。別に花を手向けるわけでもない。ただ、最後に彼女が死に場所として選んだ場所を実際の目で見たかった、もしかしたら、彼女の残り香を感じられるかもしれない、なんてばかげた空想を持ったからである。
数日前にテレビで見た場所には、何人かの若い男女と花束やお菓子の塊があった。
その中に、知ってかそれとも偶然なのか聖瑋の好きなミルクティーがあった。
もしかしたら、部員の誰かが置いてくれたのかもしれない。
「お兄さんも、彼女のSNSに感化されてきたの?」
若い男女が話しかけてきた。
「おい、みく、やめろって、わりぃ、悲しんでいるところすまんな」
「そんなに彼女のSNS、拡散されているんですか?」
「え、うそ、見てないの?もしかして、彼女の親族の方?」
「みく、人のプライバシーにそんな入るな」
「ごめんね、じゃあ、私達はこれで」
そういえば、聖瑋の手紙にも書いてあったなぁ。SNSに遺書を残したって。
僕がフォローしていないSNSはTwitterだった。
それっぽいワードを打ち込めば、すぐに彼女の遺書にはたどり着いた。
何万もの「いいね」と「リツイート」。
彼女の遺書を引用する形で、持論を展開する大人たち。
慰めのリプライ、甘えだ。という声。
彼女の遺書は、投稿をツリーにしていく形で形成された。
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