「怒」

彼女の死を受け止めきれないまま、会社の夏季休業に入った。

ありがたいと言うべきだろうか。人に会わなくてすむ。


「しょう~、あんた宛に手紙が来ているわよ~」


「わかった」


「でも変ねぇ。この手紙、送り主の情報が無いのよ。」


急いで階段を降りた。


「手紙ってどれ?」


「机の上に置いてある、黄色い封筒に入っているやつよ。なによ、あんた、最近ずっと引きこもっていたのにそんな焦って~。もしかして祐奈ちゃんからの手紙?」


「わからない、けど、とりあえずありがとう」


母親の顔も見ず、早口でそう言いながらリビングを出た。

日時指定のシールが貼られた、レモン色、というのだろうか、真っ黄色の無地の封筒。

その真ん中に、丁寧に僕の住所と名前が何度も見慣れた字で記載されていた。


ドクンドクンと音が聞こえるくらい脈打っているのがわかる。

震える手に全身の力と注意を集中させて、丁寧にその封を切った。


「しょうちゃんへ


お久しぶりです。この手紙が届くころには私は、この世にはいないことでしょう。おそらく、ニュースにもなっているはずです。なぜなら、私は遺書をSNSに残したからです。しょうちゃんは、私のことをフォローしていないから、たぶんニュースで初めて知ることになると思うけど。一番に伝えられなくてごめんね。

この手紙が届いたと言うことを誰かに伝えることも、マスコミや世間に伝えることもしょうちゃんの自由です。実際にはどうかわからないから、推測で話すことになるんだけれど、マスコミでどう伝えられているかはわからないから、私の死の理由が変に歪められたり、脚色されるのは自由だけど、一番の親友であるしょうちゃんには本当のことを知っていて欲しいので、こうして手紙を送りました。

しょうちゃんに手紙を送ったことは誰にも言っていません。

これを読むも読まないも自由です。いやだと思ったら燃やしたり捨ててくれてかまいません。だって、死んだ人から手紙が来るなんて気持ちがわるいもんね。」


檸檬柄の便せんに、黒いボールペンで書かれたくせ字。

彼女はこの手紙をどんな気持ちで書いたのだろうか。

二枚目に目を通した。

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