第2話 舞姫の旅立ち
一人暗い部屋。
GMは一人パソコンを叩いていた。
0話目の導入は終わったばかりだ。
そろそろ新しいプレイヤーを呼び込んで、本筋をうごかして行かなければならない。
PC②:おっとすみません。まだ早かったですか?
GM:いや、なんだかんだ準備もあるから。今がちょうどいいくらい。データはある程度ひな形を作っておいたから。それをベースにしてくれると助かるかな。
PC②:わーい。了解です。
普段GMをするとき、慣れていないプレイヤーにはある程度組んだものを渡しておくのがこのGMのスタイルである。
データの予測もしやすいため、楽なことずくめだ。
PC②:あとは、ライフパスが必要なんですよね。覚醒とか、衝動にあたるもの。
GM:今回はダブルクロスじゃないから、産まれとかを決めるだけだけどね(笑)
PC②:えっと、騎士の産まれと出ました。たしかライフパスで父親は決まってるんですよね。エダム公アンリ……でしたっけ。
GM:はい、それであってます。
エダム公アンリ。
舞台となるアルディオン大陸を二分する大国『グラスウェルズ』の大貴族。
無能を装った梟雄(きょうゆう)であり、グラスウェルズをひっくり返すような大戦争を起こす。
アリアンロッドブレイク。デスマーチシリーズにて彼の勇姿(?)を見ることは出来る。
PC②:ということは母親が女騎士ですね。母親は女騎士か--興奮してきた。
GM:どう興奮したんだか……。
PC②:次のダイスは--『あなたを鍛え上げてくれた師匠が居る』と出てきました。これ……母親なんじゃ……。
GM:ですね……。最後のダイスをお願いします。
PC②:目的は『好奇心を満たす』。世間知らずな貴族と騎士の一人娘が冒険にわくわくしてる的な……?
GM:等身大ですね(笑)
PC②:よく見たら所持金も0だし……世間知らずなのに旅に出るから……。
PC②のキャラクターはウォーリア。
鎧と武器を装備しなければいけない関係上基本的にお金はカツカツなのだ。
なのでデータを組んだGMは悪くない。
……悪くないんだってば。
PC②:名前は……ちょっと貴族っぽい感じで『エイリスツィア』としますね。アンリの娘だとグラスウェルズ王家に連なるものであることが確定するから苗字は『グラスウェルズ』。それらを合わせて『エイリスツィア・グラスウェルズ』としますね。貴族の娘ですから普段は『エリシア』と呼ばせておくことにしましょう。普段の偽名です。
GM:了解。ありがとうございます。
シーン1 舞姫の旅立ち
--わたくしの名前は、エイリスツィア・グラスウェルズ。
グラスウェルズ王の叔父にあたる人物、アンリ大公の娘ですの。
母様は本来は騎士――すなわち妾の娘ですから王位継承権は遠いところなのですが……そんなことは気にしていませんわ!
普段は世俗の人と触れ合わないように、父さまの荘園でしか過ごしたことがありませんが、今日からのわたくしは違いますわ。
なんと、騎士としての武者修行の旅が許されましたの!
母様からずっと聞かされてきた、異国の地の景色。
みたこともない技。
想像をめぐらすたびに、わたくしははしたなくも武者震いをしてしまうのでした。
「……エイリスツィア。戻ったぞ」
「アンリ父様。エイリスツィアが参りましたわ!」
「見ないうちに、随分と大きくなったな。本当に」
「当然ですわ。父様と母様の娘ですもの」
GM:さて、君が居るのは。グラスウェルズ内、アンリの荘園だ。大貴族だけあって、屋敷は大きく、整理されている。
エリシア:「く強くなりたいですわ。そうすれば、出来ることが増えます。お父様を助けることだって、たくさん!」
GM:「ああ、そうだな。君の母は大陸でも屈指の剣豪だった。--もしかしたら、エイリスツィアもすぐに私を追い抜いてしまうかもな」
エリシア:「ふふ、お父様ったら。また謙遜なさって」
父の言葉に、くすりと笑ってみせるエイリスツィア。
穏やかに娘を見つめるアンリ。
彼は梟雄であり、反乱を起こした愚者と後の歴史書に書かれる人物だった。
柔和な仮面をかぶりつつ、その実態は狡猾であった、と。
グラスウェルズの王位を簒奪すべく、不満の感情を隠し、反乱のための剣を研ぎ澄ました人物と。
「でも、私が彼女より強くないのは事実だからね--それでも、私はやらなければならないことがあるんだが」
「……グラスウェルズの王になること。ですわね?」
「ああ。随分と私は嘘をついてきたが。それだけは嘘にするわけにはいかないのでね」
しかし。
彼が娘を見る目は。暖かい情のこもったものだった。
少し見ない間に、大きく育った娘を見て彼は口元を綻ばせる。
「エイリスツィア。お前はもう17だったか」
「ええ。槍の扱いも慣れてきましたし、わたくしもお父様を守れる、立派な騎士になれると思いますわ」
「ああ、なれるとも--だが、そうだな。少しばかり経験が足りない。例えば、世界の広さを知る、なんてね」
いたずらっぽく、ひとさし指をたてて見せるアンリ。
それが意味することを少し遅れて理解したエイリスツィアは、花のように微笑むのだった。
エリシア:「武者修行の旅、ですわね!……い、いいんですの?」
GM:「君の母上も同じくらいの歳に世界を回ったものだ。騎士として花開くのであれば世界を見るのは必要なことだろう」
エリシア:「まぁ。まぁ!ありがとうございます。お父様!」
GM:「ただ、そうだな。ただ漫然と『武者修行』というのもつまらないだろう」
エリシア:「……課題がある。ということですの?」
GM:「ああ、察しが良くて助かるよ。このアルディオン大陸に伝わる。ある伝説について調べて来てほしい」
エリシア:「伝説……うう、勉強は苦手ですわ」知力はあんまり高くないのですわ。ウォーリアですし……。
GM:「ふふ、何事も勉強だ」アンリは君の額にとん、と指を当ててから話し始めるよ。
「『マスターピース』とよばれる詩が、この大陸にはあると言われている。古い、古いおとぎ話さ」
「ますたぁぴぃす……?」
「このアルディオン大陸を統一した、初代『統一帝』ウルフリックが遺した詩。と言われている」
「あの、ウルフリックが。ですの?」
「世界を統一したのち、戦いに疲れたものに平穏をもたらした--と言われている。もっとも1000年も昔のものだ。もとの形は失われ、今では各国に断片が残るのみだけどね」
GM:「私は、この国の王になる。いや、ならなければいけない。--だから、王になった時は。その詩で。グラスウェルズの民を癒してやってほしい」
エリシア:「ええ、ええ!」
GM:さて、そこまで話し終えたアンリのところに、不意に魔術で出来た使い魔がやってくる。それをみて不機嫌な顔になるアンリ。
エリシア:「どうしましたの?」
GM:「気にしないでいい……全く、今は家族との時間と言っているだろう。何のつもりだ」無精無精使い魔が持ってきた手紙を拓くアンリ。……そこで、彼の顔色が変わる。
「オスウィン……貴様、我が国で何をする気だ……!すまない、エイリスツィア。用事が出来てしまった」
「大丈夫ですわ。お父様はこの国になくてはならない人物ですもの」
見たことのない父の顔。
冷たく、そして熱い殺意に満ちた父の眼にたじろぎつつも、気丈に返事をするエイリスツィア。
「見送りもできなくてすまない。よい旅を。最初はエストネルを目指すといい。かの地には必ずマスターピースの断章があるはずだ」
「ウルフリックとともに戦ったセイン、エルウォーデン王が治める場所ですものね」
「ああ、あのいけ好かない男が治める国であり--すべての争いの元凶でもある国だ」
言葉を切り、表情を戻すアンリ。
娘を見送る時は笑顔で。
そう決めていたのだった。
「世界を見てくるのだ、エイリスツィア。そして、いつか--私のもとに帰ってきてくれ」
「当然ですわ!このエイリスツィア。必ずお父様の役に立って見せますわ。だから--お父様」
そんなアンリに。
「お身体を、大事になさってくださいませ」
彼の愛娘は、全力の笑顔でこたえるのだった。
※ ※ ※
GM:さて、君は旅に出て数週間。具体的にはエストネルに辿り着いていました。
エリシア:展開が早いですのね(笑)
GM:そこまで細かく描写する腕は私にはないです(苦笑)
「やっとたどり着きましたわね」
グラスウェルズを抜け、1500kmほどに、その国は存在した。
エストネル王国。
はるかなる高山に存在するこの国は戦乱明け暮れるアルディオンにおいて、唯一戦火に包まれない国家であった。
そして、統一帝を決める国家でもある。
エストネルの裁量一つで、正義の有無、賠償の有無、否、戦争の結果すら変わってしまう。
それほどの力を持つのは。
かの国が、かつての統一帝ウルフリックの戦友。エルウォーデン王を王として仰いでいるからなのだろうか。
エリシア:「このくらいの距離であれば、余裕ですわっ!」
GM:さて、そういってガッツポーズをする君に、一つの問題が発生していた。
エリシア:……あ、分かりました「しかし……お……」
GM:そう、君にとっては初めての旅だ。しかも一人旅。当然金銭を切り詰めるのは得意ではなく--。
エリシア:「お金が……ありませんわ……!」
「アンリ父さまの偉大さをこんなところで知るとは思いませんでしたわ……」
美しい建物が立ち並ぶエストネルの一角、少女はしょぼくれた声を上げた。
野宿は騎士としての訓練で慣れてはいたが、町に入ってベッドで寝られないというのは初めての体験だった。
とはいえ、お金がないのは事実。
なにか仕事になること、お金になりそうなことを探そうと目をきょろきょろさせるエリシア。
そんな彼女がある変わった人影を発見するのに、そう時間はかからなかった。
「『マスターピース』の完成のためには……どうしてもアイドルが必要だというのに」
そういって、首の後ろをかく怪しい大柄な男。
見慣れぬ黒い服(スーツ)を着込んでいることも、怪しさを倍増させていた。
「あの、そこのあなた。何かおこまりですの?」
そんな彼に話しかけたのは、エリシアが騎士だったからなのだろう。
困った人はどうしても放っておけないたちなのだった。
エリシア:では、声をかけますわ。困った人は放っておけませんもの。
GM:では、その男は君に振り向くと急に天啓をうけたみたいな顔になるよ。
エリシア:……ま、まさか。スーツで大柄ですよね。
GM:ええ。その通りです。なので--
「アイドルに--興味はありませんか?」
エリシア;や……やはりですのね……!?
GM:小さな紙片を取り出しながら、君を真摯に見る黒服の男。紙片には『プロデューサー タケウチ』と書かれていた。
エリシア:「ぷ、プロデューサーのタケウチさんですのね。その……アイドルといわれましても、アイドルが何かわからないのですが……」
GM:その台詞にハッとするタケウチさん。
「アイドルとは--そうですね。人の前で踊ったり、歌ったり。人々に夢を与える仕事です。歌劇の役者が、一番イメージに近いでしょうか」
「そう、なんですね……吟遊詩人と、踊り子を合わせたような職業、でしょうか」
エリシア:たじたじになりながらも「えっと、タケウチさん。わたくしはエリシアと申しますわ」となんとか自己紹介をします。アイドルについてはまだ分かっていませんが(苦笑)それでも『マスターピース』という言葉に関しては聞き覚えがありますからね。
GM:自己紹介を返してくれたことに頭を下げつつ、彼は話を続けるよ。
「この大陸は--現在戦火に包まれています」
「そう、ですね……」
エリシアは首肯する。
今まで旅した地も、戦火の影を感じない場所は殆どなかった。
争いを受けない、エストネルを除き--つねに、アルディオン大陸は戦火に満ちていた。
「そのため人々の顔からは、笑顔が失われていると。私は思っています」
「笑顔、ですか」
「はい……笑顔、です。私は。この大陸に笑顔を取り戻したいのです。世界に平和をもたらす詩。『マスターピース』の力をもって」
話を一度切るタケウチ。
「笑顔の力、一人一人のものはちいさなモノでしょう」
「……ええ」
「しかし、それを束ねればきっと。大きな力となると思うのです。私は--『マスターピース』を象徴として笑顔を、平穏を取り戻したい」
彼の瞳は真摯な光に満ちていた。
……人によっては、あまりの目つきの悪さに暗殺者の風格を感じることもありそうな瞳ではあった。
「貴女の歩き方、身のこなし。おそらくダンスの才能があると思います」
「た、たしかにダンスはお父様から習っていましたが……」
「マスターピースはただの歌ではありません、踊りと組み合わせることによって力を発揮した。と伝えられています。ですから--貴女がもしアイドルに興味があれば、私の手を取ってほしいと思います」
「あ、ありがとうございます。でもわたくしは武芸やダンスは兎も角、歌はあまり歌ったことはありませんので……」
「大丈夫です。最初はだれもが素人でしたから……それに、貴女には間違いなく才能があると思います」
「そ、そうなんですか……」
GM:エリシアがたじろぎつつ相手をしていると、そんな彼に近づく影がある。
エリシア:「す、すぐに返事をするのは……」人相が悪い人ですからね(苦笑)
「おい、貴様」
「……へ?」
「そこの女の人を離せ!不審者!」
「いえ、私は怪しいものでは……」
GM:たじろぐエリシアが顔を上げると。そこにはいつの間にか集まった衛兵たちがタケウチさんに槍をつきつけている。
エリシア:ああやはり……。とはいえ袖振り合うのも多少の縁と言いますし何より『マスターピース』について知っているようです。「お待ちになって、衛兵さん!」
GM:「もう大丈夫だお嬢さん、最近よく出る不審者だったようだからな」
エリシア:「ち、違いますの。この方は体が大きく、魔神のような雰囲気をまとっていらっしゃいますが。本当は心が清い方なのですの。先ほどもこの方とお仕事のお話をしていただけでして……お騒がせして申し訳ありません」頭を下げる。
GM:「仕事って……新手の詐欺じゃないか?」
エリシア:「ち、違いますの。わたくしの見た目もか弱いほうですし。誤解されやすくてすみません」
GM:「む……本当に騙されている訳ではなさそうだな」エリシアの説得が効いたのか、衛兵は槍を下ろします。そしてタケウチに「お前さんも誤解されるような見た目をやめるんだぞ?」と
エリシア:みためを変えるのは大分無茶な気がしますが……。
GM:それを受けてタケウチさんのほうは「努力します」と低い声で言っていたりする(笑)
エリシア:「衛兵さん達も、ありがとうございました。お身体にお気をつけてくださいませ」と優雅に一礼します。
GM:その言葉を受けて衛兵たちも「すまなかったな」と離れてくれるよ。そして、タケウチと君の二人が残される。
「--ご、ごめんなさい!」
「申し訳ありませんでした」
二人の謝罪が、ほぼ同時にエストネルの街角に響く。
頭を下げていたエリシアが前を見ると、同じく頭を下げるタケウチの姿。
「かぶって……しまいましたね」
「ええ……プロデューサー。タケウチさん。衛兵さんにも話しましたけれど。わたくしアイドルと言うものを頑張ってみようと思いますの。成り行きかもしれませんが……これからよろしくお願いしますわ」
「此方こそ。よろしくお願いします。そして、ありがとうございます」
お互い、クスリと小さく笑いながら。
手をぎゅっと握る。
エリシアの手よりも大きな、分厚い手だった。
「がんばりますね、プロデューサー!」
エイリスツィア、グラスウェルズはこうしてアイドルの道の第一歩を踏み出すのだった。
※ ※ ※
「……ここが、エストネルの城。ですか」
「ええ。こうして王に拝謁できるとは思いませんでしたが……」
GM:さて、数刻後。君たちはエストネルの王城に居た。マスターピースに関して聴くならウルフリックと共に戦ったエストネル王、エル・ウォーデンが詳しいという判断だね。
エリシア:まさか、そんな簡単に会えるなんて思いませんでしたわ……。もしかしてタケウチさんってすごい方なのでしょうか。
GM:それに関してはそのうち明らかになるかもしれませんね。
「陛下、約束通り女性を連れてまいりました--マスターピースを封じた場所について。教えてください」
「……タケウチ。確かにそなたは私が指定した『心の強い女性』を連れてくることが出来たようだな」
跪き、王に問うタケウチに対し。厳粛な声で語るエルウォーデン。
エストネルの王を1000年にわたり勤めた人物である。
その見た目は優男のようでいて、強い圧力を感じさせるものだった。
それは、かつて英雄の王と共に戦ったという経験か。それとも1000年生きたことによる力なのか。
どちらか判別することは不可能だった。
「……だが、それだけでは駄目だ。そう以前も言っただろう」
「ええ……試練がある。と」
「お前たちがマスターピースを求めるのであれば。かつてセインが遺した試練を超えよ、とな」
「セインの迷宮……」
エリシアは小さく呟く。
セイン。
その名は、この大陸に住まうもので知らぬものはいない。
かつて英雄王と戦ったとされる、古代の戦士たちの名だ。
(なぜ、歌曲に対して、このような試練を設けたのかしら。王は一体何を……)
エリシア:「ここで話していても、詮無きことでありますわね。王--その試練を受けられる場所はいずこにありますか」
GM:「--このエストネルの外れ、封印区域に存在する。--話すことが無ければ、向かうがいい。王は長く無駄話をするほど暇ではないのでな」
エリシア:「王よ。承知いたしましたわ」優雅に一礼をします。
GM:「ええ、すぐに向かいます」エリシアの礼に一瞬遅れつつタケウチも礼をする。
エリシア:それでは、試練に向かうべく。そのまま城を出ますわ。最後に、一言だけ。
「--お父様と、大分違いますのね」
城を出ながら、一言呟くエリシア。
その同時刻、王の間に居たエルウォーデンは。
「平和から最も遠い男の娘を連れてくるとは、まさに『皮肉』だ」
静かに、自嘲気味な笑みを浮かべるのだった。
エリシア:(プレイヤーにもどりつつ)……やっぱり気づかれてましたか(苦笑)
GM:この大陸の戦争を司るものだからね。戦乱の芽には聡いでしょう。
エリシア:とはいえ、わたくしに出来る事は。前を向くことだけですわ。
※ ※ ※
GM:さて、ここからダンジョンシーンになります。
エリシア:了解ですの。先ほど言っていた『セインの試練』ですね?
GM:はい。エルウォーデン王の言った通り。封印されていた入り口が見えてきます。古い石造りの構造の入り口だね。苔むしているというのに、どこか清冽な雰囲気を感じさせています。
エリシア:「……綺麗な空気ですわね。ここが、セインの作った試練……」
タケウチ(GM):「ええ、しかし。油断はできません。おそらくこの内部には試練と称するだけのものがあると思います」
エリシア:「分かっておりますわ」では、第一層に進みます。
GM:了解です。では第一フロア。10m四方くらいの部屋です。
エリシア:(実家の馬小屋より狭いですわね)
GM:それは言わないお約束です(苦笑)
「汝--『マスターピース』を求めしものか」
石造りの部屋の中。
二人の耳朶を揺らすのは、深い女性の声。
「は、はい……たしかに。そうです」
「ええ。マスターピースを求め。我々はこの試練を受けております」
荘厳な空気に気おされながら答えるエリシアとタケウチ。
そんな彼女の前に光が結集し--やがて一つの人影を作り出した。
「なるほどなるほど……分かった。そなたたちに試練を授けよう!」
そこに居たのは--。
体長40cmほどの妖精さんだった。
エリシア:あらかわいい。
GM:「な、なんだその目は……わ、わたしのことを可愛いとか思わなかっただろうなっ!?」
エリシア:「……少し愛らしいと思っただけですわ」
GM:「う、ウルフリックと同じことを言われた」さきほどまでのシリアス声はどこへやら。ぷくっとほほを膨らませる妖精さん。
エリシア:「あらごめんなさい」
GM:「謝ってくれるなら問題ありませんですとも」ちょっと納得いかなそうな顔をした後、せき払いを数回。
妖精(GM):「--それに、わたしは好悪で試練を変える人間ではありませんから」
GM:再び声を作り出した妖精さんはゆっくりとその『問い』を口にした。
『……砂漠に、二人の男がいた」
彼らは二人とも、水がなければ死んでしまうほどに渇いてしまっていた
――現在彼らの前に、二つの大きさが違うコップがある
そして、たっぷりの水の入った水差しも
二人は水を分け合うことにしたが。お互いの視線は穏やかではない。
彼らは、どちらかが多く飲むのではないかという不安に苛まれていたからだ。
男達ふたりは満足させられる答えは。如何なるものか』
エリシア:二人が、一つの水差しを奪い合う。戦争のよう、ですわね。
口元に指を当て考え始めるエリシア。
こういった場面において、答えは大体決まっている。
戦い、敗者がすべてを失うようにすればそれで終わりだ。
そうしてアルディオン大陸は回ってきたのだ。
戦い、奪い、殺し、殺され。
それが戦乱の世の常識であるからだ。
エリシア:しかし。この答えが世界に平穏を齎す。とは考え難いですわね。--タケウチさんは。何かわかりましたか?
GM:ふむ。タケウチさんは「……おそらく。完璧に二つに分けることは出来ません。……そうですよね」そう確認を取るよ
妖精(GM):「当然だ。世の問いのほとんどは、けして割り切れるものではない」
エリシア:「とはいえ、避けて通れるもの。というわけでもありませんわね」
悩み込むエイリスツィア(のプレイヤー)。
この問いは。アリアンロッドリプレイサガ本編にも出てくるものであり、出題者はフェリタニア軍師ナヴァール(プレイヤー)。
レイウォールの軍師ステラ(GM)の頭を捻らせる逸品となっている。
エリシア:すみません、判定でヒントを頂いてもいいですか?
GM:了解です。では【知力】で判定を行ってみてください。
エリシア:達成値は(ダイスを振る)8ですね。……微妙、ですが。
GM:では、タケウチがしゃべり始めます。
「エリシアさん、この水は。『半分に分けられない』」
「ええ。大きさの違う容器で分けられる訳ではありませんわ」
「ゴール地点は、恐らく『二人が満足する』ことでしょう」
「ええ。戦って勝ったほうがすべてを決めたとしても。敗者に禍根が残りますわ。それは--戦争と変わらない」
再び、思考に耽るエリシア。
そんな彼女が口にした答えは。
エリシア:「満足が行く方法が出来るまで、二人で話し合う事ではないでしょうか。本気で話し合ったのであれば。きっと満足する答えが出ると思います」
妖精(GM):「なるほど、ね」
彼女はまっすぐに妖精を見据える。
その翠の瞳に、迷いは見えなかった。
GM:「先に言うと、私の用意した答えとは違うものだ」
エリシア:「……そう、でしたか」
GM:「問いは問いであり。答えが用意されている。出題者の考える『最良』というやつだ……だが」妖精は、にやりとほほ笑む。
エリシア:「だが……?」
GM:「そういうであろう『お人よし』が持っていくほうが『マスターピース』に相応しいのかもしれないな」パチリ。と妖精が指を鳴らすと後ろにドアが現れます。
エリシア:それで開けてくれる妖精さんも大分『お人よし』な気がしますわね。……ところで、答えの方は?
GM:ああ、それはですね……
エリシア:成程……。
答えに関しては、リプレイに書いてあるものなので割愛。
フェリタニア軍師であり、知恵者であるナヴァールらしい答えとなっている。
GM:「見事です、エリシアさん」
エリシア:「ふふ、ありがとうございますわ」
GM:「次の間に進むがよい。次は身体を動かすぞ?」
エリシア:「--はい。頑張ります!」
開いた扉の奥に進むエリシアたち。
「お父様が聞いたら、どう思うのでしょうか……」
「何か、仰いましたか?」
「いえ、何でもありませんわ」
※ ※ ※
GM:さて、2部屋目も同じく10m四方の部屋だね。
エリシア:この部屋にもやはり妖精さんがいらっしゃるのでしょうか。
GM:すぐに目に入ります。主に部屋の中央当たりに置かれたベッドに。
エリシア:ベッド……(笑)
GM:「むにゃぁ……もう、食べられません……」そんな感じで寝ている妖精さん。
エリシア:「あ、あの妖精さん……?」
GM:声をかけたエリシアに気が付いてガバっと起きる妖精さん「っ……はっ!? よくぞ来ましたね!私こそ。第二の試練を司る妖精です!」
エリシア「よろしくお願いしますわ」
GM:「あなたがスルー力のある大物で良かったです……さて。準備は出来ていますね!私の試練は力と『もう一つ』を見る試練!全力で行きますよ!」
「出でよ、私の自信作。その名も--『無敵ゴーレム』!!」
「無敵……?なんて巨大な!」
がしゃり、がしゃりと音を立てて現れたのが3mほどのサイズの巨大なゴーレム。
ぎろりとエリシアたちを睨み上げるその姿はすさまじい威圧感を放っていた。
「試練の内容は簡単!この『無敵ゴーレム』を戦闘不能にすること!です!」
「大変な戦いになりそうですわね--」
「なんとこの無敵ゴーレム、1ダメージも受けたことありませんからね。まさに無敵!」
「……っ!どうすれば」
巨大なゴーレムを睨み上げるエリシア。
槍を構え、前に出る。
「タケウチさん、援護お願いします。これももしかしたら--なぞかけかもしれませんわ!」
GM:では戦闘ラウンドに入りましょう。タケウチさんのデータはこちらで動かして大丈夫ですか?
エリシア:お任せしますわ。一人だと厳しいと思いますから。
GM:では、無敵ゴーレムの行動値は9。タケウチさんは6となります。
エリシア:こちらは5。やはり鎧が重いですわね……。その分充分硬いのですが。セットアッププロセスにまず《ステップアース》をして防御と魔法防御をさらに増やしますわ。
GM:では無敵ゴーレムの行動です。「さあ、行きますよ無敵--」その巨大な手を振り上げ……。
エリシア:来ましたわね!
GM:「ビィィィーム!!」目からビーム発射!!命中は13!
エリシア;な、強いですわね……っ!ダイス目は(ダイスを振る)1ゾロ。ファンブル!?鎧が重すぎたんですわ!
GM:ではダメージは(ダイスを振る)35ダメージ!ビームが直撃する。
エリシア:魔法防御は9ですわ。
GM:さて、タケウチさんがそこに《プロテクション》(ダイスを振る)さらに10点ダメージを軽減します。
エリシア:14ダメージ。プロデューサーさんやりますわね!
GM:「プロデューサーとしては当然です!」さて、タケウチさんの手番。《ヒール》で(ダイスを振る)14点回復。……あれ?
エリシア:実質ダメージ0……さっきからタケウチさんのダイス目が良いですわね……。
GM:プロデューサーだからですかね。
エリシア:では、答えて見せますわ!ムーブで接敵。マイナーなし、メジャーアクションで《バッシュ》!命中は《アームズマスタリー・槍》のおかげで3つも振れますわ。多いのはいい事!(ダイスを振る)命中は13ですわ!
GM:……回避はほぼ絶望だが……うん、10。回避失敗。
エリシア:ヒロインの面目ですわ。ダメージは(ダイスを振る)14点物理!
GM:くくく……ここで『無敵ゴーレム』の
エリシア:なんですって!?……やはり、何かあるのかしら。判定は行って大丈夫でしょうか?
GM:ではここで【感知】判定をしてみましょうか。
エリシア:感知は得意ではないのですが(ダイスを振る)よし、ダイス目は悪くないですわ!
GM:む、そのダイス目ならわかる。この無敵ゴーレム……実は実体がない。なので《無敵結界》でダメージを0にする演出があるんだ。実際には後ろにあるコードを切られただけで終わるのだ。
エリシア:「まさか……あのゴーレム!」コードの方をロックオンしますわ。
GM:「ぎ、ぎくっ……なんでコードの方を見ているんですか……!?」
ここからの戦いはほぼ消化試合だった。
ビームを防がれたゴーレムは無敵パンチで戦うものの、1レベルにあるまじき防御を持つエリシアの物理防御(13)とタケウチの《プロテクション》、そして《ヒール》によって致命傷には程遠い。
一方コードを切るだけで戦闘は終了するのだ。
妖精さんの背筋から流れる汗。
エリシア:《バッシュ》ですわ!
GM:回避は6ゾロのクリティカル!
エリシア:またですのっ!?実は本当に無敵なゴーレムだったり……!?
妖精(GM):「こ、これぞ無敵回避でございます!」
実際にはやたら回避の(ダイス目が)高いゴーレムに二回も攻撃をかわされたり。回避でファンブルを連発していたのだが。割愛しよう。
エリシア:今度こそ……!命中17ですわっ!
GM:「む……むーりぃぃぃっ!?」連続6ゾロは流石に出ない!
エリシア:「そこですわっ!」コードを両断しますわ!
GM:ゴーレムは一生懸命庇おうとしますが、コードはあっけなく両断され……ぷしゅー……ゆっくりとゴーレムの姿が消えていく。
エリシア:「やりましたわっ!プロデューサー!」思わずプロデューサーに抱き着きます。
GM:「当然の成果です……が、が、離れてください……」
エリシア:「は、はしたないことをしてしまいましたわね……」
GM:そんな二人を見ながら、満足げに頷く妖精さん。「……もう一つ、力の他に私が求めたもの、見えましたか?」
エリシア:「ええ。きっと……『冷静さ』でしょうか」
GM:「ご名答ですっ。目の前の敵ばかりを見て本質を失ってしまえば。目指すものを失ってしまいますから」
エリシア:「真理ですわね……無敵ゴーレムの方ばかり見て、コードを見失ってしまえば。負けてしまいますわね」
GM:妖精さんは、さらに頷いて見せる。
「さあ、次の部屋へどうぞ。ラストですよ!」
「ええ、ありがとうございます!」
部屋を後にするエリシア。
「《ヒール》しましょう、エリシアさん」
「忘れてましたわ!?」
そんな彼女の後ろからついてくる影に気づかずに--。
※ ※ ※
GM:では、クライマックスフェイズに入りましょうか。
エリシア:了解ですわ。……先ほど後ろからついてきた人でしょうか。
GM:ご明察です。三つ目の部屋にたどり着いた君の後ろから声が聞こえてくる。
「ふっふっふ、遅かったにゃ。本当に」
「えっ」
後ろから聞こえた声に振り返るエリシア。
彼女の目に映ったのは、不敵な笑みを浮かべる一人の猫耳少女であった。
エリシア:「何者ですの? もしかしてこの階層の試練の人だったり?」
GM:「それは違うにゃ。ミクは--ミクはこのアルディオン最高のトレジャーハンターになる女。なのにゃ!」
エリシア:「ミクさん、ですわね。……それにしても、とれじゃあはんたー……?」
GM:「この世界中を回ってお宝をゲットするお仕事なのにゃ!……今は実入りがほとんど悪くなくてエルウォ……じゃなくてスポンサーチャンの言うとおりにしてるけど……」
エリシア:前川さん何やってるんですか。
GM:「前川じゃないにゃっ!?」
エリシア:人違いのようですね。深く気にしてはいけません。……しかしエルウォーデン王の意向で、妨害?
GM:「よくわからないけどスポンサーの意向なのにゃ!」
エリシア:「妙にまじめですわね……」
GM:「と、とにかくミクは自分を変えないのにゃ!かかってくるのにゃ!」さて、今回のラスボス戦です。
エリシア:最初のボス……みくにゃん……うっ、頭が。
GM:ではラウンド進行に入ります。行動順は以下の通りですね。
行動値
ミク 9
タケウチ 6
エリシア 5
エリシア:早いですわね……!
GM:猫ですからね。セットアップでこちらは《ステップ:エアリアル》。風のステップを踏んで移動力+15
エリシア:こちらも負けじと《ステップ:アース》ですわ!
GM:タケウチはセットアップ行動はなし。ではミクから。マイナーで《フェイント》、メジャーで《バッシュ》!《アンビテクスタリティ》もあるので短剣二刀流で攻撃します(ダイスを振る)命中は19!
エリシア:……ぐ、《フェイント》があるとダイスをどう振っても回避は無理ですわね。
GM:ではダメージは(ダイスを振る)35点!短剣の鋭い一撃が襲い掛かります。
エリシア:くっ、タケウチさんからプロテクションを貰っても15ダメージ。タケウチさんに次は回復してもらわなければ。
タケウチ(GM):「エリシアさん。回復を」
エリシア:「分かっておりますわ!」よし、12点回復してますわね。
ミク(GM):「降伏するなら今の内にゃ!」
エリシア:「まだまだ……ですわ!こんどはこちらから行きますっ!」マイナーなし、メジャーで《バッシュ》命中は(ダイスを振る)う、低い。13ですわ。
GM:こちらは《バタフライダンス》があるので回避は3つ振れる(ダイスを振る)おっとダイス目がいい。達成値18。エリシアの槍を華麗に避けるミク。
エリシア;「くっ、まるで猫の様な動きですわね!」
GM:では次のラウンドに参りましょう。
ここからの戦いは一言で言えば泥仕合であった。
ミクの攻撃のダイス目が腐ったのもあり、エリシアはフェイトを使うこともなく軽く回避(エリシア:「これが先輩アイドルの力ですわ!」)
しかし、エリシアも攻撃を外す状況(ミク「回避は得意にゃああっ!」)。
次ラウンドもお互いに攻撃が当たらない。命中が腐るミクに対し、フェイト1点でクリティカルで回避するエリシア。
一方のエリシアも命中が腐って当たらない。
戦いは膠着状態にあった。
エリシア:攻撃はもう一度6ゾロで回避しましたわ!
GM:……っ、チャットのダイスポッドだからイカサマでも何でもなく運がいい……!
エリシア:そして、ここでフェイトを使って決めに行きます!フェイトを使用して(ダイスを振る)クリティカルですわ!
GM:ぐ。こちらにフェイトはないので3dで判定するしかない……!回避失敗。「こ、こいつ急に動きがっ早くなったにゃ!?」
エリシア:「全力の一撃--参りますわっ!」ダメージに残ったフェイトを注ぎます(ダイスを振る)……40点!
GM:みくにゃんのHPは32。そして防御力は……7。
エリシア:……あっ。
GM:「ミクは……自分をまげ……ない、にゃ」 1点のオーバーキルです。
一閃。
エリシアの槍は見事に身軽なミクの肉体を捉えていた。
「流石です、エリシアさん!」
「当然の--成果ですわ、プロデューサー!」
思わず拍手をするタケウチに、笑顔で返すエリシアであった。
※ ※ ※
エリシア:「み、ミクさん大丈夫ですの!?」 全力で槍をふるいましたがやはり心配なので駆け寄ります。
GM:「大丈夫、このゲームHP0になっても死ぬわけじゃないにゃ」
エリシア:「そうだったんですね……成程」
GM:メタ台詞に突っ込まないエリシアさんの前で、ミクは頭を抱え始めます。
「死ぬわけじゃない……けど、このままだとどうなるか分からないにゃ」
満身創痍になりつつも、頭を抱えるミク。
彼女の頭の中にはスポンサー、こと雇い主のエル・ウォーデンの姿。
「失望しました。ミクにゃんのファン辞めます」
「にゃああああっ!?」
頭に浮かんだ危険な妄想相手に首を何度も振るミク。
仕事の失敗は信頼の問題にもかかわる。
ものによっては--死刑もあり得るのだ。
「ミクさん……」
エリシア:「……」
GM:「こ……こうなったら毒喰らわば皿までにゃ!」
エリシア:?何を……。
GM:「ミクの目的はここのお宝を見る事にゃ!スポンサーなんてしらないことにするにゃ!」
エリシア:「たくましいですわね……」
GM:「なので、見逃してほしいにゃ」そういって頭を下げるよ。
エリシア:「そうですわね……では、一つ条件があります」
GM:「な、なにをするつもりにゃ?」
エリシア:「--アイドルに興味はありませんか?」
笑顔で語るエリシア。
隣にいるタケウチに目配せをすると、彼も頷いていた。
「ええ、彼女には才能があると思います」
「とっても頑張り屋だとも思いますから」
エリシア;ここで殺したり、言う事を従わせたりするのは。わたくしの主義じゃありませんから。
GM:「うう……そう言われると悪い気はしないにゃ……」
エリシア:「なら、一緒に参りましょう!」強引に彼女の手を取ります。
GM:「ま、まあついて行ってやるにゃ。ただ……アイドルやるなら。もっとキャラを頑張ったほうがいいにゃ!今の時代はキャラクター性だにゃ!もっとお嬢様っぽいほうがキャラが増えると思うにゃ」
エリシア:「あ、えっと……が、がんばりますわ!ミクにゃんさん!」
タケウチ(GM):「……いい、笑顔です」
ミク(GM):「とにかく、ヨロシクだにゃ。それとさっさとお宝を見に行くにゃあ!」
エリシア:「レッツゴー。ですわ!」
※ ※ ※
GM:では、試練を終えて部屋の奥にたどり着いたシーンです。
--石造りの部屋。その中央には一人の女性が居た。
黒い服を来た、白い肌の女性。
彼女の体は透けていて、人ではないことは一目でわかる。
そして、彼女が放つ清冽な気こそ、このダンジョンの空気を作っていたのだろう。
エリシア:「貴女は……もしかして」
GM:「……私は……この試練にて『マスターピース』を保管していた者です。マスターピースを継承するためにつくられた。人工生命。かつて……この歌を歌った歌姫を模した、影のようなものです」
エリシア:「そう、だったんですのね」
GM:「貴女の戦いは、ここでずっと見ておりました」
エリシア:「私の、戦いを……」
GM:「ええ。妖精たちは。私と契約をしておりますから。ですから、一層からずっと」
エリシア:「あの妖精さんたちが……随分と恥ずかしいところを見せてしまいましたわね」
GM:「話し合いという答えを出し、冷静な判断力を持っているものの、敵を許してしまう心。貴女は……きっと、まだ世界を知らない」
エリシア:「そう、かもしれませんわね」
GM:「けれど……私には、その輝きが。尊く見えました。ですから……」
柔らかい旋律が響く。
心にそっと触れるような、消えてしまいそうな。
そんな、短い歌だった。
GM:「貴女に、マスターピースの『序章』を与えましょう」
エリシア:「ありがとうございます……歌姫様!」がんばって、中身を覚えますわ。
GM:「私の役割は、これで終わりです。……貴女に神竜の加護がありますよう。祈っております」ゆっくりと光の粒になって消えていく。
エリシア:「はい。歌姫様の期待にも、きっと応えて見せますわ」一礼をします。そして心の内でお父様にも「やりましたわ」と報告します。
GM:「戻りましょう、エリシアさん」
エリシア:「ええ。きっとすぐにこの歌を歌う日が来ますわ」ちなみにゲーム的な効果はありますの?
GM:次回のシナリオで出せたら出す予定……です。
エリシア:わかりましたわ。では、プロデューサーとミクさんに振り返って。
「では、帰りましょうか。ぐずぐずしてはいられませんことよ!」
「はい。戻ったら初ライブの練習を行いましょう」
「さっきの子、お宝だってのにミクになんも反応してくれなかったにゃ……」
「あはは……大丈夫ですわ。きっと」
家路につく3人の人影。
石造りの建造物を抜け出し、エリシアは伸びをしながら考える。
(一体、どうして--タケウチさんはマスターピースの事を知ったのでしょうか)
「どうなさいましたか?エリシアさん」
「いいえ、少しだけ考え事をしていただけですわ」
彼女の疑問に。答える者はいなかった。
※ ※ ※ インタールード ※ ※ ※
GM:では、最後にマスターシーンです
エリシア:わかりましたわ
グラスウェルズの王都ベルクシーレ。
王城の内部。
豪奢な部屋の中、一人の男が報告を受けていた。
「……そうか、最早戦争は不可避ということか」
「はい。オスウィンはすでに兵を集めており。特殊部隊『ファントムレイダーズ』を結成した。という話も出ております。メルトランドは風前の灯かと」
「防備はあるだろうが、あの国家を守れる君主はいない。一度持たせたところで墜ちる。か」
「ええ。ですが--『グラスウェルズの勝利』だけは。存在しないでしょう」
「知っている。知っているとも」
男--アンリは読み終えた報告書を丸めつつぎりりと歯の奥を噛む。
「オスウィン。お前には処刑台がお似合いだ……!」
そのつぶやきを聞くものは、報告をした部下だけだった。
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