第4話 出発の日
「未知線路の向こうにいる俺の母親を殺してやってほしい」
「え?」
「人や列車が帰ってこんのは、多分俺の母である魔神が人の命や列車を使って未知線路を拡大させとるんや。俺の母親は多分、この国に縛られとる」
「それも真理の目……?」
「まあ、だいたいはな」
報酬は?と書きたいけど新島さん相手に聞けるはずもなく、そのあとは適当に話して自分の寝台車に戻って寝た。金を生まない働きはしたくないんだけどなぁ。
翌朝7:00。列車が再び動き出した。俺は持ち場の銃座に座り臨戦態勢に入っていた。
それにしても死を前提とした部隊編成なのは知ってるがこの屋根のない台車に機関砲と銃座をくっつけだけのような質素な作りは本当にやめてほしい。寒い上に歩き辛い。気温は15度くらいあっても走ってりゃそれなりに寒いんだよなぁ。
周りは緊張に包まれていた。どうせ死ぬのに緊張なんかするなよなー、と思っていたが境界線が近づくにつれて俺自身も体が強張るのを感じた。
島の端まできたらしく前を見れば橋と海、後ろを見れば六甲大陸が見えるという壮観な位置にいた。時刻は10:32。天候、快晴。
境界線まで10キロもない。
そして、境界線を超えた。何があるというわけでは無かった。あるのは赤いラインだけ。
越境して5分ほど立って異変が起き始めた。
「真田がいねぇ!!!!」
誰かが絶叫した。たしかに戦闘列車の銃座に真田はいなかった。それでも列車は止まらない。
「郡山が!」「鹿島が!」「櫻井が!」
次々と人が消えていった。なるほど、新島さんの言っていた事はこの事か。列車の上は半狂乱な状態だった。誰かが運転室に行ったらしい。そこでもまた絶叫が起こる。
「隊長も機関士も無線の西谷もいねぇ!!」
たしかに出発前は運転室に入っていたし、誰も落ちたとかの事故を見た人はいない。
「どこにいやがる!!」
誰かが機関砲を撃ち始めた。そして一斉に、堰が切れたように皆が乱射する。しかし、その銃声も少しずつ減っていった。
気がつくと銃座に座っているのは俺だけだった。俺も狂ったように銃を撃っていたが、弾切れを起こし冷静になれた。新島さんに言われたことを思い出せた。
「新島さんの母ちゃん、だろ?」
「ナンバー66」
目の前に現れた。まるで霧の中から人影が出てくるように。
「たしかにナンバー66を産んだのは私だ」
「そうですか、すみませんが生きて帰してくれませんかね」
「私は人間王に縛られてる立場でね、生きて帰す事は許されていない」
「なら、殺すしかねぇか」俺は小声で呟いた。
腰のホルスターから拳銃を抜き取り、新島の母に向かって銃口を合わせた。
「うん、殺されて当然だ」
白いドレスを着ており、ツノの生えたこの女。たしかに魔神だ。しかも、結構いい血を引いている。しかし、気になるのは両手に手錠をしている点だ。
「その手錠なんですか」
「これか?これはこの世界から逃げれないようするために人間王に付けられたものだ」
閃いた。それ壊せば俺は誰も殺さず、無事帰れるのでは。
「ならまずそれを壊してみますか!」
彼女に向かって歩く。
「やめろ、近づくな。手錠を壊したって駄目なんだ!」
「なんでぇ」
「呪いが、身体に染み付いてる」
「やらないよりやって後悔が主義なんでね」
手錠は両手間ではなく、まるで釣竿の糸のように地面と繋がっていた。とりあえず、右手を握り鎖を撃った。鎖は切れた。その調子で左手の鎖も切る。
「無駄なんだ、大人しく私に殺されるか殺すかしてく......え???」
突然、新島母が素っ頓狂な声をあげた。
「どうしたんですか」
「呪縛が......ない。切れてる」
「おう、そりゃ切りましたからな」
「いや、鎖じゃなくて!呪いの方だ!!」
「え????なに???えぇ???」
「非常に嬉しいな!何十年ぶりか!呪いが無いなんて!」
「まあ、そりゃよかった。どうでも良いんだけど、済んだようなら帰してくれないですかね。俺、帰りたいんですけど」
「帰すのは良いけど、帰ったところで良いことないぞ。多分、人間王に君は追われる事になるだろう」
「めんどくさそうですね」
「そうだな、途方もなく面倒だ」
「はぁ〜、人間王って誰か分からんけどさ。多分、初期ロット狩りみたいなのをまた味わうんだろ〜?嫌だなぁ、あれ。あいつらってどこにいても襲ってくるんだよなぁ」
「お前、7013だから初期ロットじゃないだろ」
「いや、70は後付けです」
「なら、13か。あぁ、なるほどね」
新島母はやけに納得した顔をしているが俺にはさっぱりだ。
「君、母親の名前しってる?」
「いや、知らないですね」
「君の母親は戒陽姫っていう人だ。この人は魔術を無効化する魔神なんだよ」
「だから、その呪いも俺には解除できたと?」
「そういう事だ」
「んで、これからどうすれば良いんですかね。俺は」
「私と一緒に魔神世界に連れて行くこともできるし、六甲國に仲間と返す事もできる」
「私はどっちでも良いぞ」
そう新島母は付け足した。さて、どちらを選んだものか......。
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