第2話 前線基地の新島さん

 第四壁と第五壁を抜けて第六壁まで残り七〇キロと言う地点まで来た。第六壁を抜ければそこは六甲國防衛線の最前線だ。

 時間は一九:三〇、夕食の時間だ。我々兵士は食堂に集められ硬い紙に包まれた硬いパンと同じような梱包のされ方をした「栄養バー」というえらくずっしりしたモノを二つ手渡された。

「まあでも前線の手前にいるっつーのに全然魔獣はいないんだなぁ」

と九ちゃんが言った。

「それほど前線が侵入を防いでくれてるんだろ」

「はー、俺も前線勤めが良かったぜ」

「そう言うな、みんな思ってんだからさ」

「そうだな。悪りぃ」

 空は夕刻、一番星が小さく眩しく光っていた。

『二一:〇五、北部方面隊前線基地到着予定。停車次第すぐに進行方向の左に整列するように』

 偉そうな声で隊長が放送を行った。

一時間もすれば石とコンクリートで作られた第六壁を抜けて、前線だ。


 気がつけば第六壁を抜けて最前線区域に入っていた。ここら辺にきて急に線路の脇で待機している線路保守作業員やその車両を見るようになった。余程、ここら辺の線路は破損するようだ。

 二一:〇〇にもなると基地が見えてきた。砂漠のような空間に群れのように小さい光が集まっていた。

 しばらくすれば列車は止まり我々は「ブーッ」という古臭いアラーム音と共に列車を駆け下り整列をした。

 

「第三七次越境調査隊、以下三四名到着しました!」隊長がこの基地の指揮官のような人間に敬礼して叫ぶ。

「ご苦労。出発までの間ゆっくりしていくといい」

 そう言うと指揮官は隊長と握手をした。 

 解散が命じられ、特にやることがないので基地内を軽く散歩することにした。列車から見た時は暗く見えたが、いざ歩いてみると意外と明るい。テントだけでなくコンクリートの建物も多く見られた。

 暫く歩くと小道の真ん中に人だかりが出来ているのを見つけた。興味本位で近寄ってみると、人の囲いの真ん中で二人が喧嘩していた。

 一人は身長二メートルは超えていそうで、全身が肥大化した筋肉で覆われている男。もう一人は身長は一七〇センチほどで痩せ型。しかし、何か術を修めているらしく普通の喧嘩スタイルではなかった。この男には「6085」とタトゥーが両腕の付け根に彫られていた。

 巨人には「666」というタトゥーが首に彫られている。最初期のロットか。

「これはどういう喧嘩だい?」

俺は気になり目の前の兵士に聞いた。

「666の新島さんと酒を賭けて喧嘩するんだよ。勝ったら二本飲めるけど負けりゃ一本も飲めねぇっていう喧嘩だ」


666が試合のゴングが鳴ると同時に6085に向けて突進した。6085は666に回し蹴りを喰らわせるがびくともしない。6085は青ざめる。666は左手を振りかざし張り手を喰らわした。6085は頭から一回するような勢いでぶっ倒れた。

「ありがとなぁ!ビールは貰っとくで」

そう言うと新島と呼ばれる男はクーラーボックスから酒の瓶を二本、つかみ去って行った。

「やっぱ強えな。新島さん。ハチ(6085のこと)生きてるか?」

「生きてるよ。めっちゃ痛えけどな」

「ハハッ。新島さんのあの張り手は喰らいたくねぇや」


そんなやりとりが円の真ん中で行われていた。


「新島さんねぇ......」

 別に俺は喧嘩は強くないが、新島という人間に多少の興味が湧いた。後を追ってみよう。

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