新島鉄道 零章

KO=李

第1話 第三七次越境調査隊 「選抜」

 「私じゃいかんのか」このように酒の席で言葉を吐いたのは井原屋だった。缶ビールを片手に赤らめた顔で目を俺に向けて言った。「私じゃお前の彼女にはなれんのか」

「いや、えっとだな。俺は明日の夕方から死にに行くんだ。ここで付き合ったとしてもお前は絶対に悲しい思いしかしない」

「一三は死になんぞせん」

 東部の田舎のなまりが強い彼女の声が強く胸に響く。そりゃ、俺だって死にたくねぇさ。

「私はお前の......その......"相手"にもなれる......だから......!」

 井原屋は余程、俺に気があるらしい。女の子にこんな事を言わせている自分が情けなくなるほどに、井原屋の顔は逼迫していた。

「お前が一ヶ月後に俺が生きている事を想像してくれてるなら、帰ってきた時に返事をするよ」

 俺はこの後、友人と売春街に行って童貞を売り渡す。それで俺の人生を締め括る。そう召集令状が渡された時から決めている。

「今しろ!今、私がお前の初めてを奪ってやる」

 そう言うと井原屋は俺の胸ぐらを掴み下から睨んできた。

「はっ、ふざけんな。お前は"純血"なんだ、このふざけた体制が終わったらこの街を出て幸せになりゃ良い。混血となんかヤってみろ。二度と純血には戻れねぇ」

そう言うと俺は井原屋を突き放し、売春街に行ったのだった。工房を出る前まで井原屋はついてきたが、気付くといなかった。


 「我々は今から『未知路線』の開拓工事と防衛線拡大の為に前線への物資運搬を行う、我々が行く(逝く)意味は魔獣に侵された大地を取り戻す為!!!そして、新たな領土を得るための!!!この国の為の我々が出来る最大限の献身だ!!!!心して行え!!!!」

軍部は出発式を関係者(と言ってもくらいの低い監視員しか来ない)以外、家族すら入れない倉庫でこの台本を越境部隊(混血で作られた死を前提とした部隊)の隊長に叫ばせる。

 

 倉庫の高い位置にある窓からは夕日が染み込んでいた。これから乗る列車は二五両編成の貨物列車で機関車一両、燃料車一両、兵士が眠る寝台車と食堂車が一両ずつ、機関砲車が五両、未知線路の資材の乗った車両が二両、残りは全て前線部隊への支援物資といった感じだ。はっきりいって我々はただ死にに行く。死ぬと感じる理由は帰還率が0%だからだ。これに尽きる。

 運転手と隊長、無線兵の数人は機関室へそれ以外の兵士は寝台車に乗り込んだ。

 ただの笛も鳴らされずに一七:〇〇:〇〇定刻を迎え列車は動き始めた。寝台車は長いマットが左右三段ずつ配置された素晴らしい車両だ。本当は百二十人くらいを一両に押し込めるらしいが三十人くらいしかいないので結構広々と寝ることができる。


 明朝五:〇〇、激しいアラート共に起こされた。数秒後には車両内に「敵出現、進行方向五十度、魔獣、総員配置」

ここはもう安全地帯である第三壁の外であると言うことを実感した。外を見れば第四壁か森、古びた廃墟しかないからだ。


「よー寝れたか?一三ォ」

「朝から元気だなグッさん、車輪の音が酷くて寝れなかったよ」

「ほーか!俺はぐっすりや!」

ガハハ!と笑いながらグッさんは担当の機関車両へ歩いて行った。薬でもキメてんのかな。

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