うどん巡り

「旅に出たい」


 と、何気なく本心をFacebookに投稿した。


 仕事が終ってから、Facebookを開くと「旅に出たいと思った時が、旅に出る時」とコメントがあった。ちなみに、インスタよりもFacebook派。見え方を気にせず載せれる方が気楽で好きだ。


 私はその言葉で走り出した。


 そこからは早かった。車の免許がないから、沖縄は無理だな。何より女性一人で沖縄なんて、親が許すはずもなく。でも、新幹線ではなくて、飛行機に乗りたかった。私は、離着陸をただ見るだけでも退屈しない程、飛行機が好きだ。

 飛行機で行けて、南の方。北の方は、両親が北海道出身だし興味が薄かった。


 決めた。四国にしよう。プチ遍路というものをしてみよう。それで、うどんをたらふく食べよう!


 一人用のツアーに申し込んで、9月の休日に有給休暇をくっつけた。大型連休は避けた。人も多そうだし。


 まず、『一生に一度はこんぴらさん』といわれるところに行ってみないと。職場の人からお守りをお土産に頼まれてるし。そんなことを考えながら空港のカフェでコーヒーを飲む。あ、飛行機は少し早めに搭乗口で待たなきゃいけなかった。あんまりゆっくりもできないな、とコーヒーを飲んで立ち上がる。


「いってきまーす!」と飛行機の写真と共にFacebookに投稿すると、「え?一人!?」「マユが一人で旅行に行けるようになったなんて……」「大丈夫?」と友人たちが驚いていた。

 旅行ぐらい一人で行けるわよ!しかも、国内よ!?何を心配しているんだよ。全く。


 そんなに、一人じゃ何も出来ない子に見えてたのかな。と、今までの自分を振り返る。

 ……心当たりはゼロ。私、子供じゃないし。


 とりあえず高松空港に無事到着。親に連絡しておくことにした。連絡しないと、すぐ心配されるから。一人っ子はこういう時、ちょっとめんどくさい。


 東京と違う空気。景色も違う。全部キラキラして見える気がした。光ってるものなど何もないのにね。旅って不思議。全然違うものが見える。


 夕方着いたから、そのままホテルに向かうことにした。高松駅前行きのリムジンバスに揺られ、温泉にでも入ろうとウキウキしたし、東京とは違う景色に窓にずっと張り付いていた。いつも何かしら音楽を聴いていたのに何も聴かずに、ただバスから外を眺めた。


 ホテルに荷物を置いて高松駅前を散歩してから、うどんでも食べましょうかねと軽装で出てきた。

 すると、高松駅前で「お姉さん、今、何してるんですか?」と声をかけられた。キャッチだ。キャバクラとかの。いつもなら無視するところだけど、ちょっと無愛想に「観光です」と答えてみた。すると、声をかけてきた若い男性は驚いた様子。

 これで諦めて「あ、そうですか」と、そそくさと去っていくはず。


 しかしながら、男性は「そうなんですか!どこからですか?」と話を続けようとした。心の中で「お前は仕事をしろよ!」と思いつつ、「東京ですよ」と今度は愛想よく返事した。


「いいなぁ!東京!僕、行ったことあります!有名なうどん屋さん!」


 ……え?うどん県に住んでいながら、わざわざ東京のうどんを?彼が見せてきた写真には、六本木にある有名なうどん屋さんが映っている。

「あぁ、美味しいですよね。そのお店」一度だけ行ったことがあったから、そう答えた。正直味は全く覚えていないし、私にとってはまた行こうとも思わなかったお店だけど。


 そうして少し話をして「楽しんでくださいね」と、彼は笑顔で送り出してくれた。かわいい笑顔だった。きっと年下かな。「お仕事、がんばってくださいね」と、私はまた歩きだした。

 ……彼が年下だとしたら、もう少しちゃんとした仕事について欲しい。もったいない。ちょっと余計なお世話を考えた。


 お土産やさんで適当に買い物をして、帰りにうどんを食べる。東京のうどん屋さんと違って、量が少なめとか選べるから、色んなお店で食べられる。いいなぁ。楽しいな。


 あ、そっか。


 こういう時、大体誰かが私の食べたいものとか飲みたいものを代わって店員に伝えてくれてた。だから、友人たちに心配されてたのね。でも、もう平気。言える。ちゃんと注文できる。


 次の日、朝ご飯はホテルに頼んであったバイキング。うどんが自分で茹でられる。朝からホテルのうどんか、とも思うけどほんの少しだから、茹でてみて食べる。旅先では普段の生活が嘘のように活発化される私の行動力は、朝ごはんに顕著に現れる。

 お米と納豆とスクランブルエッグとサラダにベーコン…油っこいのは朝から重いから、ベーコンあるからソーセージ要らない。お味噌汁も要らない。さっぱり系の和洋折衷でチョイス。おっと、牛乳も飲もう。旅行には朝牛乳が合う!

 朝、牛乳飲むなんてことは普段なら皆無。冷蔵庫にない日だって多い。


 こんぴらさんに行く。荷物はそこそこに。なんか、長い長い階段をのぼることになるみたいだから。普段ハイヒールばかり履いてるけど、今回ばかりは、こんぴらさん用にペタンコの靴をわざわざ買った。


 最初は石畳。色んなお店が左右にあって、目がお店の商品を追いかける。ここからが本番!らしきところには、『かご屋さん』があって、かごに揺られてのぼることができるみたい。

 でも、そのお仕事をしている人を見たら、何とも言えない気持ちになった。会社勤めのお仕事ができる人たちには見えなかったから。


 変な差別はしたくないのに、目をそらしてしまった私は自分を戒めるかのように、金比羅宮を目指す。杖を借りている人も多かったけど、バッグを右肩にひっかけて、手ぶらでのぼる。


 苦しい。息切れがひどい。途中でベンチがあったけど、座ったら動けなくなりそうで素通りした。できるだけペースを乱さないように歩く。

 それでも息切れはひどい。ペットボトルのお茶を飲むけど、天気が良くて暑くて冷たいお茶が欲しかった。


 そうしてなんとかのぼりきった景色は、達成感も相まってとても綺麗だった。スマホで何枚写真をとったことか。

 お参りを済ませてから、『幸福の黄色い御守り』と『ミニこんぴら狗』がセットになったものを自分用とお土産にいくつか購入する。購入っていうのも違うか。まぁいいや。

『こんぴら狗の開運みくじ』をひいてみて。おみくじの中には、金色の狗がいた。おみくじの内容はあとで見ればいいやと大事にお財布にしまった。


 しっかしまた、このすでに筋肉痛になりかけている足で、階段をおりなければならないわけだ。どこまでも見渡せそうな景色を眺めながら、ちょっとブルーになる。

 あ、石畳のとこにうどん屋さんがあったな。冷たいうどん食べよう。案外、私の頭は単純なようで。すたすたと、足を止めることなく、おりて行った。


 おりきってから、うどん屋さんで冷たいうどんを頼んで、竹輪の天ぷらをセルフで取ってお皿にのせた。いなり寿司は好きだけど、今はいいや。冷たい麦茶が飲み放題なのが嬉しい。


 どこのうどんが美味しいとか、ガイドブックには色々載っていたけど。正直、どこでも美味しい。うどん県で食べるうどんは、どこでも美味しい。味音痴と言われようが構わない。

 むしろ、不味いうどんって、どんなの?歯応えがいいものが好きだの、味が染み込んだ軟らかいのが好きだの、みんな好みがあるでしょ。


 だから、ここで食べるうどんは、ここの良さが詰まったうどん。何でも美味しくいただきます!


 でも、さすがに疲れちゃったから。


 プチ遍路はまた明日。どういう風にしたら効率よく回れるかはホテルに帰って考えるとして。今日は温泉に入って、それからまたホテル周辺をぶらついて、また、うどん食べよう。高松駅前の先に高松築港があったな。海も見よう。

 あぁ、親にもおやすみの連絡しておかないとね。一人っ子は、結構めんどくさい。


 けどとりあえず、食べ飽きるまで、うどん食べようっと。


 結局、うどんは東京に帰るまで飽きなかった。

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