第40話 たった一つの方法

 校門へ向かうと、太刀を持った楓真がいた。

「久しぶり、というわけでもないな」

「そうね、しばらくぶりってところね……」

 二人の会話は、どこかぎこちない。互いに殺し合いを有利に進めるために腹の中を探り合っているようだ。

 楓真の能力をきちんと把握しなければならない。

 事前に植え込みに隠した石を三個手にすると、そのうちの一つを楓真へ投げつけた。

「無駄だ!」

 そう叫んだ楓真の言う通り、彼の眼前で砕かれる。その瞬間を加速して見たが、やはり映像が飛んだように石が壊れる瞬間を見ることができなかった。

 しかし、ここまでは想定内である。一定の範囲内に入った物を迎撃する、ということを確認すればいい。

 続いて、天音は髪の毛を数本抜くと石と一緒にハンカチに包み、先ほど拾った石を一緒に二つ同時に投げつける。

 再び加速して観察する。すると、今度はハンカチで包んだ方の石が先に斬られ、もう一つの石は遅れて真っ二つに割れた。

 彼の能力は自動で発動する能力であることは間違いないが、より具体的なことも判明した。


 ——


 それならば、前回の戦いの際に腕を斬り落とされた説明にもなるだろう。ナイフの方が先に楓真に近付いたが、彼の能力は人体を優先するため、腕を攻撃するという現象が起こったのだ。

 おそらく、武器を弾くよりも相手の体を斬り付けた方がダメージが大きい、ということから優先度が決まっているのだろう。

 そして、石の一つが遅れて破壊されたことからも、連続で発動はできない。同時に攻撃すれば、どちらか片方しか対処できず、わずかな隙が生まれるのだ。

 自動迎撃、とも呼ぶべき能力だ。

「俺の能力が分かったみたいだな」

 能力を相手に知られてしまうということは、戦いにおいて不利となる。対策を立てられてしまうし、場合によっては負けに直結してしまうことだってあり得る。

 だが、楓真は落ち着いていた。

「能力が知られたところで、俺に勝てるか?」

「さあね……」

 同時攻撃が有効であることは分かったが、天音に仲間はいない。せめてナイフがもう一つあれば、状況は違ったかもしれない。

 天音にはナイフが一本と加速能力がある。そのどちらもが彼の自動迎撃の前では歯が立たない。ナイフは太刀の長さには勝てないし、どんなに素早く動いても瞬間的な迎撃によって近付いたら斬られる。

「天音、いい加減に諦めろ。今なら苦しまずに殺してやる。首をきれいに落とせば、苦痛は少ない」

 楓真の表情には、絶対的な自信が滲み出ていた。

「残念だけど、投降する気はないの……死ぬなら戦って死ぬ」

 弱さを見せられない。天音はまだ諦めてはいないのだ。

「お前の能力はよく分からんが、近接戦闘用の能力のようだ。でなければ、みっともなく石なんて投げないはずだからな」

「その通り……でも、それが分かったところでどうだって言うの?」

「重要なことさ。俺の能力は近接戦でもっとも威力を発揮する」

「……自動迎撃」

「予想はついているようだな。それで、どう戦うつもりだ?」

「もうすぐ見せてあげる!」

 そう叫ぶと天音は加速して、楓真から距離を取った。


 彼女が辿り着いたのは美術室であった。

 どうして美術室を選んだのか、天音自身にもよく分かっていない。ただ、一番安心できる場所を考えたとき、真っ先に美術室が浮かんだのだ。きっと過去に何かがあったのだろう。

 でも、何があったのか、その記憶がない。誰とどんな話をしていたのだろう。その片鱗すら思い出せない。

 覚えていなくても、天音が美術室に来たのには理由があった。楓真と戦うための準備のためである。

「大丈夫……きっとできる」

 言い聞かせるように呟いた。

 万全の作戦ではないかもしれない。必ず勝てる保証もない。それでも、賭けてみるしかないのだ。

「これが……もっとも確実……たった一つの方法……」

 荒くなる呼吸を静めるために深呼吸をすると、頭の中に思い描いている手段を実行に移した。

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