第27話 バンディットの変化

 奏と冬矢は、天音と斗亜を学校近くのカフェへと呼び出した。

 本当は休日にまで呼び出して自由を奪いたくないのだが、バンディットの戦い方が変わった今となっては、一刻の猶予もない。


 三十分ほどして、二人が現れた。

 どちらも話したいことがある様子であった。

「さて、今日の停止世界を経験してもう分かっていると思うけど、バンディットの出方が変わってきたわ」

 いつもの美術室にいるときとは比べ物にならないほど、四人は真剣な表情である。

「出現の方法ではなく、おそらく戦略が変わった。たぶん今まではどこか特定の場所からバンディットは現れて戦っていたけれど、今日の戦いではビジターに紛れるという戦い方をするようになった」

 すると、斗亜も口を開いた。

「僕も遭遇しました。ビジターだと思っていた女の子がバンディットで、爆弾を使って自爆しようとしていました」

 言いながら、斗亜は苦しそうであった。そのときの光景を思い出しているのだろう。

 すると、冬矢が首をひねっているのに気付いた。

「冬矢、どうしたの?」

「ビジターは?」

「……そのようね」

「俺が覚えていないと言うことは、最初からいなかったのか、助けられなかったのか」

 生き残っているビジターがいないから何とも言えないが、これからはビジターみんなを疑わなければならないようだ。かと言って、過度に警戒するのはも考え物だろう。本来、ビジターは守らなければならないほど弱いのだ。

「もしかしたら……これがバンディットの作戦かもね」

 奏たちは今ビジターに対して疑惑を抱いている。もし、次の戦いでビジターへの守りが薄くなれば、バンディットにとっては有利になる。それでもビジターをしっかりと保護しているのであれば、再度ビジターになりすまして接近する。

 そうやって、こちらの神経を削る戦略ではないだろうか。


 ——だとしたら、質が悪い。


 普段の戦いでさえ、これまでもやっとの思いで乗り越えてきている。それでも何人かは脱落者が出るくらいなのに、さらにビジターを疑うようになったら、どうなってしまうのだろう。

 極端なことを言えば、疑心暗鬼の極致に達してしまい、守るべきはずのビジターを殺害してしまう仲間が現れてもおかしくないのだ。

 根拠はないが、今いる仲間なら大丈夫だと思う。しかし、今後追加されるかもしれない仲間に関しては分からない。


 ——今後は美術室でのカウンセリングも強化していかないとね。


「あと……一つ気になったことがあるんですけど……」

 天音は会話が途切れたときに言った。

「最後に遭遇したバンディット……見間違いかもしれないんですけど、こっちの世界で見かけたことあります」

「……香坂さん、どういうこと?」

「ちょっと前なんですけど、男の人とすれ違ったんです。何か呟いてたんですけど、その人が金色の眼をしていて、勘違いかなって思ったんです」

「その男がバンディットだったのね?」

 天音は頷いた。

 ますます分からなくなってきた。今までバンディットが奏たちの世界へやってきたことはなかった。こちらからバンディットの世界へ行くことはできないのに、その逆はどうしてできるのだろう。


 ——何かが起こっている。


 停止世界と現実世界の両方で、何かが変わり始めている。それは良いことなのか悪いことなのかは定かではないが、バンディットはその変化を利用しているようだ。

 自分たちも変わらなければ、いずれ取り残されてしまう。取り残された先にあるのは破滅、もしくは死である。

「その金色の眼の男は危険だな……優先的に倒しておかないといけない気がする」

 冬矢が言う。似たような武器を使うがゆえに、敵の危険性を察知しているのかもしれない。

「でも、能力が分かりません……それに何か嫌な予感もしますし」

 何かを恐れているように、天音は言う。賢く、能力も強い彼女にしては珍しく弱気である。

「しかし、放っておくわけにもいかない……次に出会ったら、そのときは全員で仕掛ける。四対一なら負けないさ」

「……は、はい」

 何か腑に落ちない様子の天音だが、悩み過ぎも良くない。思考が堂々巡りになってしまい、結論にたどり着けない。

 次の戦いが何かを大きく変える戦いになりそうな予感がしていた。

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