第24話 不意打ち
奏が住宅地で見つけたのは、同じくらいの年代の女子生徒であった。制服が違うから、別の学校の生徒である。
「良かった、無事ね?」
「は、はい……!」
ショートカットの女子生徒で、運動部に所属していそうな身軽ささえ感じる。
「私は大原奏。あなたのお名前聞かせてもらっていい?」
「
「突然のことでびっくりしているかもしれないけど、落ち着いて」
「あの……ここはどこですか? みんなどこに行っちゃったんですか? スマホも電源入らないし……」
綾乃はぎゅっとスマホを握り締めている。
「仲間がショッピングモールにいるの。そこまで行きながら説明するから」
どこからバンディットが襲ってくるか分からないながら、奏は不安を見せないように精一杯の笑顔で話す。わずかでも不信感を抱かれたら、ビジターの行動をコントロールできなくなり、死亡率は一気に跳ね上がる。
「……わ、分かりました」
完全には信じていないものの、頼るべき人もいないから仕方なく、といった感じで綾乃は頷いた。
——今はそれでも構わない。
本来であれば、見通しの良い場所から戦場全体を見渡し、バンディットの数ややってくる方向を仲間に伝えなければならないのだが、今はそれができない。
住宅に囲まれて、鷹の目も発揮できない。
——早くみんなと合流しないと。
ビジターがいるから不用意に武器を出すこともできない。目の前の知らない人間が突然武器を出したら、余計に警戒させてしまう。殺されるかもしれない、とパニックを起こすかもしれない。しかし、武器がなければ自分とビジターを守れない。
何とかバンディットに襲われる前に合流しなければならない。
だが、遠くから銃声のような音がして、思考が遮られた。
一気に嫌な予感がした。
そして、それは冬矢の言葉によって的中してしまう。
『冬矢だ! スナイパーライフルみたいな射程の長い武器を持ったバンディットがいる! こっちのビジターもそれでやられた!』
バンディットとの接触が始まってしまった。
まだこちらはビジターの確保をしているところだというのに。
救援に行きたいが、綾乃を放っておくわけにもいかない。
『奏よ。こっちもちょっと立て込んでるの。何とかショッピングモールまで来られる?』
『……頑張ってみるよ』
——彼ならきっと無事に着く。
彼を信頼していたが、同時に自分は冷酷な人間だとも思ってしまう。
「あの……どうかしました?」
綾乃が不安そうに話しかけてくる。
「え、あ……いえ、何でもないの……さあ、行きましょう」
ビジターを引っ張っていかなければならない立場なのに、と思いながら綾乃を見る。
一瞬、その光景が理解できなかった。
綾乃が棒状の物を振り下ろそうとしていたのである。
状況が理解できなかったが、体がとっさに反応した。綾乃の腹部に蹴りを入れると同時に後方へ倒れ込む。
ロングボウを出しながらすぐに起き上がる。
「チッ……外したか」
舌打ちをしながら、綾乃も起き上がり、武器を構え直した。
棍棒のようであるが、先端には鋭い刃のような物が付いている。メイスと呼ばれる打撃武器であろうか。手足に当たっただけでも骨は粉砕されてしまうし、頭にでも当たれば一撃で死んでしまう。
理解できない事態であるが、考えられることはただ一つ。
ビジターの中にバンディットが潜んでいる。
初めての出来事なので、果たして考えた通りなのかは不明だが、はっきりしていることは、綾乃は敵である、ということだ。
「綾乃さん……まさかね」
「最初の一撃でくたばっておけば良かったのにな」
さっきまでのおどおどしていた綾乃からは想像ができない言葉遣いであった。
「残念だけど、今死ぬわけにいかないのよ」
「それはこっちも同じだ。お前を殺して私は生きる」
メイスを握る手に力が入っている。
互いの距離は二メートルほどであろうか。綾乃はすぐにでも距離を詰めて殴打を繰り出してこられるが、奏は矢をつがえてさえいない。
——ぎりぎり間に合うか。
かろうじて先に攻撃できるだろうが、しっかり狙って放ったわけでない矢が果たしてまともに当たるだろうか。ならば、綾乃から攻撃させた方がいいのかもしれない。しかし、能力が分かっていない現状、それも危険である。
——どちらにしても賭けね。
綾乃が走り出す。
注意するべきは彼女の右手に握られたメイスの動きである。振り上げ、振り下ろし、横薙ぎを見極めて体を動かさなければならない。
距離が一メートルまで詰まった。
依然としてメイスを体の右へ置いている。
——横薙ぎ!
綾乃のメイスが横方向に振るわれる。
もし、奏が右方向に動けば、メイスの軌道上に入ってしまう。左に動いても振り始めに引っかかってしまう。
後ろへ退く。同時に矢をつがえて狙う。
——外さない!
矢を放った次の瞬間、綾乃のメイスが奏の眼前を通過し、ロングボウを粉砕していた。
綾乃が倒れ込む。彼女の頭部には矢が刺さり、後頭部まで一直線に貫いていた。
——終わった……?
彼女が動かなくなっていることを確認すると、奏はショッピングモールへ向けて走り出した。
停止世界での武器を失ってしまった。一度破壊されてしまった武器は、次の戦いまで復元できない。鷹の目があるものの、戦闘面においては無力となってしまったのである。
だが、それよりも今は伝えなければならないことがある。
『奏よ! バンディットはビジターになりすましているかもしれない! 注意して!』
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