第四章 新たな戦略

第21話 休日

 日頃の戦いで疲れてしまうため、奏は休日に出掛けることはほとんどない。大抵は寝ているか、部屋に閉じ籠もって本を読んでいるくらいしか、休日の過ごし方を知らない。

 休日であっても停止世界はやってくるし、殺し合いを強いられる。いつまでも気が休まらないのだ。

 これまでもクラスメイトの誘いを断り続けてきたから、三年になっても友人が一人もいない。


 ——友達がいても仕方ないもの。


 停止世界のことを相談できるわけでもなく、この状況から救ってくれるわけでもない。どちらかと言えば、奏と関わることで迷惑を掛けてしまうことの方が多いかもしれない。


 ——だったら、最初からいない方が気が楽でいい。


 そう思って、読みかけのミステリー小説を読もうとしたとき、冬矢から電話があった。

『ちょっと出掛けないか?』

 彼の声には、ちょっと緊張したような固さがあった。

「私が普段出掛けないの知ってるでしょ?」

『知ってる。別に遠くまで行こうってわけじゃないんだ』

「じゃあ、ちょっとお茶に付き合ってくれない?」


 電話を切ると、着替えを始める。

 化粧もほとんどせず、お洒落に無頓着な奏であったが、それでも見栄えの良い服を選ぶ。

 デートっていうわけでもないのに、心が躍る。


 ——人間って、意外と単純なのね。


 それでも、誘ってくれたことで少し楽になった。いつもより明るい服を着るとか、軽く体を動かすとか、そんなことで人間の精神は安定する。


 お気に入りのワンピースを着て、冬矢との待ち合わせ場所へ向かい、学校の近くにオープンしたばかりというカフェへと入った。店内は休日と言うだけあって店内は混んでいたが、学生の客は少なかった。

 さすがにカフェのために休みの日まで学校の近くに来ようという学生は、案外少ないのかもしれない。

「悪かったな、休日に付き合わせて」

 冬矢が言った。

「気にしないで。どうせ読みかけの本を片付けるくらいしかやることなかったし」

 いっそのこと、連れ出してもらった方が気晴らしができる。

「香坂の言ったことがどうにも気になってな」

 休み前、天音がある疑問を口にした。

 なぜバンディットは最初から戦い方を知っているのか、と。

「そうね、確かに気になるわね」

 その場ではすぐに答えを出すことができなかった。

 奏は今まで生き残るために考えてきたが、バンディットの事情についてはあまり深く考えていなかった。考えたところで相手の本拠地に攻め込めるわけでもないから、気にしなくなっていたのだ。

「俺たち、相当不利な戦いをしているんじゃないか? こっちは限られた人員で能力の発現にも制限があるが、バンディットにはそれが見られない。みんな最初から戦闘できる状態だ」

「相手のビジターだって、最初は隠れているのかもしれないけど、それにしては不自然よね。こちらと同じじゃない。まるですでに訓練された人たちを送り込んでいるみたい」

「とは言え、どこかにバンディットが潜んでいるわけでもないし、俺たちから打って出るわけにもいかないからな……」

 いくら考えても答えは出なかった。

 ストロベリーパフェを注文して糖分を補給しても、結論に達することはない。

「とにかく、戦い抜くしかないわね」

 この先、戦い続けて結末が分かるとは限らないが、どのみち生き抜かなければ知ることもできない。そもそも結末がはっきりするのかさえ定かではない。もしかしたら終わらない戦いなのかもしれない。それでも死んでしまってはお終いなのである。

「そうだな……生き残ろう」

「いつ停止世界がやってくるか……」

 彼女がそう言いかけて、強烈な耳鳴りを感じた。


 気が付くと、カフェには奏と冬矢以外の人は誰もいなかった。

「休日まで殺し合いとはね……」

 停止世界での戦いは、こちらではコントロールできないから、戦いたくないときにも起こる。

「戦い抜くしかない、とは言ったけど、こんなに早くちゃ覚悟もしきれないな」

 冬矢はそうぼやくが、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。

『奏よ。如月くん、香坂さん、今どこにいる?』

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