第17話 土の中

 天音と合流した斗亜は、校舎の中を走っていた。

「大原さんが屋上から離れたってことは、バンディットがみんな学校にやってくるってこと?」

 天音の問いは正しい。屋上からの索敵が使えなくなってしまうというのは、こちらの不利を意味している。敵の動きを読みづらくなり、不意を突かれる可能性が増す。

「それだけじゃないよ。援護射撃もなくなるから、僕たちは自分たちの力で戦わなきゃいけない」

 今までは、奏の援護がしやすいように場所を移動して戦っていた。一対一のように見えて、実際には二対一の状況を作り出していたのだが、今回はそれができない状況が生まれてしまうかもしれない。

 なら、天音と一緒に行動した方が得策である。

「そう……厳しい状況だね」

 天音がナイフを握り直す。彼女も緊張しているのだろう。


「ただ、前回とは違って天音には武器と能力があるから」

 彼女の能力は非常に強力である。使いこなせば、接近戦では敵無しと言ってもいいだろう。二人で力を合わせれば、きっと戦い抜ける。

「でも、自分の能力を完全に理解はできてないよ」

「分かってることは?」

「使用時間は一秒くらい……いや、もっと短いかも。連続使用はできなくて、加速後数秒は能力を使えないってくらいかな」

「それだけ分かっていれば十分だよ」

「もしかしたら使用限界があるかも……使った後に疲労があるの。回数が決まってるのかもしれない」

「じゃあ僕がサポートするから、この戦いでどのくらい使い続けられるか、やってみて」


 あとはどこで戦うかだ。

 校舎の中では死角が多過ぎる。前回のように、壁を破壊してくるバンディットがいないとも限らない。

 上の階ではガリガリと何かを壊しているような音がしている。壁を突破する敵がいるようだ。

「中庭へ出よう。校舎内は危ない」

 二人とも近接戦闘を得意としているから、見通しが良すぎる場所に出てしまうと危険が増えてしまう。中庭くらいなら広さもちょうどいいだろう。

 渡り廊下と校舎に囲まれた中庭は、狙撃者から身を守り、近接戦闘も可能なほどの空間もある。

 廊下の窓を開けて飛び出すと、土の上に降り立った。

「周囲を警戒して!」

 斗亜はそう言いながら前後左右、そして校舎の上も見る。どこからバンディットが来ても不思議ではない。


 ——果たして、それでいいのか?


 不意に疑問に思った。バンディットは自分たちと同じ動きをするとは限らない。

 足下に異変を感じた。

「危ない!」

 ジェットブーツから爆炎を放ち、反射的に飛び退く。

 今まで斗亜がいた場所の地面が盛り上がったかと思うと、土の中から男が飛び出してきた。手には大きな爪のような物を身に付けている。

 気付くのがわずかでも遅れていたら、今頃はあの爪に裂かれていたのだろうか。考えただけでゾッとする。

 天音も彼の声に反応したのか、加速して回避している。


「こいつは僕が……天音は周りを見て」

 斗亜は身構える。同時にバンディットの分析を始める。

 両手の手甲から二〇センチほどの爪が四本ずつ伸びている。足下には何も付けていないことから、武器は手の爪だけだと判断できる。能力は土中を移動する能力だろうか。

 だとすれば、奇襲に失敗した段階で相手の長所は殺している。

 相手の出方を見てから行動したかったが、仲間と合流される前に決着を付けなければならない。

 大地を蹴って前進すると、ジェットブーツで加速する。


 ——相手の虚を突いて、一撃で!


 男の顔面に膝蹴りを叩き込む。爆炎で速度が上がった分、威力は爆発的に上昇している。男の顔へ深くめり込み、頭蓋骨を破壊する。

 着地と同時に男を見る。動く気配はなさそうだ。

「斗亜、動かないで……」

 天音が言う。

「たぶん囲まれてる……」

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