第15話 早朝の停止世界

 能力の確認をした二日後の朝、登校中にあの耳鳴りがして、気が付くと停止世界にいた。

「ああもう! 朝からなの!」

 殺し合いをした後、一日を過ごさなければならないのは、想像しただけで嫌になる。


『みんな登校中? 学校にはどのくらいで着きそう?』

 奏の声がした。

『冬矢、五分もあれば学校に着く』

『斗亜、ジェットブーツがあるから八分以内には着きます!』

 自分はどのくらいかかるだろうか、と天音は考えたが、歩けば二十分以上は必要だろうか。

『香坂さん?』

『あ、はい! 二十分くらい……走ればもう少し早く着きます!』

『あなたは加速できるでしょう?』

『そ、そうですよね……』

『能力に慣れる意味もあるから、加速しながら学校に集合して。途中でビジターがいるかもしれないから、周囲を注意深く見るのを忘れないで』

 精神を研ぎ澄ませるようにして、天音は加速した。周囲に動くものがないから、自分がどのくらい加速しているのかは分からない。

 だが、いくつか分かることもあった。能力の継続時間はさほど長くはないのだ。試しに小石を拾い、手の平から落としてすぐに加速してみたが、彼女の腰ぐらいの位置で時間の流れが元に戻った。


 ——現実世界だと一秒もないかな。


 そして、連続使用もできないのである。能力使用後の数秒間はどんなに念じても加速ができなかった。


 ——接近戦では気を付けないと。


 タイミングを誤れば、時間の流れが急激に戻ったスピードについていけなくなるかもしれない。いずれ能力を使い慣れれば使用時間は変わるかもしれないが、今はこの力で戦っていくしかない。

 生徒が登校に使う大きな通りへ出て、学校へ向かう。いつもは制服姿を見かける時間だが、今は誰もいない。


 ——学校へ向かわないと。


 武器と能力を得たとはいえ、単独で戦うのは危険である。加速しながら校門をくぐったときであった。

『バンディットは四人! 近付いてくる!』

 緊張感のある奏の声がした。

 何気なく振り向いた天音の視線の先に、黒い物が見えた。それは平べったく、薄い板状の物であるようだった。


 ——まずい!


 それは本能的な反応であった。

 反射的に加速した。

 円盤状の物体に刃が付いていた。巨大な手裏剣のような物であることが分かる。加速状態でも速い回転がかかっているのが見えた。


 ——私を狙っている。


 周りの時間の流れが遅くなっているおかげで、思考することができる。実際の時間で同じ行動をしていたら、あの手裏剣でやられていただろう。

 天音は走り出し、校舎の中へ入る。

『香坂さん、危ない!』

 加速が解除されて時間の流れが戻ると、巨大手裏剣はさきほどまで天音がいたところを通過した。あのまま立っていたら、胴体が真っ二つになっていたかもしれない。

『校舎の中に入ってます! すごい速さの手裏剣みたいな武器のバンディットがいます!』

 言ったときには、手裏剣はブーメランのように飛んできた方へ戻っていくところであった。

『バンディットの姿は見えた?』

『見えなかったです。たぶん遠距離から投げて来たんだと思います』

『じゃあそいつは私が対応するわ』

『気を付けてください、あの手裏剣思った以上に速いんで……!』

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